「おや、君も煙草を吸うのかい?」 大学を出て吸い始めた煙草の長さが半分程になったところで、女の子が声を掛けてきた。 「あぁ、もう二十歳だからね。そりゃ吸う奴は吸うさ」 「しかしこれからどんどん値段が高くなっていくようだよ」
2017-08-02 21:22:20「らしいね……って君、さっき『君“も”煙草を吸うのかい』って言わなかったか?」 女の子は少し驚き、若干口先を尖らせ、その後僅かに目尻を下げた。 よく分からないが、感情表現が豊かな娘だと思った。
2017-08-02 21:22:55「そうさ。そもそも煙草を吸うこと自体は犯罪じゃない。それによって公衆の景観が損なわれることが犯罪なのさ。ところで火を貰えるかな。ちょうど手持ちのジッポーのオイルが切らしていてね」
2017-08-02 21:23:33そう言って女の子は薄手のコートのポケットから煙草の箱を一つ取り出した。今日の女の子は私服のようで、コートの下には無地のセーター、そしてホットパンツという出で立ちだった。どうでもいいのだが、季節に関係無く女の子がやたら足を出したがるのはもはや生物としての習性なのだろうか。
2017-08-02 21:24:05その発言は暗に自分が未成年であると暴露していたが、ぼくは特に文句を言うわけでもなく、注意するわけでもなく、ライターを取り出して女の子に近付き、煙草を咥える彼女の口元で火を付けた。 「ふぅ……やはり煙草はいいものだね。未成年に喫煙の禁止を促すなんて、政府の陰謀かと思えるよ」
2017-08-02 21:24:29「まぁ、十代前半の児童がその辺で煙草吸いまくってたら、公衆の景観的には最悪だろうな」 「今や未成年の喫煙は不良の代名詞のようになっているからね。煙草が人を不良にするのではなく、不良が煙草を吸ってるだけだと言うのに」 「君のへ理屈は聞いていて心地良いな」 「ただの真実だよ」
2017-08-02 21:25:57紫煙を燻らせる女の子は、なんだかそれだけ様になっていた。 近くに立ってみて、改めて女の子が小柄ということに気付く。ギリギリぼくの肩まで身長があるかどうかというくらいだ。 なのに、ぼくより大人びた風に見える彼女を間近にして、ぼくは一瞬だけ胸が高鳴った。
2017-08-02 21:26:20特に他意があったわけではない。 単に、彼女が魅力的な女性であったことに気付いただけであった。 小指の半分程の短さになった煙草を携帯灰皿に入れ、ぼくも二本目の煙草を咥えた。 「そら」 「ん?」
2017-08-02 21:26:45いつも間にか女の子はぼくの手からライターを引っ手繰っており、それをぼくの口元へと差し出した。 ぼくは少し前屈みになり、火を付けてもらう。 白い煙が棚引き、肌寒い空気の中に溶けていく。 こういう一服も、悪くはなかった。
2017-08-02 21:27:05