ぴょんと跳ねてさようなら。 ※宇佐DIEジェスト

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うさ @usa_kororin

第七師団の本部のある旭川から遠く離れた樺戸の街を軍服を着た背の高い二人の兵士が歩いていた。どちらも帽子を目深に被っているため顔はよく見えないが、一人は坊主頭をしていて、もう一人は日本人にしては少し色素の薄いふわふわとした頭髪をしていた。二人は付かず離れずの距離を保ちながら歩く。

2017-03-10 02:59:25
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「ねぇ霰くん」とふわふわ頭の方がもう一方の兵士を霰と呼んだ。霰が「なに?新兎」と返事をする。新兎と呼ばれた兵士がため息交じりに言う。「軍服だとやっぱり目立つんじゃない?」この二人は樺戸周辺で見失った杉元一派の捜索をしていたのだ。

2017-03-10 03:03:58
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「目立つからいいんだろ?軍服を着たやつらが居るって知ったら警戒して行動範囲が狭まる。」なるほどね。と霰の作戦に全面的に同意して、それならばと先程よりも堂々と歩き出す。隣を歩く霰の表情をチラリと伺う。「ん?」気が付かれたが適当に誤魔化す。

2017-03-10 07:33:55
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 片倉が軍に造反し、軍によって殺されてからそう時間は経っていない。自分はその場にいたわけではないが、遺体なら見た。霰もいた。がんばったな、と手が血で汚れることも厭わずその体を撫でていたのは記憶に新しい。自分が死んだ時もあんな風に送ってくれるだろうか。

2017-03-10 07:38:22
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 話がそれた。つまりは親友とも呼べる彼の死は霰にとって大きな傷になっただろう事は想像に難くない。気丈に振る舞ってはいるが相当参っているだろう。この子の心はどうすれば救えるのだろうか。ここ最近はそればかり考える。恋人であるこの子の為にする苦労など小さなものだ

2017-03-10 07:41:52
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 考えに耽っていると霰に呼びかけられ、現実に引き戻される。「どうかした?」「俺の話全然聞いてねーじゃん。」ちょっと膨れたように怒る霰にごめんね、と謝って改めて話を聞く。「今日はもう適当な宿とるべ?」「そうだね。移動でだいぶ時間食ったしねぇ。」

2017-03-10 07:45:14
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 街の人に近場に宿はないかと聞いて紹介された所へ向う。そこそこ広さだ。まあ寝て過ごすだけなのだからこのくらいで十分だろう。荷物を降ろして一息つく。明日からの行動を話し合う。まずはそれらしい一行を見かけなかったか聞き込みをする事に決まった。

2017-03-10 07:48:47
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 寝る準備をしていると後ろから霰が抱きついてきた。最近はこうされる頻度が増えたな。そう思いながらも腹に回った腕を撫でてやる。何かを聞くことはしない。今は言葉を求めているわけではないだろう。手袋を外して手を包み込むようにして握る。

2017-03-10 07:56:37
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 自分の軍人らしくない手とは違う、節くれだった指をいじる。そうすると霰はくすぐったそうにぎゅっと握っていた指を開く。腕の締め付けが緩んだすきを見はからってぐるりと体を反転させて霰の正面をとらえ、そのまま抱きしめる。「明日も早いし、もう寝ようか?」

2017-03-10 09:23:00
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 布団は二組の布団をくっつけ中央に体を寄せ合って手をつなぎながら眠る。翌朝にはその手はほどけていたが。

2017-03-10 09:36:03
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 寝間着から軍服へ着替えて、昨日と同じように帽子を深くかぶる。「ボク、帽子嫌いなんだよなぁ。」「髪潰れっから?」「そうそう。」なんてことのない会話をしながら身だしなみを整え、朝食をとる。若干の物足りなさはあったものの概ね満足した。

2017-03-10 09:38:08
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 効率を考えて二手に分かれることにした。夕方には宿に戻る約束をして、互いに手を振りしばしの別れ。ぷらぷらと情報収集をしながら歩く。帽子をかぶっているとは言え、見目のいい方である宇佐は街の女性に囲まれてほとほと困っていた。(どう切り抜けようか…。)

2017-03-10 09:41:36
うさ @usa_kororin

@usa_kororin そんなことを考えていると、そのうちの一人が「そう言えば兵士さんみたいな軍服を着た男の人昨日みかけたわ。」と言った。その声の発生源に顔を向ける。「それって、どこら辺で見かけたか覚えてますか?」あくまで柔和な態度は崩さず、しかし興奮気味に詰め寄る。

