編集部イチオシ

幽霊が見えるか見えないか

2016年 冬のオカルト大会にて
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師匠@似非 @unishisyo

[幽霊が見えるかみえないか] @nerozou666 小生には年の近い妹が二人いる。 大きい妹は小生の2つ下、小さい妹は小生の4つ下。 3人が3人とも9月生まれである小生達兄妹は、律儀な両親らの手によって正確無比に隔年の聖夜に製造されたことであろう。

2016-08-13 00:12:52
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 兄妹というのは素晴らしいもので、妹達がいたお陰で小生は幼い時分から「男と女とは根本的に別の生き物である」と自覚するに至った。 小生とは似ても似つかない愛しい妹達は、当然小生とは異なる点が多々有った。食べ物の好き嫌い趣味嗜好繊細か大胆か我慢強いかキレやすいか。

2016-08-13 00:14:26
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo そんな大小様々な兄妹の差異において、『幽霊が見えるか見えないか』という点は最も些細な違いだった。 その些細な差異に小生が気付いたのは卒業を控えた中学3年の冬だった。 年末のある日の朝、珍しく機嫌の良かった大きい妹が小さい妹に世間話を振った。

2016-08-13 00:14:48
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「ねー、昨日女の人いたよね」 「あー、いたね」 洋食派の小生はトーストをスープに浸しながらその会話を聞いていた。 「パンダ(※当時飼っていた猫の名前)がさー、じゃれて遊んでたよね」 「そーそー。足元ね」 聞いているうちに小生は疑問を感じた。

2016-08-13 00:15:14
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 大きい妹と小さい妹が交互に答えた。 しかし当時の小生の記憶ではこの日の前日に女性の来客はなかった。 そもそも来客ということは、少なくとも家族の誰かしらの知り合いであり。 来客に対し『女の人』というあまりにも他人行儀な呼称を使うのは若干違和感があった。

2016-08-13 00:15:39
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 『女の人がいた』というのはおかしいのではないか? 別に女の人なんてどこにだっているだろう。そしてウチの飼い猫が他所の女の人とじゃれて遊んでもらうことも、ままあることだろう。

2016-08-13 00:16:02
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo しかしその場合、『パンダが女の人と遊んでいた』か『パンダが女の人に遊んでもらっていた』が妥当な表現ではないだろうか? しかし2人の妹はあくまで『女の人』を主語にして話をしている。

2016-08-13 00:16:23
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「なぁ、何か話おかしくね? その女の人って誰だ? 」 どうにも腑に落ちない小生は、何の覚悟もなく妹達の会話に割って入った。 「え、 だから昨日の女の人の話だって」 「そうそう。家にいた」 大きい妹と小さい妹が交互に答えた。

2016-08-13 00:16:42
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「昨日とかウチ誰も来てなくね? だから誰だよ女の人って」 「はー?」 「客じゃねーし、ウチ入って来てねーし、庭だし」 中学生というのは乱れた言葉遣いが何より粋であると感じる年頃である、どうかご容赦頂きたい。

2016-08-13 00:17:19
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「客じゃねーのに庭ってなんだよ泥棒かよ」 「だからオバケだよオバケ」 「そうオバケ」 「オバケってお前……オバケ?」 「そう」 「そー」 最初は妹達が小生を担ごうとしているのかと思ったが、そもそも会話に割って入ったのは小生である。

2016-08-13 00:17:42
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「そーそー! 必死でじゃれてるんだけどオバケだから触れないのね」 「馬鹿だよねーパンダ。オバケだから触れないのにね!」 きゃはははと妹達は楽しそうに笑い始めた。 勿論その話を聞いた小生は気が気ではなかった。

2016-08-13 00:18:13
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「笑ってる場合じゃねーだろ! その女の人の幽霊、今もいるん!?」 「いないしー」 「パンダがずっと遊んでたからどっか行ったんじゃないー?」 妹達は全く気にする素振りもない。大きいほうの妹など小生の質問攻めに早くも嫌そうな顔をし始めた。

2016-08-13 00:18:36
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「だからーオバケの女の人がー、庭にいたんだよね。昨日ずっと」 「あのへんだよねー。物干し竿のへん?」 「そーそーあのへん。昨日一日中ずっと立ってんの」 「それをパンダがー」 ここで小生は妹達の会話を止めた。

2016-08-13 00:19:07
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 幽霊など一度も見たことがない小生は妹達の自然な態度に置いてけぼりをくらっていたからだ。 「つまり……女の人の幽霊が、ウチの庭にいたわけ? 一日中?」 「だからそうだって」 「その女の人の足元にー、パンダがじゃれてんの」

2016-08-13 00:19:49
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「見てわかるものなん? つか幽霊が庭にいるってやばすぎだろ! なんで怖くないんだよ!」 「そりゃ知らない女の人が庭にいたら私だってビビるし! でも昨日の女の人はオバケじゃん」 「何もしないのか?」 「触れないんだから当たり前じゃん」

2016-08-13 00:20:09
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「えっと、それどんな女の人だったん? ってかマジで幽霊? 人間じゃなくて?」 大きい妹は小生の質問を面倒くさそうに聞き流し、朝食に集中しはじめた。 「えー? オバケでしょ。だってオバケかそうじゃないかなんて見りゃわかんじゃん」

2016-08-13 00:20:48
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo まだしも可愛げの残る小さいほうの妹が答えてくれた。 何を馬鹿なことを聞いてるんだと大きい妹が口を挟んだ。 これでこの会話は終わりだと言わんばかりに大きい妹は席を立って台所を出て行った。 小さい妹もそれにならうようにさっさと朝食を食べ終わり、席を立った。

2016-08-13 00:22:36
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 「オバケとかマジどうでもよくねー?」 大きい妹の真似をして小さい妹の口調も乱れるばかりだ。小さい妹もそう言い残して席を立った。 2人の妹は終始どうでもいい話題にいつまで食いつくのかという態度だった。

2016-08-13 00:23:40
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo 大きい妹と小さい妹にとっては『幽霊が見えるかみえないか』などというのはほんの些細な違いでしかなかった。 幽霊が見えない小生にとって、幽霊は恐ろしい存在だったが。 幽霊が見える大きい妹と小さい妹にとっては、幽霊はどうでもいい存在だった。

2016-08-13 00:24:37
師匠@似非 @unishisyo

@unishisyo そう―――幽霊の話題が、小生が中学3年生になるまで一度も耳に入らなかったほどに。

2016-08-13 00:25:01