【不定期Twitter連載中】「小説ふるのつばさ(仮題)」 by Солярис

ミスiD 2018ファイナリストのシンガーソングライター つぅちゃん こと ふるのつばさ さん(@furunotsubasa)のZipper掲載を記念して書いている小説です。 いつものツイートをちょっとだけ小説風に書いた後に、ふと続けるのもありかなと思ったのがきっかけで、そのまま続けています。いつ終わるんだろう。 ふるのつばさ Twitter: https://twitter.com/furunotsubasa 続きを読む
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Солярис @solaris2004

降り続くと思いこんでいた雨が止んだ。徐々に光に透かされる雲を見ながら、今日はいろいろできるなと考える。ふと目を落とすと、書きあげたばかりの #Zipper のアンケート。近頃は日付くらいしか文字を書かなくなった。「#ふるのつばさ」と手で書いたのも、思えば初めてかもしれない。

2017-06-25 12:13:25
Солярис @solaris2004

小説として続けるなら、 ミステリーコース「ふるのつばさ殺人事件」 純文学コース「金魚鉢」 児童文学コース「名探偵つぅちゃん」 ラノベコース「僕のふるのつばさは間違ってますか?」 どれがよいかなあ。もし希望があれば・・・いや何も起こらないと思いますが・・・ twitter.com/solaris2004/st…

2017-06-25 12:40:23
Солярис @solaris2004

2 ふるのつばさの存在は河井から知らされた。「すっげえ可愛い子と知り合ってさあ」というのが始まりだ。「しかもなんとさ、まだ16歳なんだよ」と河井は続けた。「お前さ、16歳をナンパすんなよ」という僕に「俺だって聞いて驚いたんだよ。だからさ、お茶しただけだよ。連絡先は交換したけどな」 twitter.com/solaris2004/st…

2017-06-28 00:14:44
Солярис @solaris2004

3 「ふうん、でどうするつもりだ?」「いやどうするったって何もできないよ。たまに連絡とったりさ、写真送ってもらったりしたら楽しいかなと」「お前ほんと気をつけたほうがいいよ」「わかってるって」 その時はそんな程度で終わり、その後は特に気にもしていなかったが、話は思わぬ展開を見せる。

2017-06-28 00:15:09
Солярис @solaris2004

4 その女の子はある時原宿でスカウトされ、タレント事務所に入った。特に何ができるわけでもなかったが、女子高生タレントとしてたちまち人気が出たらしい。「あのさ、ふるのつばさって知ってるよな? それが、あの子なんだよ」 河井から聞いたのは、テレビで時々見かけるようになった頃だった。

2017-06-28 00:15:25
Солярис @solaris2004

5 「マジで? それでまだ連絡は取ってるの?」「ああ、結構くるよ。なんかちょっと頼りにされてるのかも」「ほんとかよ」「それでさ、彼女、今度Zipperに載ったんだよ」そう言って河井はキラキラしたファッション誌を僕の前に10冊ほど積み上げた。「え? なに? どういうことだよ」

2017-06-28 00:15:44
Солярис @solaris2004

6 「Zipper、多分知らないよな?」 彼によれば、女の子向けの人気ファッション誌で、原宿とかストリートとかそういう系らしい。パラパラと見ると、確かに僕でも知っているような顔がある。今回は、彼女の事務所が関係する企画で、一度だけモデルとして載ることができたということのようだ。

2017-06-29 00:17:39
Солярис @solaris2004

7 「実はさ、彼女の夢はモデルなんだよ」 開いて見せられたページに目をやると、ふるのつばさがそこにいて、はにかみながらも真っ直ぐにこちらを見つめていた。「モデルねえ…」思わず疑わし気な声が出たが、確かにテレビの印象とは随分違う。服のことは分からないが、意外に悪くないように見えた。

2017-06-29 00:18:04
Солярис @solaris2004

8 「だからさ、これをきっかけに本物のモデルになってほしいから、絶賛アンケートを送りまくりたいわけよ」「それを彼女から頼まれたってことか?」「まあそんなところだね。だからこれお前の分な。頼むよ」 そういうわけで、僕は休日の朝から机に向かい、慣れないアンケートを書くことになった。

2017-06-29 00:18:20
Солярис @solaris2004

9 梅雨の真っ只中のこの週末は家にこもって過ごすしかないと思っていたが、その雨も止んでしまった。久しぶりの手書きで眼も手も疲れ、気分転換がしたい。コーヒーフィルターが切れているし、駅前で買い物をして昼でも食べるかと思い立つ。ただ実は、本当にしなければならないのは片付けだった。

2017-06-29 00:20:24
Солярис @solaris2004

10 本来は食卓であるテーブルには、ここ数ヶ月分の本や漫画や雑誌が無造作に積まれ、床も侵食し始めている。片付けようにも本棚は既にいっぱいで、どうしようもない。ホームセンターまで行って安い本棚でも買ってくるか…いやその前に、せめて種類や大きさで仕分けして、量を把握した方がいいな。

2017-06-29 00:20:42
Солярис @solaris2004

11 そう考えて今にも崩れそうな本の山に近づく。どこから攻めるか、一旦全部床に下ろすか…。睨みつけているとふと、山と山の隙間に薄い紙が一枚挟まっていることに気づいた。取り出して見ると、雑誌の一ページを切り取ったと思われるもので、色褪せているほどではないが、やや古ぼけた感じがする。

