リーマン光忠✕プラネタリアン長谷部

天文ファンのリーマン光忠と、プラネタリウム勤務の長谷部の燭へし
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天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

ちょっとした近未来。長船光忠が学生時代バイトしてた雑貨屋の前を通りかかると、最近メディアで話題の人工衛星と同期してリアルタイムの星空が見られるというホームプラネタリウムが売ってるのを見つける。星は好きだ。ボーナスも出たばかりだし、ちょっと買ってみるか。そう思ってそれを購入する光忠

2017-06-04 05:48:41
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

店長と少し雑談を交わしてさあ帰ろうとなった時に、店に一人のサラリーマン風の男が飛び込んで来る。「ここに例のホームプラネタリウムは売ってるか!?」「悪いな。今ちょうど最後の一つが売れちまったところだ」「…そうか…」人気の品だ。次はいつ入荷になるかわからない。そう店長が説明する。

2017-06-04 05:52:00
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

男は明らかに気落ちした様子でとぼとぼと店を出て行く。そんな背中が何故だか気になって、光忠は慌ててその男を追いかけて店を出た。「…あの!」「…なんだ」改めて見ると男はひどく整った外見をしていた。光忠はバイだったが、正直好みの顔だった。だが、その時の光忠は純粋な厚意で口を開いた。

2017-06-04 05:55:48
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「高価なものだから貸すことはできないけど、良かったら僕の家に見に来ないかい?君さえ良ければ、だけど…」「…おまえ、星は好きか?」「ああ」「なら、お願いしてもいいだろうか」そうして連絡先を交換する二人。貰った名刺には「○○児童館所属 プラネタリアン 長谷部国重」と書かれていた。

2017-06-04 05:59:59
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

話を聞けば、公務員の長谷部は春から市の運営する児童館の、しかも今まで全く興味のなかったプラネタリウム勤務になり四苦八苦している所なのだという。「星の勉強は一通りした。だが、お前の説明は堅いと上司から言われて、自主勉強しようと思って…」「それでホームプラネタリウムを」「そうだ」

2017-06-04 06:03:05
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

そうして次の週末、光忠の家でプラネタリウム鑑賞会が行われる。試しに長谷部の解説を聞いてみると、たしかにマニュアル通りなのだろうが、通り一辺の文句ばかりで正直退屈だった。「長谷部くん、君仮にも児童館勤務だろう?もう少し子供が好きそうな話も織り交ぜなきゃ」「と言うと?」

2017-06-04 06:07:23
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

そうだなぁ、と光忠はレーザーポインターを取り出して、例えばあれ、と琴座のベガを示す。「あのベガはね、一万数千年後には北極星になる星なんだ」「そうなのか」「だから、きっと一万数千年後には彦星は織姫を探すのが楽になるね。と言っても、彼らの間は16光年も離れてる訳だけど」

2017-06-04 06:13:07
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「16光年ってキロでいうとどれくらいの距離だか知ってる?」「1光年が大体9兆5000キロだから…約152兆キロか」「そう。僕らが知る限り最も長い遠距離恋愛の二人だね」そう言って笑いかけると、長谷部も少しだけ微笑んだ。「…おまえの話は、面白い。参考になる」「ありがとう」

2017-06-04 06:18:13
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「こういう風にさ、お客さんが興味を引かれるような小話を混ぜてくといいと思うんだ。良ければいくつか本を貸すよ」「いいのか」「構わないよ。天文好きが増えるのは大歓迎だ」そう言って光忠はおすすめの数冊を長谷部に渡す。「ありがとう」そうはにかむように笑う長谷部を見て、ああ可愛いな、と思う

2017-06-04 06:22:09
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

それから長谷部は頻繁に光忠の家に遊びに来ては解説の練習をし、その度に光忠は長谷部に自分の知る星にまつわる神話や逸話を教えていく。「全天には21の一等星があるけど、日本から見えるのはそのうち15個だけなんだ」「ペルセウス座の持つメデューサの目の星は時間によって色が変わるんだよ」

2017-06-04 06:27:47
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

何回かそういうやり取りを続けるうちに、二人の間には気安さが生まれて、その日は缶ビール片手に光忠の部屋の天井を二人眺めていた。「そう言えば、乙姫と彦星の話なんだが、」「うん」「今の小学生に言ったら『スマホ使えばいいのに』って一蹴されたぞ」「ははっ現代っ子だなぁ」「でも俺もそう思う」

2017-06-04 06:32:40
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「いくら罰とはいえ、二人はもう少し普段から会う努力をしてもいいんじゃないか。せめて橋を渡すとか、川の流れがなだらかな所を探して渡るとか」「なるほど?」「考える頭と動かせる手足があるなら、それを使わないのは怠慢だろう。…もし俺だったら、」長谷部は言う。

