【キャッツ・ニューイヤー・ケース・ツー】
「……なるほど」部屋の主人、グラスキャットは口を開いた。「場所がなかったからウチを使おうと」「言い出したのはトラベラー=サンです」美しい白銀の髪のニンジャが顔色を伺うようにグラスキャットを見、それから自分の横にいるトラベラーを見た。彼女に悪びれる様子はない。 1
2017-02-13 20:25:23「返信もなかったけど、暇してるだろうと思って」トラベラーの声に、グラスキャットはIRCを確認した。『暇?』の二文字。トラベラーを見る。「何なら場所代払う?」マネーのジェスチャーをしながらトラベラーが問うた。グラスキャットは眉を寄せた。 2
2017-02-13 20:25:53「まあその辺は追い追いでいいよ。……この子は?」「仕事仲間。ウェビー、紹介するよ。この人が『あの』グラスキャット=サン」「エッ、あの?気軽にボクなんかが来て良かったんですか?」「ほら、アイサツ」「そ、そうですね。遅れましたがスミマセン、ウェービーホワイトです」 3
2017-02-13 20:27:47ウェービーホワイトは慌ててオジギした。「ドーモ、グラスキャットです。苦労してそうだね、トラベラー=サンのお守り」「イエ、そんなことありません。トラベラーには助けてもらってばかりで」ふわふわとした髪が首を振るたびに揺れる。「ニンジャになりたての時からお世話に……」 4
2017-02-13 20:32:57「来ちゃったものは仕方なし、ここで立ち話もなんだ。入れてくれる?」「それはグラスキャット=サンの台詞では」ウェービーホワイトが言う。常識人のニンジャだ。グラスキャットは驚愕しつつ笑った。「こっちは物資を運んで来たんだ、歓迎されるべきだと思うが」トラベラーがニヤリと笑った。 5
2017-02-13 20:35:08二人を招き入れながら、グラスキャットはウェービーホワイトに尋ねた。「ネオサイタマ人っぽくないね。もしかしてキョートから来たのかい?」「そうです」前髪を除けながら彼は返答した。赤い瞳が露わになった。「綺麗な眼だね。髪も白いし、もしかしてアルビノ?」「イエ、違います」 6
2017-02-13 20:38:34「じゃあ憑依した時になったんだ」「そうです」「私がニンジャになってから瞳が変わったのと同じ現象だね」グラスキャットは頷き、トラベラー達が持っていた物資を受け取って丸コタツの上に置いた。サケ、スシ、ソバ、それからジュース。三人分にしてはかなりの量だ。「ジュースはありがたい」 7
2017-02-13 20:41:34「にしても」グラスキャットは物資を眺めながら続けた。「どうしてこの部屋に引っ越したって知ってるんだい?」そう、グラスキャットはつい最近治安の良い場所に引っ越したのだ。ヒノモト・ワークショップも近い。「この間つけさせてもらった」トラベラーがあっさりと言った。 8
2017-02-13 20:45:23「エエ……」グラスキャットが呻くのをよそに、トラベラーは温まった丸コタツに滑り込んだ。「これなんか、人が来るの前提で買ったろう?一人用ならもっと小さいはずだ」「まあ、想定はしてた……ましたけど」グラスキャットは頷いた。「大きいコタツの占拠、一回やってみたくて」 9
2017-02-13 20:47:19「コタツ、入ってもいいですか?」「ドーゾ」律儀に尋ねるウェービーホワイトに、グラスキャットは微笑んだ。中性的で可愛らしい顔立ち。女性に間違われることもよくありそうだ。眺めていると、ふと彼の表情が険しくなった。「ニンジャ……二人来てます」グラスキャットには想像がついた。 10
2017-02-13 20:50:07『来客ドスエ』「やっぱりか……行ってくる」「アイ、アイ」既にサケを開けたトラベラーの返答を背に受けながら、グラスキャットはドアを開けた。「ヨッ、遊びに来たぜ」「早く入れてくれねェかァー」そこに立っていたのは、顔馴染みのニンジャ、ジャックポットとソリティアだった。 11
2017-02-13 20:52:19「全く。どういう風の吹き回しだい」「去年の続きッつーか」そういえば去年は二人が勝手に上がっていたのだった。「去年より賑やかになるね。ちなみに物資は」「あるぜェー」サケ、スシ、マンダリン、ジュース、チキン。「ドーゾ」グラスキャットは肩を竦め、二人を招き入れた。 12
