【ミリマスSS】トルプリンノポス・アカネキア#2 許されざるキッス！
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創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
アカネは、空を見上げていた。桃色の草原に寝転がり――夜空には赤い満月と青い三日月、惑星を取り囲む氷の輪。草原を駆け抜けていくマルダチンボの群れ。風景にはうっすらとノイズが走っている……。（夢か）それも、トルプリンノポス・アカネキアにいた頃の……。 01
2017-07-22 16:08:42
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
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「――――アカネ――！ また――――で寝て！ ――――――！！」不鮮明な影がアカネの近くでしゃがんだ。影は、アカネの腕を引っ張る。「汚れが――てしまいます！」「別にいいよ、汚れても。アカネちゃんのカワイさはそんなことではくすまないのだ」「私の給与明細がくすみます！」 02
2017-07-22 16:14:15
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「え、なに、洗濯費天引きなの？ それはツラいね。じゃあアカネちゃん起きてあげよっかな」「お願いしますよモー！ ゴロゴロしてるバヤイじゃないんですよ！『一番』になるために頑張らなきゃ、なんですから！」影はそう言ってアカネの手を取った。「だから、起きて！」 03
2017-07-22 16:18:24
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@chou_tan_
「そら！ 起きろ！」その声とともにアカネは布団から投げ出される。「どわああっ！」畳の上を転がり、壁に立てかけてあったボードに激突する。「フンゴッ！？」「起きたか？」歩は布団をテキパキと片づける。「明日からは自分で起きてくれよ」「……なんでこんな早起きなの？」 04
2017-07-22 16:21:48
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@chou_tan_
「なんでって、学校だからだけど」「ガッコー？」アカネは眉を寄せる。「エレナちゃんと会うの？」「ま、そう。アカネにとってはな」「アカネちゃんも行くの？」「ああ。でも、アタシの言うことには従ってもらう」歩はズイと顔を寄せる。「変に目立ったりしないこと。アカネは生徒じゃないし」 05
2017-07-22 16:26:21
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
アカネの鼻を人差し指で押す。「アタシはまだいいけど、他の人に迷惑かけちゃダメだからな」「うん」「よろしい」歩はちゃぶ台を出し、ご飯をついだ。「アカネ、おかずはどうする？ ワサビ？」「そんなわけないじゃん」アカネはやれやれと首を振る。「昨日のアレを持って来なさい。プリンをね」 06
2017-07-22 16:30:00
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
☆★☆★ 『トルプリンノポス・アカネキア』 第一章 プリティープリティーインベーダー？ 第二話 許されざるキッス！ ☆★☆★
2017-07-22 16:31:19
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侘寂（わびさび）学園。それが歩やエレナの通う学校の名だ。校風は比較的自由、校則は比較的緩く、校舎は比較的古く、校長は比較的ハゲている。いっそのこと比較的学園と名を変えてもいいくらい、比較的よい学校だ。比較的中高一貫であり、地元では比較的有名である。裏山には比較的クマが出る。 07
2017-07-22 16:36:24
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@chou_tan_
その学校の高等学生棟の屋上で、声を張り上げる少女がひとり。アカネである。「わたくしアカネは、この学園に通う生徒・先生らに危害を加えたり、物を破壊するなどの迷惑をかけないことを、ここに固くカワイく誓いまっす！」それを聞いていた歩は、パチンと指を鳴らした。「おおむねOK！」 08
2017-07-22 16:41:21
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@chou_tan_
「念のため言っとくけど」歩は人差し指を立てる。「屋上から出ちゃダメだからな！ アカネはこの学校の生徒じゃないんだから！」「わっかってるってば！」アカネはにんまりとほほ笑んだ。「まっかしといて、マイハマン！」歩は満足気に頷き、屋上を後にした。 09
2017-07-22 16:47:22
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@chou_tan_
アカネは屋上を探索する。屋上には廃材やバスケットボール、パイプ椅子などが転がっていて、比較的散らかっている。比較的イメージされる「不良生徒の安らぎの場」的な屋上ではなく、「空きスペース」としての屋上だ。もちろん、一般生徒は立ち入り禁止である。 10
