好きな馬がいますか?ver2.0

@glassracetrackさんの秀逸連載をトゥギャりました。
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治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」25・さすがの私もゾクッした。ヒシアマゾンの強さは知っていたつもりだったが、もしかすると私の想像を超えるのかもと思った。その後、冷静になった私は、ひとつの典型を学んだ。マイル以上の距離に適性がある馬が、スプリント戦を走ると、ああゆうレースになるのだと。

2011-03-15 00:17:49
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」26・今こうして振り返ってみると、クリスタルカップを走らせたことは正解ではなかったと思う。距離短縮をした馬はそのレースでは勝てても、その後のレースに深刻な影響を及ぼすことが多い。短い距離を走るリズムや気持ちの爆発が身体に染み込んでしまうからだ。

2011-03-15 00:22:42
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」27・この後、ヒシアマゾンは夏を越して、さらに連勝を伸ばし、ようやくエリザベス女王杯までたどり着く。ほとんど最後方からレースを進め、4コーナー手前から一気に動き始める、ディープインパクトのようなレース振りであった。その豪快な末脚に誰もが酔いしれた。

2011-03-15 00:27:28
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」28・そんな華やかな脚質を陽の面とすると、ヒシアマゾンが次第に乗り難しくなってゆくという負の面もあったはずである。クリスタルカップでああゆうレースをしたことで、ヒシアマゾンは道中でスイッチが入りやすい敏感な馬になってしまっていた。

2011-03-15 00:31:02
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」29・ほんのちょっとでもハミが掛かると、ヒシアマゾンは一気に燃え上がり、制御不能となり、あっと言う間に先頭に立ってしまう。そんな危険性を常に感じながら、中館英二騎手は騎乗していたに違いない。だからこそ、あんなにも極端に後ろから行かざるを得なかったのだ。

2011-03-15 00:34:27
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」30・中館英二騎手じゃなかったらG1レースを何勝していただろう?と揶揄する人もいるが、私はそうは思わない。正直に言うと、そう思っていた時期もあったが、今振り返ってみると、乗り難しい牝馬をなだめながら、絶妙のタイミングでゴーサインを出しているなと思う。

2011-03-15 00:38:21
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」31・かつて祐ちゃん先生(故野平祐二調教師)が、「和田竜二騎手はテイエムオペラオーに乗っているときが1番上手い」と言っていたように、私も「あの時、中館英二騎手はヒシアマゾンに乗っているときが1番上手かった」と思う。

2011-03-15 00:42:21
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」32・それでも、中館英二騎手は自らの力量の限界を悟ったのか、ヒシアマゾンが引退した後、華やかな舞台を背にした。自らの得意パターンである逃げを磨き、ローカル競馬場で生き残ることを選んだ。中館英二騎手もまた、ヒシアマゾンに競馬の全てを教えてもらった1人である。

2011-03-15 00:47:56
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」33・無事に夏を越したヒシアマゾンは、ほぼ最後方からの大マクりに磨きをかけ、クイーンS→ローズSのトライアルを連勝した。どちらのレースも1.2倍という圧倒的な人気に推されながらの圧勝であった。私は次走のエリザベス女王杯が待ち遠しくて仕方なかった。

2011-03-16 01:16:11
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」34・ライバルと目されていたチョウカイキャロルは、前哨戦のサファイアSでテンザンユタカを捕らえられず惜敗を喫した。勢いの違いは誰の目にも明らかで、エリザベス女王杯の1番人気はヒシアマゾンで1.8倍、対する2番人気のチョウカイキャロルは7.2倍と分かれた。

2011-03-16 01:22:59
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」35・今はこのように書いているが、当時の私はチョウカイキャロルが2番人気であったことさえ知らなかった。ライバルだと思ってはいたが、主人公がライバルに負けることがないように、ヒシアマゾンがチョウカイキャロルに負けることなど、これっぽっちも考えていなかった。

2011-03-16 01:30:16
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」35・だから、エリザベス女王杯の最後の直線で、なかなか抜け出せないどころか、しぶとく食い下がるチョウカイキャロルとアグネスパレードに差し返されそうになったヒシアマゾンの姿を観て、私は心臓が止まりそうになった。目を見開いて、意味をなさない叫び声を上げた。