2017-02-13 20:55:15「ネコチャン、去年より賑やかってなンだ?」「誰がネコチャンだ。トラベラー=サンとその友達が来てる」「フーン、新顔か」「ウン」話しながら部屋に戻ると、トラベラーが丁度コロナを開けるところだった。「オカエリ、カンパイ!ドーモ、トラベラーです」既に顔が耳まで赤い。 13
2017-02-13 20:57:32「ドーモ、キマってんなァ!」ジャックポットが歩み寄り、そこで足元を見た。三本の空き瓶。トラベラーを見る。笑顔。ジャックポットは足を止めた。トラベラーを見る。笑顔。「ささ、遠慮しないで呑んで!」「いつ来たンだ?」「今」ジャックポットの問いに、グラスキャットが囁く。「マジか」 14
2017-02-13 21:00:56「トラベラー、あの」「ダイジョブ、ダイジョブ」「……なンだァこの状況はァ」ソリティアが呟いた途端、トラベラーが目を輝かせて手を掲げた。「おおっ、手品師=サンじゃん!」「手品師じゃねェー、魔術師だァ」彼はその手を煩わしげに除け、上着を脱いだ。「で、そこのお前は誰だァー?」 15
2017-02-13 21:02:46示されたウェービーホワイトはようやく話せると言いたげな表情で頷き、オジギした。「ウェービーホワイトです。つい先日、キョートから来ました」中性的な声で続ける。「トラベラーのところでお世話になってます」「女同士ならルームシェアも楽だよな」「男です」「ンン!?」 16
2017-02-13 21:04:48ジャックポットは二度見した。言われてみれば、確かにそう見える。声だけでなく姿まで中性的なのだ、無理もない。「しかし、イイ部屋じゃねェかァ」「でしよ?頑張って探したんだよ」ソリティアの言葉に、グラスキャットは声を弾ませた。 17
2017-02-13 21:07:17「治安もいいし、隣人は怖くないしね!」「プハー!」トラベラーがコロナを一気飲みした。「俺も飲むか」ジャックポットが袋から一本取り出し、栓を開けた。グラスキャットはコタツの上にスシを出した。「これで私が買ってきた分は丁度良いな」トラベラーがソバを数えながら言う。「ウン」 18
2017-02-13 21:09:27グラスキャットはジュースをマグに注ぎながらウェービーホワイトを見た。「ところで、ナンデはるばるキョートからネオサイタマに?」「就職です。ヒノモト・ワークショップのヨージンボーをすることになったので」グラスキャットは目を丸くした。「私の行きつけだ」 19
2017-02-13 21:11:03「社長から聞いてます。上客と」ウェービーホワイトは頷いた。「たまたまタイミングが合ってないだけか。店で会った時はヨロシクね」「ハイ」ウェービーホワイトは微笑んだ。奥ゆかしい。「ヤマカ=サンがグラスキャット=サンのことを話していました。素敵な女性だと」「アー……アイツ」 20
2017-02-14 20:00:53グラスキャットは目を泳がせ、頬を掻いた。あまり言われた経験のない事だ、嫌が応にも照れてしまう。「プハー……まァ、ヤマカ=サンはねー」トラベラーがジュースを飲み干し、ニヤニヤ笑った。いつの間にか付けられたテレビは、年末のネコネコカワイイ・ライブを中継している。 21
2017-02-14 20:04:29「良いんじゃない?彼、陽気だし、良い感じにボケるから面白いと思うよ。顔も良い」「私はそういうの……よく分からないんだ」グラスキャットはおずおずと言った。「初恋もまだだし」「フム。ま、独身貴族ってのも良い。私もウェビーが居ない頃は……」「貴女が呼んだんじゃないですか」 22
2017-02-14 20:06:11「付き合ってンのか?」憮然として言うウェービーホワイトに、ジャックポットは尋ねた。その横では、ソリティアがひたすらマンダリンを剥いている。「イエ」ウェービーホワイトは肩を竦めた。「バディ、と言ったところです」「ンンー残念、私としてはいっそ結婚まで……」「トラベラー!」 23
2017-02-14 20:09:09グラスキャットは一同を眺めながら、イズミとの初めての年末を思い出していた。──イズミはグラスキャットの為に自らソバを打ち、年越しに二人でテレビを見ながら啜った。ぎこちないながらも談笑した。親を失ったばかりの彼女にとって、それは何よりも温かく、幸せな心地がしたものだった。 24
2017-02-14 20:12:34