元・魔法少女の車椅子のおばあちゃんVS殺人鬼
男はナイフで切りかかって来る。とっさにステッキをあげると、空中に見えない円蓋ができて、巨大な刃の打ち込みを防ぐ。だが衝撃は伝わってステッキを取り落とす。 「なんだこれ…」 男がステッキの注意を向けた一瞬の隙をついて、元魔法少女はスマートフォンを操作しようとするが、手がもたつく。
2017-06-17 14:57:37うまく指が動かない。疲労のせいだ。 「捨てろっつったろうが」 男が激高して車椅子を蹴り飛ばす。元魔法少女は床に転がる。受け身がうまくとれない。どこかもろくなった骨が折れたような嫌な音ががする。
2017-06-17 14:58:46「まじ…このババアふざけんな…警察とか登録してんのかよ…ババアアア!!!」 なおもスマートフォンを離さない老人の手を容赦なくジャングルブーツが踏みつける。また骨が折れた音。
2017-06-17 14:59:56「ぐっ…ぁっ…」 「くそが…ほかに何しようとしてんだ」 スマートフォンを取り上げ、中味を調べ始める男。 元魔法少女は視線を、床に縛られて転がる少女に向ける。怯えたままこちらを見ている。
2017-06-17 15:01:02目が合う。視線で合図を送る。ステッキと少女へ交互に。 意味が伝われという必死の気持ちをこめて。少女は目をまん丸くして見返すだけ。
2017-06-17 15:02:09「なんだこのババア…はっ…まじ…カメラとかしかけてんのか窓に…見られた?まじで?どうなってんだ…映ってねえだろほらあ…なんで…おいババアお前何もんだ」
2017-06-17 15:03:15「あなた…ね。私ペースメーカーつけ…てるの。止まったらすぐ通報いくから…」 「嘘つけそんなアプリ入ってねえぞ…ババアてめえ一体何もんだ」 「つけ…てるの」 「口のへらねえババアだな取り合えず目でも抉るか?」
2017-06-17 15:05:35少女がゆっくりと芋虫のようにステッキに近づく。 老婆はそちらに男の注意が向かないように話し続ける。 「やめなさい…この近所…まだ人がいるから…」 「いねえよ嘘ばっかだなババアお前はよお…助からねーよお前は」 「いるから…やめなさい、やめておねがい」
2017-06-17 15:08:24ばかげた大きさのナイフが老婆の角膜を抉る。 悲鳴を上げる。精一杯。肺が痛む。でもそれはいつものこと。 無事な方が男の背後でほとばしる光の柱をとらえる。
2017-06-17 15:09:38拘束のとけた少女が茫然とした表情で宙に浮かんでいる。フリルとリボンがたっぷりとついた色鮮かな衣装。周囲を明るい炎が取り巻いている。 「は?」 振り返って男はけげんそうに問いかけてから、またナイフで切りかかる。まったく躊躇のない攻撃性。 だが見えない円蓋が易々と打ち込みをはじく。
2017-06-17 15:11:27「戦いなさい」 老婆は告げる。少女はとまどったように首を傾げ、蚊の鳴くような外国語で応じる。南の方の言葉だ。暗さで分からないが肌の色も違うのかもしれない。 元魔法少女は咳き込んでから、英語に切り替える。 「Smash him」
2017-06-17 15:13:40言葉が通じたのかどうか、もう一度男が切りかかって来たときには、少女は身を護るかわりに拳を振り上げ、おどすように振り下ろした。 あるいは単なる生存への欲求だったのかもしれない。男は壁に叩きつけられ、血反吐を吐いた。 「くそがきいいいい!!!!」
2017-06-17 15:15:09迷彩服が黒い影のようなものに包まれ、鬼火が点々と表面に浮かぶ。カメラを遮り、殺人の証拠を拭い去った何か。 「ぶっ殺ぉおおおっす」 だが威勢のよさもそこまでだった。もう一撃、少女の拳が怪物のどてっぱらを撃ち抜き、霧と化して散らせる。
2017-06-17 15:17:43少女は老婆に駆け寄る。何か外国語で話しかけている。 元魔法少女は首を振り、スマートフォンをあごで示す。 「警察…Police…はやく…いい子ね…いい子…」
2017-06-17 15:19:19病院で元魔法少女はたくさんの管につながっている。 面会謝絶のはずだがそこには褐色の肌をした新しい魔法少女が立っている。かたわらには生まれたばかりの小さな獣が浮かんでいる。 「彼女がお礼を言いたいって。あなたは命の恩人だって」 「あなたは自分で自分自身を救った。そう伝えて」
2017-06-17 15:22:21「あなたの命を救いたいって」 「魔法少女にそういう力はないの。教えてあげなさい」 「分かった」 「ステッキをなくさないように。大人にとられないようにね。そして戦うべきときは戦いなさい」 「それより彼女はあなたにどうしても助かって欲しいって」
2017-06-17 15:24:32「人はいつか死ぬ。私の番が来ただけ。もっとゆっくりしたひどい死に方だってある…私は最後にあなたに会えて幸せだったと伝えて」 「分かった」 「ええ」 元魔法少女はまぶたをとざす。
2017-06-17 15:25:55新しい魔法少女が向き合わなければいけない敵はきっと恐ろしいものだろう。 いつの時代もそうだったし、これからもぞうなのだ。悪には限りがなく、終わりもない。 だがもはや老婆が考えるべきことではない。
2017-06-17 15:26:59おわり
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2017-06-18 21:50:57