2017-06-29 23:14:19
Солярис @solaris2004

12 それはカラーのグラビアで、二十歳くらいの女の子がピアノと一緒に写っている写真だった。鍵盤に手を添えて、こちらを真っ直ぐに見つめている。口元は少し微笑んではいるが、眼にはどこか反抗のような光が見えて、こんな写真を撮られるはずじゃなかったのにな、と言っているようにも思えた。

2017-06-29 23:14:32
Солярис @solaris2004

13 その瞳に吸い込まれそうになりながら、切り揃えられた前髪と鮮やかなブルーのメッシュが混ざる黒髪へと、少しずつ目を移していく。刺繍の入った黒いワンピース。少し広がった袖から伸びる真っ白な細い腕。不意に強い不安がこみ上げてくる。 僕はこの子を知らない。 僕はこの子を知っている。

2017-06-29 23:14:48
Солярис @solaris2004

14 二つの相反する思いが同時に浮んだ。金縛りのように全身が強張ったまま、心臓が波打ち、胸が苦しくなってくる。下の方に彼女の名前が記されているのは分かっているが、見るのが無性に怖い。しかし気持ちとは裏腹に僕の視線は動き、その文字を捉えた。 ふるのつばさ/シンガーソングライター

2017-06-29 23:15:02
Солярис @solaris2004

15 ふるのつばさ…。全身を冷たい稲妻が突き抜けた。ふるのつばさって…。振り返りたい。そうしなければならない確信があるが、怖い。それでも僕はゆっくりと首を回し、机の上を見た。日差しに照らされるZipper。そうだ、ふるのつばさはあの子だ。ならば、この子は、誰だ…。強い目眩がした。

2017-06-29 23:15:18
Солярис @solaris2004

16 そして世界が暗転し、気づけば僕はシンガーソングライターのふるのつばさが存在するパラレルワールドにいた、とSFならばなるところだが、現実はそんな簡単に劇的にはならない。しばらく目を閉じ、呼吸を落ち着ける。端末で調べてみたが、やはりふるのつばさは女子高生タレントでしかない。

2017-07-02 12:28:31
Солярис @solaris2004

17 写真をもう一度眺める。シンガーソングライターふるのつばさ。もう息苦しさはない代わりに、瞳を見ると徐々に視界が滲み、切なさに包まれる。静かに世界が終わっていき、二人きりで取り残されたように。どうしようもなく惹かれる。この子のことを知りたい。知らなければならないと、強く思った。

2017-07-02 12:29:16
Солярис @solaris2004

18 とりあえず河井にメッセージを送った。そしてふと写真を裏返してみて、これがここにある理由が分かった。これはおそらく、古い娯楽雑誌の一部だ。たまに戦前の映画のパンフレットをろくに中も見ずにまとめて買いこむのだが、その中に紛れ込んでいたのではないか。この前買ったのは、確か先月だ。

2017-07-05 21:04:01
Солярис @solaris2004

19 買ったきり放置していた十数冊のパンフレットを一つずつ改めたが、他には何も挟まってはいなかった。それはまあ仕方ない。これを置いていた神保町の古本屋の主人なら何か知っているかもしれない。今から行ってみるか…。いやしかし、何か引っかかるな…そう思った時、着信があった。河井からだ。

2017-07-05 21:04:20
Солярис @solaris2004

20 「どうした? 音声でって珍しいな」「ふるのつばさちゃんに会いたいんだ。連絡を取ってくれないか?」「え? いや無理無理。こっちから連絡したって返事くれないし、第一俺も最初の時以来会ったことなんてないよ」「そうなのか?」「そうだよ。そんな安いタレントじゃないんだよあの子は」

2017-07-06 22:52:01
Солярис @solaris2004

21 少し考えて、僕はこう言った。「メッセージは送れるんだよな?」「ああ、でも返事はくれないよ」「『シンガーソングライターのふるのつばさについて聞きたい』って伝えてくれないか?」「え、なんだよそれ」「いいから頼む。送るだけでいいから」「…わかったけど、多分無駄だぞ」「ああ、頼む」

2017-07-06 22:53:52
Солярис @solaris2004

22 これであっちは待つしかない。さっき考えていたのはなんだったけか…ううん、思い出せない。やはり行ってみるしかないか…そうだ、神保町なら九段下の病院にも寄れる。明日仕事の帰りに行く予定だったが、薬はもう切らしているし、今日行ってしまった方が楽でいい。帰りにそのまま歩いて行こう。

2017-07-09 13:28:53
Солярис @solaris2004

23 支度を済ませ、写真を折る気にはなれなかったので、一番上にあったパンフレットを手に取る。「鏡」という、かつて存在したソヴィエトという国の映画のものだ。表紙では、金色のまとめ髪の女性が木の柵に座り、丘の上から寂しげに草原と森を眺めていた。挟んで閉じると、写真はぴたりと収まった。

2017-07-09 13:29:07
Солярис @solaris2004

24 雨上がりの気配は既になく、夏のような青空だった。トートバッグひとつでメトロに乗る。座って一息つき、バッグに手を当ててパンフレットの感触を確かめた。また写真が見たくなったが、気軽に取り出す気にはなれず、ぼんやりと壁に散りばめられた広告を眺める。Zipperは見つからなかった。

2017-07-11 11:35:50