蛇神さまと宮司さまのお話3

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長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro …私から逃げるのかい。感情を打ち捨てた巨大な虚無が口を開ける。許さないよ、お前は自由になってもう戻ってこないつもりなのだから。弟は一人も欠けてはいけない、すべからく兄を愛さなければいけない。ずっと応えなければと思っていた。柔らかい掌に濡れた目を覆われる。

2017-03-01 08:48:19
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 見なくていい、聞かなくていい。離れなければまた同じことが繰り返されるから。薬研、と兄の狂ったような叫び声が耳に残る。君が大人になって、一人でも生きていけるようになったらまたお兄さんのことを考えればいい。さあ少し眠って。

2017-03-01 17:26:28
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro 暗くて知らない部屋だった。頬がひんやりして、小夜が濡らした布を当ててくれている。…神社の中? うん。俺を食うの? 食べないよ。食っていいよ、どうせ帰れない。帰っちゃだめだよ、ひどいことをされたのに。もっとひどいことになる、兄さんならここに火をつけかねない。

2017-03-01 22:20:18
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep ここが焼けても僕達は困らない。兄様達の力が解放されて、人間が困るんじゃないかな。小夜の兄さん達は?怒ってないのか。何で?兄様達は喜んでる、僕が力に目覚めたから。役目を与えられたから。あまりの違いに呆然とするが、それは小夜が神様だから、ではないのだろう。

2017-03-01 22:34:04
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro …兄さんが放火魔になるのは困る、他の弟もいるんだ。確かに、狼煙をあげたら見つかってしまうね。…何に? 君のお兄さんは危うい、あの執着は悪い心に呑まれてしまう。じゃあどうしたら、俺が逃げても兄さんは諦めない、兄さんの中の俺を消しちまうわけにも…。…できるよ。

2017-03-01 23:47:27
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep ……え?お兄さんだけでなく、他の弟達からも。そんなこと。僕が封じてあげる。その代わり、少し離れようね。薬研は兄弟のことが大好きだからお兄さん達に忘れられてもきっと近付いてしまう。…分かった。それから、僕のことも忘れてね。え?僕を見ても思い出してしまうでしょう。

2017-03-02 08:18:47
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro …そんなの、せっかく友達になれたのに、俺を助けてくれたのに。それがいいんだ、君はすぐに大きくなって僕を忘れたんだ。そんなこと、ない。僕はずっと覚えてるから。嫌だよ、小夜。…一度出会っただけなのに友達になってくれたんだから、どこかでまた会っても友達になれるよ。

2017-03-02 12:30:08
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 嫌だ、小夜、小夜。…薬研兄ちゃん?どうしたの。…健。かーちゃん、薬研兄ちゃん起きたよ。おはよう、朝ごはん出来てるわよ。…母さん。どうしたの?悪い夢でも見ていたの?…夢?違う…あれ?寝ぼけて。にーちゃん大学そんなに大変なのかよ、今日は遊んでくれるって言っただろ?

2017-03-02 16:16:45
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro 遊ぶったって俺の金でゲーセンだろ。今日こそ勝つ! 健、シャツの裾出てる。大丈夫なの? 目玉焼きの皿を運んでくる母に大丈夫だよと答えながら椅子に座ろうとしてテーブルの脚に足の小指をぶつける。…大丈夫だよ。どんくせえ、兄ちゃんたまに自分の大きさわかってねえよな。

2017-03-02 17:59:37
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 急に大きくなったものね。仕方ないわ。父母の髪と瞳は茶色。弟は父母にそっくりで、俺だけ黒色。血の繋がりだけが親子の繋がりではないわと母は抱き締めてくれて食わせ甲斐があると父は頭を撫でてくれた。愛されて、幸せで、けれど時々、何か大切なことを忘れているような。

2017-03-02 19:03:47
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro 兄ちゃん早く! 転げるように駆けていく健がバス停に向かう途中にある鳥居の前で立ち止まり奥に頭を下げる。いってきます! この神社はあなた達を守ってくれるから挨拶を欠かさないようにと母に言われている。鬱蒼とした森を見上げる。…いってきます。

2017-03-02 21:51:08
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 青い髪の神様が雨の夜に家の前に立っていたのは健が歩けるようになった頃だ。こういう類いは嫁の客だ。くれは、客。嫁は健を俺に託し、ドアを開けて言った。お入り下さい。数珠丸様が貴女は信頼できると。御用の向きは。僕の友達を預かって下さい。腕の中には黒髪の少年。

2017-03-02 22:46:31
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro …六年生くらいかしら? 十二年目だと思います。ずいぶん急なことですね。ごめんなさい、時間がなくて。神隠しにはしないということですか。彼には人のままでいてほしいんです、僕のことも忘れて貰います。どうか、どうかお願いします。

