教会と響きに関する簡単な考察

はみば先生こと合唱指揮者・三好草平氏(@Hummingbird1979 )がTwitter上で分割投稿した論文をまとめてみました。
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三好草平 @HummingBird1979

1.響きの良さは副産物 そもそも、地震の少ないヨーロッパの建物は石造りが基本である。それゆえに絨毯で覆うなどしない限り、そもそも残響が長い造りになっている。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:15
三好草平 @HummingBird1979

一方で、教会は神様に祈りが届くよう、立派な教会を目指して巨大化が進む。 また、空(神様)からみて十字架になるように形を工夫するなど、結果として内部空間の複雑化がすすむ。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:21
三好草平 @HummingBird1979

結果として複雑な石造りの巨大空間を持つ建物ができあがり、それは結果として響きの良さをもたらした。 この辺の大聖堂建設に関する思いと苦労に関してはケン・フォレットの小説「大聖堂」を読むと分かりやすい。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:29
三好草平 @HummingBird1979

2.複雑さのもたらす物 一般的なコンサートホールはシューボックス型と呼ばれる直方体に近い形の物(すみトリ、所沢ミューズなど)か、ワインヤード型と呼ばれる扇状に広がりのある空間を持つものか(サントリー、東京芸術劇場など)が主流。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:35
三好草平 @HummingBird1979

それらの空間は基本的に音が行って帰ってくる直接反射音が主になる。もちろんワインヤードは1階席、2階席、3階席とそれぞれの後方に壁をつくることで、反射音の帰ってくる時間差をつくっているので響きとしては丸みをおびやすくなるが。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:43
三好草平 @HummingBird1979

また、コンサートホールの一番の欠点は椅子、そして人である。椅子は座りやすさを求め、柔らかい布がはられ、人体と衣服がさらに音を吸収する。 それに温度も関係するだろう。冬の冷たい空気と夏の暑さでは音の印象が違うことは生活の中で感じられる。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:51
三好草平 @HummingBird1979

石造りの教会と、祈りのための木だけで出来た椅子、さらに凛と澄んだ冷たい空気は、響きに最適な環境ではないだろうか。 さらに、直接音と初期反射音だけでなく教会の持つ複雑な構造が豊かな後期反射音をもたらしてくれる。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:29:58
三好草平 @HummingBird1979

こうして教会の中では、凛と張り詰めたような鋭さと、それでいて包み込むような暖かさ、さらに天から降り注ぐような神秘性が同時に確保されることとなった。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:07
三好草平 @HummingBird1979

3.響きの良さがもたらす祈りの場としての静寂 響きの豊かな環境では、ちょっとした話し声や物音も豊かな響きと時間差を持って本人に伝わる。このことは結果として、教会内でおしゃべりをすることをためらわせ、足音を潜めさせた。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:11
三好草平 @HummingBird1979

静寂は神秘性をもたらし、その神秘性がさらに静寂をもたらす。 こうして、かつては祈る時に祈祷場が設営され、火を焚き、太鼓などの大きな音とともに祝詞をあげていたものが、常設の祈りの場と、典礼の時間を除く静寂とを持つようになった。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:20
三好草平 @HummingBird1979

4.響きの良さが生んだ音楽 響きの良い空間を手に入れた人々は、その空間で行う祈りの言葉の音節を引き延ばし(メリスマ)、音楽へと発展させていった。 美しさが神の御心にかなう物とされ、その空間で美しく響くための工夫を重ねていく。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:27
三好草平 @HummingBird1979

こうしてつくられた物の一つが、グレゴリオ聖歌であったし、平行オルガヌムやルネサンスポリフォニーに代表される多声楽であった。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:36
三好草平 @HummingBird1979

やがてそれらはより複雑な物へと変化をし、さらにより大がかりな物へとなっていく課程で響きが飽和し、過度なエンターテイメント制を帯びていった。 そうして本来祈りの為に書かれていた音楽もまた、劇場へと出て行った。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:42
三好草平 @HummingBird1979

5.響きの豊かさの中で歌う 日本では通常、練習場所は決して豊かな響きではない。その中で合唱団は少なからず無理をして歌っている節がある。 ある程度の感覚を持つ人なら教会の豊かな響きの中で歌うと、おそらくすごく楽に歌える感じがするだろう。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:50
三好草平 @HummingBird1979

それは普段無理をしていることの裏返しである。 ヨーロッパの合唱団(ケンブリッジ大学キングスカレッジ、カンテムスなど)の声は時として素直すぎて工夫がない感じがする。それは主に環境の違いのもたらすものなのだ。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:30:55
三好草平 @HummingBird1979

私は、合唱、こと宗教作品にベルカントは不向きだと思うが、ベルカントは主に教会ほど響かないコンサートホールの中や、時に野外での演奏を余儀なくされる中で、声を通すことが目的となっている。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:31:01
三好草平 @HummingBird1979

今でこそコンサートはホールの中では黙って、居住まいを正して聞く物とされているが、昔はそもそもホールの中が社交場であったから、飲食もされていたし、演奏中のおしゃべりも茶飯事であったろう。 その中で聞かせるにはそれなりの工夫が必要だったのだ。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:31:08
三好草平 @HummingBird1979

閑話休題。無理のない響きの中で歌うことは、より素直に音楽に向き合えることになるし、なにより神聖な空間の中で歌うことは、その音楽に大きな影響を与えるだろう。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:31:16
三好草平 @HummingBird1979

宗教観や空間の持つ神秘性に無理解な集団が歌うことには抵抗があるが、逆に言えばそれらを理解して歌うならば、信者でなくとも教会で歌うことには意義がある。祈りの音楽は本来の祈りの場で歌われることで一番の意味と説得力を持つから。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:31:21
三好草平 @HummingBird1979

6.まとめ 響きの良さは副産物であるからして、響きありきで教会を建てようとするのは、安易な発想である。 だが、響きの良さがもたらす神秘性と、典礼の重要な要素たる音楽に対する良い効果を考えれば、響きも考慮して建設するべきだとは言える。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:31:28
三好草平 @HummingBird1979

だが、仮にヨーロッパの大聖堂と同じ材料を用いて、同じ物をつくったとしても、おそらく日本の湿潤な気候の影響で、おそらく同じようには響かないだろう事を一言付け加えておく。 #acoustic_of_church

2010-03-27 00:31:35