2017-07-22 16:50:45
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アカネは、ものの数分で探索に飽きた。「……屋上って、どこからどこまでが屋上なのかな」柵を飛び越え、20m下の地面に飛び降りる。「ふぅ」アカネには傷一つない。飛び降りた先は、壊れて動かない噴水のある裏庭だ。「最近物忘れが激しくての」話し声が聞こえ、アカネは身を潜める。 11
2017-07-22 16:55:05
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「君んとこに、今日転校生が来るような気がしとったんじゃが」頭頂部が比較的ハゲている爺さんとハゲていない爺さんが歩いている。「なんとか原なんとかっちゅう」「それは島原エレナですゾイ。彼女が転校してきたのは二年前ですゾイ」アカネは会話内容を把握し――にんまりとほほ笑んだ。 12
2017-07-22 16:59:31
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「アユム～！」明るい声が教室に響く。その声の持ち主は、島原エレナだ。ブラジルからやってきたアイドル候補の女の子で、天真爛漫であり、いつも笑顔が絶えない。「おはよ、エレナ！」歩はダッシュしてきたエレナを抱きとめた。「オハヨ！ ネ、あのコはどうしたノ？」「あのこ？」 14
2017-07-22 17:02:26
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歩は自分の机に座る。「ああ、アカネか」「もしかしてもうオウチに帰っちゃったノ？」「いやいや、そんなことないよ。屋上で待たせてある」「ソッカ～、じゃあ休み時間になるまで会えないんだネ……」エレナはほんの少し頬を膨らませた。「アカネ、めちゃくちゃ元気だから、見たら驚くよ」 15
2017-07-22 17:06:40
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「先公きたぞ！」廊下側の窓から顔を出していた男子が叫んだ。エレナや他のクラスメイトは慌てて席に座る。エレナの席は歩の前だ。歩の席は窓側最後尾である。ガララ、と扉が開いた。「は～いお前ら席に着くゾ～イ」担任のゾイ爺が、出席簿をバンバンと鳴らし点呼を取り始める。 16
2017-07-22 17:10:44
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@chou_tan_
歩はワサビジュースを飲みながら、今日は体育あったっけ、などとぼんやりうろこ雲を眺めている。「今日はいい知らせと悪い知らせがあるゾイ」ゾイ爺は今日もお気に入りのフレーズを飛ばした。さぁ今日はどんなしょうもない話をする気だ、と生徒はため息をつく。「どっちを訊きたいゾイ？」 17
2017-07-22 17:13:13
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「悪い知らせを」クラス委員長が返事をする。ちなみに、いい知らせの方を先に訊くと、怒られる。そういう自分ルールでもあるんだろう。「じゃあまず悪い知らせ。今日は息子の誕生日なんだけど、まだプレゼント何買うかさっぱり決まってないゾイ。肩叩き券を提案するも、妻には鼻で笑われるゾイ」 18
2017-07-22 17:16:07
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
想像以上にしょうもない話に、生徒はうなだれる。「そんで次にいい知らせ。こんな時期ではあるが、うちのクラスに転校生だゾイ。さぁ入って入って」「はいは～いみなさんちゅうも～く！」侘寂学園の制服を着たアカネが入ってくる。歩はワサビジュースを噴き出し、エレナの背が真緑に染まった。 19
2017-07-22 17:19:07
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「アカネちゃんの名前は野々原茜（ののはらあかね）！ 宇宙からやって来たぷりちー☆ウチュージンだよっ！」そう言ってアカネ――野々原茜は、びしぃっと顔の横でピースした。 20
2017-07-22 17:20:32
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「トルプリ……？」エレナは不思議そうに首をかしげた。時は朝のHR直後。突然の転校生に、クラスのみんなは少し驚いていたが、特に怪しむ様子もなく茜を受け入れていた。茜の席は歩の真隣である。「そう！ それが茜ちゃんの元いた星の名前！ トルプリンノポス・アカネキアなのだ！」 22
2017-07-22 23:27:39
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
歩は、茜とエレナが仲睦まじく会話をする様子を、頭を抱えながら眺めている。「茜ちゃんはね、アイドルになろうと思うんだ」「アイドル！」エレナの目がキラキラと輝く。「アカネならなれるヨ！」「いや～難しいと思うよアイドルは」歩は口を尖らせる。「なにさ、マイハマンが勧めたんじゃんか」 23
2017-07-22 23:32:59