2017-03-03 00:29:42
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 嫁は俺の方を見てくる。いいじゃん、賑やかになりそう。…お引き受けします。ありがとう。この子の名前は?薬研。血の繋がりないのバレバレだろ、親戚から引き取ったことにしよう。薬研。神様は嫁に少年を渡してから頬を撫でた。さよなら、どうか元気でね。…大好きだ。

2017-03-03 08:19:02
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro たぬきが石段を登ってくる。以前より速度は遅くなったが途中で座り込んでしまうことはなくなった。しばらく顔を見せない間、町の病院に入院していたという。長らく鬱ぎ込んでいた宗三兄はたぬきの顔を見た途端社を飛び出し抱きついた。僕に会いたいから来たのですね。

2017-03-03 14:20:20
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 調子いいなおめーは。それでも兄様にさせるがままたぬきは肩を竦める。黒髪のガキにはあの後会えたのか。会えたよ、もう僕のことは忘れたと思うけど。元気にしてるみたい。薬研を託した若夫婦は我が子と分け隔てなく彼を育て守ってくれた。神社に挨拶するようにと教えてもくれた。

2017-03-03 16:37:51
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro あいつに病院行けって言われて検査しに行ったんだ。…そうなんだ。ややこしい目に遭ってるようなこと言ってたけど。大丈夫だよ。それで小夜を忘れてんのか? せっかく俺の願いが叶ったのに。いいんだ、僕は友達を守れれば。それに薬研が今の僕を見てもきっとわからないだろう。

2017-03-03 17:52:30
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 兄達は美しい。和睦、傾国。僕の力は復讐。力に見合った外見だった。お前は変わっちゃいないよ。たぬきは相変わらず僕の頭を撫でてくれる。薬研の兄の執着は凄まじく、今も気を抜けば薬研のことを思い出させてしまうだろう。あと少し、彼が一人立ち出来るまでは。

2017-03-03 19:18:46
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro 薬研の兄のひび割れは薬研以外に埋められるものはいない。もしも他人同士として出会ったなら、狂おしく惹かれ合い欠けたところのないかたちになるだろう。僕が彼らの目を塞ぎ続けている限り、誰にも強いられず後ろ指を指されることもない。

2017-03-03 23:15:46
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 穢れが溜まると、呼んだわけでもないのに石切と名乗る宮司がやって来る。祓って差し上げよう。数珠丸様の弟神様の眷属だという男の大太刀は瞬時に穢れを断ち切る。いつもありがとうございます。いやなに、この辺りのことは青江がいつも気にかけているものだから。

2017-03-04 08:44:06
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro …彼は元気ですか。息災ですよ、僕らの息子にしてもよかったのだけれど、こちら側にはしたくないと仰られるから。主神を呼び捨てにする眷属神は應揚に微笑む。しかし、俗世に関わっていては貴方様の穢れも溜まるばかりだし、彼らが惹かれてしまうのを止めることもできませんよ。

2017-03-04 11:10:25
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep いいんです、そうなるのは分かっています。いずれ薬研が成人して、兄と対等になれた時が来れば。あの時は薬研が幼く、ただ潰されてしまいそうだったから隠した。…貴方には何が残るのです。忘れられて、それで良いのですか。僕が勝手にしたことです。

2017-03-04 12:41:12
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro 時間がなくて仕方がなかったとはいえ兄弟を引き離した。他の弟たちからも薬研を取り上げてしまった。僕に残るのは責任と、美しい彼の成長を守ることができるという特権だ。そのうちこちらへ遊びにおいでなさいと言い置いて帰っていく背中を見送る。会いに行けたなら、どんなに。

2017-03-04 23:14:58
gude2hiro @gude2hiro

@sasa_sep 何だもう寝てんのか健。ゲーセンファーストフードというお決まりのコースで満足げに弟は寝てる。足元には白い猫が丸くなって子守をしてるかのようだ。弟接待ご苦労。父は笑って俺の頭を撫で、とっておけと千円札をくれる。俺もバイトしてるしいーよ。じゃあ貯金しとけ。

2017-03-05 10:35:27
長月笹良 @sasa_sep

@gude2hiro 実子の健より十も大きな俺を引き取って賑やかも何もないだ ろうと思うのだが、父も母も何故か呑気に構えて揺るぎない。初めて引き合わされた日、昼寝から目覚めた健は目をぱちくりさせて小さな掌を伸ばしてきた。握手してって。差し出した指を握って嬉しそうに笑った。

2017-03-05 14:16:28
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