【創作】今日はここまで。

スーパーで働く女の子とロボのお話し
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GARLAND @garlandex

【今日ここ。/03】 ──数時間後。雑務を終えて作業台へと戻ってきたモロトミは、出入り口でヨムとすれ違った。一瞬見えた指が油性インクで黒く汚れていたのは気のせいではなかった。作業台の画用紙の隅っこには可愛らしいモロトミの似顔絵が書き加えられていた。「オイシイヨ!」の台詞付だ。

2016-09-29 23:41:29
GARLAND @garlandex

【今日ここ/01】 クレーム処理も二件三件と連続して重なると、いくら頑丈なモロトミでも、若干の疲れがじわりと浮いてくる。それでもバイザーから覗かせる瞳は、普段と変わらない調子の明るくにこやかな笑みを照らして、来客に向けての挨拶も晴れやかな色合いを見せている。「──おつかれ」

2016-10-14 20:26:22
GARLAND @garlandex

【今日ここ/02】 挨拶に三十度曲げられた腰に、声と共に暖かく小さな手がぽんと触れる。腰を曲げたまま頭だけを振り向かせると、ポーカーフェイスに包まれたヨムの顔がじっと向けられていた。「おつかれ」もう一度ぽん、と腰が叩かれ、ヨムは表情ひとつ変えずにモロトミの横を通り過ぎていく。

2016-10-14 20:28:38
GARLAND @garlandex

【今日ここ/03】 「どうして分かったんでショウカ……」ゆっくりと腰を戻し、モロトミは顎に指を置いて考える。完璧に疲れを隠していたはずなのに、ヨムにはモロトミの疲れがはっきりと見えていたのだ。ポーカーフェイスについては後輩だなあとモロトミは感じ、ますますヨムに興味が湧くのだった。

2016-10-14 20:32:09
GARLAND @garlandex

【今日ここ。/04】 モロトミはいてもたってもいられなくなって、すれ違ったばかりのヨムを追いかける。──が、就業時間を過ぎていたのだろう。階段を降りる手前でヨムの自家用車の激しいエンジン音が店の裏手から響く。モロトミは慌てて窓を開いて「アリガトウゴザイマシター!」と大きく叫んだ。

2016-09-29 23:41:37
GARLAND @garlandex

【今日ここ/モロヨム/01】 休憩所の自動販売機から購入したオイル缶を傾け、喉から燃料タンクに一気に流し込むと心なしか腹の辺りが暖かく感じられた。その余韻に浸っている最中、とんとんと肩を叩かれる。「貸して」ほっこりと温まった感情のままに、何の気なしにオイル缶を渡してハッとする。

2016-11-19 18:45:39
GARLAND @garlandex

【今日ここ/モロヨム/02】 「いけまセン! それはオイル缶ですヨ!」腹の熱が一気に急降下を起こして、モロトミの顔にさっと青が差した。「はい」直後、あたふたと開閉するモロトミの手にオイル缶が戻される。オイル缶には分厚い布カバーが掛けられ、内側には保温用の銀色シートが貼られていた。

2016-11-19 18:46:01
GARLAND @garlandex

【今日ここ/モロヨム/03】 「あ、ありがとうございマス。とても嬉しいデス──」突然の連鎖にあっけに取られ、モロトミはまず凡庸な言葉しか発する事ができなかった。モロトミが選んだオイルは熱伝導が高く、暖房の効かない休憩室においてはすぐ冷えてしまう。それを思ってのカバーなのだろう。

2016-11-19 18:46:06
GARLAND @garlandex

【今日ここ/モロヨム/04】 一方でモロトミの言葉を受けても、ヨムの顔色はまるで変わらない。しんと静まり返った休憩室に自動販売機の稼動音だけが響く。「──アノ」もう一度礼を返そうとしたモロトミに向けて、口を塞ぐようにヨムの手が掲げられる。それはVサインの形をして、視界を覆った。〆

2016-11-19 18:46:16