好きな色は白だ。 「意外だね」 「どうして」 「男子ってのは無闇矢鱈に黒が好きなものだと思っていたからさ」 「……誰にだってそういう時期はある」 特に十代中盤の時期に。
2017-08-07 12:58:22それは自然であり、工程であり、密かなものなのだ。もしかしたら赤が好きな人の方が多いかもしれない。だからってその人が『どうこう』だと言う筋合いは全くない。それこそぼくの好きな『ナンセンスなもの』だ。例えるなら、血液型占いと同程度には。 物事の裏を見れば、途端に視界は開ける。
2017-08-07 12:58:40因みにぼくは本当に白が好きだ。 単純に『無』が好きだと言ってもいいかもしれない。『無』が『白』だと誰が断言したわけでも証明したわけでもないけれど。 だからぼくはよくここに来て思案に耽る。 白に彩られたこの空間に。 外界とは隔てられたこの空間に。
2017-08-07 12:59:00ベンチは一つ。ぼくと少女は並んで座る。 「煙草あるかい?」 「メンソールでよければ」 「何でもいいよ。銘柄なんて副次的なものに過ぎない。私にとってはね」 そう唄うように言って、少女は器用に、コーヒーカップを傾けるのと同じような手つきで(指つきで?)煙草を燻らせる。
2017-08-07 12:59:17「そう言えば私も好きな色は白だ。『色』と言うか、白という『存在感』が気に入っているのだけれど」 「ぼくは君こそが黒が好きだと思っていたよ」 「黒も好きだよ。正確には白と黒が好きだ。私は対になるものも自然と好きになってしまうのさ」 「君らしいね」 「そういう愛し方もある」
2017-08-07 13:00:08……ぼくは考える。 今まで考えたことのなかったことを考える。 ぼくは枠に囚われている。 それは無自覚であり、ぼくはそれに気づいていない。 その思考も全て想像上の産物だ。 そして少女は―― 「君は運が良いね」 「知ってる」 「だと思ったよ」
2017-08-07 13:00:54知っている。だからぼくはこうして少女と話している。 昔の哲学者は言った。「無知の知」と。知らぬことを知らぬのは罪だ。知らぬことを知っているのはそれだけで価値がある。 しかし、知らぬことは知らぬのだ。 過程ほど無意味なものはない。 無意味ほど無意味なものはない。
2017-08-07 13:01:18そうやってぼくは無理矢理生きてきた。少女に出会うまで。 「実は私も運が良かった」 「それも知ってる」 「だと思ったよ」 だからぼくは少女と一緒にいたいと思った。
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