#お好み焼き屋浜風 天津風編【艦これSS】

紅吏珠名 @chrishna_c2

それは、店内に鳴り響いた一本の電話から起こった出来事でした。 「もしもし。お好み焼き屋浜風です」 『はぁい。いい風来てる？ 私よ私』 #お好み焼き屋浜風

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――はて。私といわれましても、どちらの私さんでしょう？　電話口での突然の質問に見当さえつきませんでした。 『私が誰かわからない？　そんなの声で分かるでしょ？　私よ私』 #お好み焼き屋浜風

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いっこうに正体を明かす様子のない電話越しの相手に、あるひとつの考えがよぎります。もしかして……最近テレビやインターネットで流行りの、私私詐欺でしょうか。 #お好み焼き屋浜風

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そんな非常事態。こういう時こそ落ち着いて、姉さん達から教わった通りに対応することにします。 幸いお店の電話機は、呉の首席秘書艦である陽炎姉さんの計らいによって鎮守府の秘匿回線ともつながっています。 #お好み焼き屋浜風

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「それでは、この通話を憲兵の皆さんにおつなぎしますね」 あとは受話器の裏側にある赤いボタンを押すだけで即座に。 『ちょ、ま、待ちなさいよ。いくらなんでも憲兵さんを呼ぶのはヤリすぎでしょ！』 憲兵さんの名前を出した途端、相手が慌てる様子が伝わってきました。 #お好み焼き屋浜風

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『あなたってほんっと冗談通じないわね……じゃあ特別にみっつだけヒントをあげる。ひとつ目、あなたのお姉ちゃんよ』 ええと……私には姉が十二人いるのですが。 #お好み焼き屋浜風

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『あぁそっか、それだとあんまりヒントにならないか……そうねぇ、じゃあ次のヒントをあげるわ』 「ですから具体的な名前を仰っていただけると……」 『それだと面白みがないじゃない』 どうやら通話の相手は楽しんでやっている様子。困りましたね。 #お好み焼き屋浜風

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「ねーちん。こういう手合いはあたしのが得意だ。任せておくれ」 そんな電話のやり取りを聞いていた谷風が居間からひょっこり顔を見せ、助け船を出してくれました。 「わかりました。では後のことはお任せします」 「がってんだ」 #お好み焼き屋浜風

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「へっへっへ。姉ちゃん……今日はいてるパンツの色は何色だい？」 受話器を受け取るや、いやらしい笑みを浮かべて何を訊きだすかと思ったら。 「何ってナニだ。イタズラ電話にはイタズラでやり返すに限る。あとの半分はあたしの趣味だ」 趣味なんですか。 #お好み焼き屋浜風

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『……』 ほら。相手の方だって返答に困っているみたいじゃないですか。 #お好み焼き屋浜風

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『あ、そろそろお店の前に到着するから、いったん電話を切るわ。またね』 つーつーつー。谷風からの質問に答えることなく、そのまま電話が切れてしまいました。 #お好み焼き屋浜風

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「くぁーっ！　なんだいなんだい最近の若い子は。パンツの色もロクに教えてくれないのかい。まったくなっていないねぇ！」 谷風がとても不満そうにして、受話器を叩きつけるように置きます。 #お好み焼き屋浜風

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……。 電話が切れてから間もなく、引き戸のくもりガラスの向こうに人影がありました。どうしましょう。さっきの電話の人だとしたら、防犯グッズを用意した方がいいのかしら。 #お好み焼き屋浜風

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考える間も与えず引き戸が開かれると、そこには陽炎型駆逐艦の九番艦・天津風と、島風型駆逐艦の島風の姿がありました。 「はぁい。さっき電話で予約してた天津風と島風よ。お邪魔するわ」 アレが予約と呼べるものだったのかについては、とても判断に迷うところですね。 #お好み焼き屋浜風

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「お好み焼きー。お好み焼きー。島風の分は、お店で一番はやく焼けるものがいい！」 店に入るや、島風は『いっちばーん！』とカウンター席の真ん中を陣取って、まるで川内さんのような声の調子で元気を振りまいていました。 #お好み焼き屋浜風

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「えへへー」 注文の待ち時間。島風は天津風と腕を絡めて頬を寄せています。 「とても仲がいいですね」 「そうね。鎮守府に着任してからいつも一緒。私もこの子もお互いなしでは生きていけない関係よ」 どちらがいなくなっても成り立たない。運命共同体というわけですか。 #お好み焼き屋浜風

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「作戦行動を共にしている時間という意味なら、時津風よりも付き合いが長いわ……あ、私も島風と同じものをちょうだい」 そうなんですね。あっはい、かしこまりました。 #お好み焼き屋浜風

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「ねー天津風。浜風って天津風の妹だっけ？」 「そうよ島風。私が陽炎型の九番艦で、あの子は十三番艦にあたるわ」 「天津風の妹なら島風の妹ってことね。いい浜風？　これから島風の言うことをちゃんと聞くのよ」 自分より格下と見た途端、急に高飛車になりましたねこの子。 #お好み焼き屋浜風

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島風からの物言いに対し、どう答えればと困っていると。 「ん？　あれ？　違うのかな……妹じゃないなら、島風の新しいお姉ちゃん？　……あっ、あのっ。生意気言ってごめんなさい。島風のことを嫌いにならないで」 なんですか。なんなんですかこの可愛い生き物。 #お好み焼き屋浜風

紅吏珠名 @chrishna_c2

「ごめんなさいね浜風。この子ったら着任したばかりの頃からずっと独りぼっちだったでしょ？　だから他の子達との距離感がつかめていないだけなの」 「あ、いえいえ。そんな」 #お好み焼き屋浜風

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それにしても――。 お二人分のお好み焼きをじゅうじゅうと焼きあげている間、天津風が心なしかそわそわしているような気がします。 自分の身体を両腕でぎゅっと抱きしめたり、足と足をすりすりと擦りあわせたり。 まるで何かを必死にこらえて我慢しているみたいな。 #お好み焼き屋浜風

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「美味しそうなご馳走を見てると切なくて、身体がうずうずしちゃって抑えきれなくなるの」 そうそう。思わずそんなことを口走ってしまいそうな雰囲気でって――えっ？ #お好み焼き屋浜風

紅吏珠名 @chrishna_c2

「……ふふふ。浜風ったらいけない子。聞いてはならないことを聞いてしまったのね」 自分でカミングアウトしておいて何言っちゃてるんですかこの人。 「残念ね。むしろこれはラッキーなのかしら。とにかくこうなった以上、あなたを無事に帰すわけにはいかなくなったわ――」 #お好み焼き屋浜風