2017-06-04 06:36:37
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「相手が逃げようが隠れようが、必ず探し出して会いに行く」「…長谷部くんが彦星なら、織姫は幸せだね」「お前は?」「僕?」「お前は、もし好きな相手と離れ離れになったらどうする?」光忠は長谷部から見えないように、そっと手袋の下の手を押さえた。「会いたいけど、会えないって事もあるからね」

2017-06-04 06:40:23
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「好きだけど、距離を置かざるを得ないってこともあるさ」「そういうものか」「うん」そう言って、その日の二人の講習会は終わった。 次の週、光忠は長谷部にこう切り出した。「長谷部くん、今日は趣向を変えて、本物の星空を見に行かないか。いい鑑賞スポットがあるんだ」

2017-06-04 06:43:54
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

光忠の私物の天体望遠鏡を車に積み込み、二人は山奥の開けたところにシートを広げて並んだ。テキパキと望遠鏡を組み立てる光忠を感心したように長谷部が眺める。「すごいな、おまえ」「元々両親が星が好きでね、小さい頃はよくこうやって天体観測に来てたんだ」

2017-06-04 06:47:11
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

街の光が遠くに霞む程の山奥で、望遠鏡なしでも満点の星空は息を呑むほど綺麗だった。「ああ、夏の大三角形だ」「長谷部くんもわかってきたね」「散々お前に仕込まれたからな」そう言って笑い合うと、光忠が手招きをした。「ちょっと覗いてごらん」言われた通りに覗くと、見慣れない星座が見える。

2017-06-04 06:51:16
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「…これは?」「蠍座。日本からだと普段は地平線越しにしか見えないんだけど、こういう高い所からなら見えるんだ」「アンタレスって本当に赤いんだな」「綺麗だろう?」「ああ」他にもいくつかの星を見て、長谷部が溜息をつく。「…すごいな。やはり実際に見るのとでは輝きが違う」

2017-06-04 06:55:40
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「こんなにスケールが大きなものを前にしてるとさ、自分の悩みなんてちっぽけなものだと思わない?」「それが、お前が星が好きな理由か?」「それもあるけど、」光忠は少しだけ躊躇いがちに口を開く。「僕、小さい頃、火事で両親を亡くしてるんだ」長谷部が小さく息を呑んだ。

2017-06-04 06:58:17
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「当時は辛くて悲しくて、でも両親が好きだった星を見たら心が慰められた。だからかな」光忠はそう言って笑んだ。「街中だと、こんな星空なんてなかなか見られないだろう?でも、プラネタリウムに行けば誰でも気軽に星を楽しめる。だから僕はプラネタリウムが好きだよ。勿論そこで働く人も尊敬してる」

2017-06-04 07:03:02
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「…すまない」「どうして謝るのさ」「お前がそれ程星に思い入れがあると知らなかったから、最初、星に興味がないとか言ってしまって」「あはは、構わないよ。だって今は興味を持ってくれてるだろう?」「お前のおかげでな」「ふふ、光栄だな」そう言い合って、二人で満点の星空を見上げる。

2017-06-04 07:09:26
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

折しもその日は満月で、月光の中きらきらと輝く長谷部の髪はとても綺麗だった。月が綺麗だね、と言いかけて光忠は止めた。古の文豪の逸話を思い出したからだ。一度そのイメージが浮かぶと、口にするのはなんだか恥ずかしかった。まるで、愛の告白みたいだ。

2017-06-04 07:11:59
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「月が綺麗だな」長谷部がぽつりとそう言った。きっと深い意味なんてない。ただ綺麗だからそう言ったのだろう。それでも告白にも似た言葉をかけられて、光忠の胸はたしかに高鳴った。嬉しさと気恥ずかしさでなんだかそわそわと落ち着かない。「…そうだね」長谷部と見る夜空は、本当にうつくしかった。

2017-06-04 07:15:18
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

翌週、光忠は昼間こっそりと長谷部の勤めるプラネタリウムに足を運んだ。親子連れの多い客席の中で光忠の姿は目立ったらしく、長谷部はこちらを見て驚いたような顔をした。しばらくして場内が暗くなり、穏やかな長谷部の声が静かに、時には冗談を交えてアナウンスをするのを、光忠は静かに耳を傾けた。

2017-06-04 07:22:16
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

やがて上映が終わり場内が明るくなると、長谷部は何やら上司らしき人に小突かれて顔を赤くしているのが見えた。光忠の心にもやもやとしたものが湧き起こる。「長谷部くん!」思わず声をかけると長谷部がぱっとこちらを振り返った。「光忠、どうだった?」「すごくよかったよ。もう僕はいらないくらい」

2017-06-04 07:26:20
天城🔞蜜藤F53b @amagi_skhs

「いや、まだまだだ。これからもよろしく頼む」生真面目そうに頭を下げる長谷部を見て、思わず光忠は吹き出した。「そんな畏まらなくてもいいのに」「いや、お前は俺の恩人だ。…本当に、感謝している」「おーい、長谷部、悪いがそろそろ次の上映の準備始めるぞ」「わかった、今行く。またな、光忠」

2017-06-04 07:30:12