2017-03-10 09:44:50
うさ @usa_kororin

@usa_kororin ――女性から聞いた場所はここら辺だろうか。本来であれば今日は一度戻って霰にも報告すべきであるが、もし仮に情報の通り杉元一派がいたとして、彼を見た時に霰が冷静でいられるか…。下手をすれば殺される。そんなことはあってはならない。

2017-03-10 09:47:56
うさ @usa_kororin

@usa_kororin まずは何か野営などをした形跡がないかだけでも探ろうと森の中へ足を向ける。沢の近くの開けた場所を中心に探索すると案外あっさりとその形跡が見つかった。丁寧に始末してはあるが、自分も習ったのだからこのやり方は知っている。

2017-03-10 09:51:30
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 相手は周りを警戒しながら進んでいると予想する。距離はそんなに開いていなさそうだ。そう遠くないところにいるだろう。自分では到底”不死身”に太刀打ちなどできないだろう。だが片倉が少しの間とは言え一緒に過ごした男に会ってみるのも一興。出来る限りの速さで進む。

2017-03-10 09:54:29
うさ @usa_kororin

@usa_kororin (まさかボクにこんな行動力があるとは…。)足跡などがないか注視しつつ、沢を道なりに進む。普段から訓練はあまり真面目に取り組んでいなかったためどうも体力に難がある。「こういうところってアイヌさんたちのコタンがありそうだなぁ。」

2017-03-10 10:28:10
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 以前、霰から教えてもらったコタンがありそうな地形にとてもよく酷似していた。コタンに入られたらさすがに手出しはできないか。その前にどうにか見つけなくては。なるべく足音を立てないよう草むらを避ける。木々の隙間から人影が見えたような気がして立ち止まる。

2017-03-10 10:30:40
うさ @usa_kororin

@usa_kororin さっと木の幹にピッタリ体を付けて身を隠す。人影が見えて方向を見る。(あれは…尾形上等兵殿?)見かけたことのある顔に驚く。近くには顔に大きな走り傷のある男と、丸坊主の男、そしてアイヌの少女がいた。間違いない。彼が”不死身”だ。

2017-03-10 10:33:41
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 何やら尾形上等兵殿と言い争っている様子だ。口に溜まった唾液を飲み下す。(やっぱり霰くんに報告を…)と後ずさった瞬間木の枝を踏み、周囲に乾いた音が響く。(しまった!!!) 「誰かいるのか?!」と”不死身”が声をあげる。

2017-03-10 10:36:42
うさ @usa_kororin

@usa_kororin このまま逃げてもすぐに追跡されて捕まってしまうだろう。諦めて彼らの前に姿を見せる。「どうも初めまして。”不死身”さん」宇佐の着ている軍服を見て警戒する杉元たち。その中でただひとり一人尾形は警戒することなくこちらを見ていた。

2017-03-10 10:39:14
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「貴様、噂の色情魔か?」色情魔。確かに師団内での自分を侮蔑する呼び方だった。間違ってはいないのでその問いに首を縦に振り是、と答える。「どうしてそれがボクだとお思いに?」少し気になったので聞いてみる。「色情魔は髪と目の色が日本人のそれとは違うと聞いてな。」

2017-03-10 10:43:24
うさ @usa_kororin

@usa_kororin なるほど。的確だ。生まれ持ったこの色のせいで小さいころはずいぶん苦労したものだ。そんなやり取りを見せられて多少いらいらしている”不死身”が「その色情魔が一人で何の用だ?」「たまたま見つけたんですよ。あなたたちをね。」

2017-03-10 10:45:45
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「たまたま、でこんなところまで来るかよ?馬鹿言うな。」うーん。ただでは帰してくれなさそうだ。いくら弱いとは言え第七師団の端くれ、今が根性の見せどころではないか。と自分を鼓舞してみるがいまいちしっくりこない。思わずため息が漏れる。

2017-03-10 10:48:19
うさ @usa_kororin

@usa_kororin 「ボクは見た目通り強くはないので、なるべく戦闘はしたくありません。それに鶴見中尉殿が何を考えて、どこに向かっているのかもよくわかってないですよ?ボクは。」何とかこの場を去る口実を作ろうとするが、尾形が小銃に手をかけたのが見えた。

2017-03-10 10:51:05