2011-03-16 01:34:43
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」36・ゴールした瞬間は勝ったと思えた。このあたりは、4年間も競馬を観ていれば、なんとなく分かるようになる。写真判定の末、ハナ差での勝利。中館英二騎手が上ずった声で勝利ジョッキーインタビューに応えている。私は右手を左胸に当て、心臓が動いていることを確認した。

2011-03-16 01:45:10
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」37・ひとたび冷静になった私は、ヒシアマゾンがいつものような強さを見せなかった理由を距離に求めた。2400mという距離が少し長かったのかもしれないと。その分析は間違ってはいなかった。私は今でもヒシアマゾンはマイル~2000mがベストの馬だと思っている。

2011-03-16 01:53:49
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」38・いったんそう考えてしまうと、すぐに割り切ってしまうのが私の悪いクセである。ナリタブライアンにも負けないぐらい強いと信じていたにもかかわらず、2500mで行われる有馬記念でヒシアマゾンを買うことができなかった。買ったのはナリタブライアンの単勝であった。

2011-03-16 02:02:30
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」39・さらに心の片隅で、牡馬しかも古馬の中に混じってしまうとさすがに厳しいのでは、と思う冷めた私もいた。いざレースが始まると、私が観ていたのは、あれだけ好きだったヒシアマゾンではなくナリタブライアンであった。初対戦で歴戦の古馬を千切ってみせたのだ。

2011-03-16 02:09:41
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」40・ナリタブライアンのあまりの強さに興奮し、さらに2着にヒシアマゾンが突っ込んできたのを知って、私は胸が張り裂けそうになった。リプレイで観ると、もの凄い手応えで外を回ってきているではないか。古馬や牡馬や距離を理由に、わずかでも評価を下げた自分を恥じた。

2011-03-16 02:15:56
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」41・そして、ヒシアマゾンの底力を改めて認識すると共に、好きな馬や自分が強いと信じる馬は買い続けなければならないことを学んだ。あの有馬記念でヒシアマゾンの馬券を持っていたら、どれだけ幸せだっただろう。お金の問題だけではなく、幸福の問題だ。

2011-03-16 02:22:42
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」42・ナリタブライアンに迫ったことに気を良くしたヒシアマゾン陣営は、アメリカへの遠征プランを立てた。ナリタブライアンよりも先に海外に行くことには驚いたが、計画は実行へと移された。ところが、海を渡ったヒシアマゾンは、現地で調教中に脚部不安に見舞われてしまう。

2011-03-16 23:47:39
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」43・海外遠征は失敗に終わってしまったが、私はそれほど落胆しなかった。まずは無事に帰ってきたことを喜んだ。いや、もっと正直に言うと、あまり遠くに行ってほしくはなかったのだろう。あの時代、海外遠征は今ほど身近なものではなく、レース映像も手に入りにくかった。

2011-03-16 23:55:25
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「好きな馬がいますか?」44・帰国初戦のレースとして、ヒシアマゾンは高松宮杯を選んだ。最後の高松宮杯となったレースである。私はいまだに高松宮とくれば、スプリントG1とは思えず、中京競馬場の2000mで行われる夏の古馬重賞という感覚が抜けない。

2011-03-17 00:04:01
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」45・ダイタクヘリオスが恋に落ちたダイイチルビーと叩き合った1991年、有馬記念を3年連続で3着したブロンズコレクター・ナイスネイチャがようやく勝った1994年、そして、ヒシアマゾンがまさかの逃げを打って、連対記録が12でストップした1995年。

2011-03-17 00:09:30
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」46・私が競馬を始めてからわずか5年しか行われなかった高松宮杯だが、強烈な印象を残しているレースが実に多い。最後の直線で失速したヒシアマゾンを、外から差し切ったマチカネタンホイザもまた、鼻血や蕁麻疹による出走取り消しが続いた末の、劇的な勝利であった。

2011-03-17 00:17:10
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「好きな馬がいますか?」47・逃げて5着に敗れたことで、中館英二騎手の騎乗を批判する論調が目立つようになった。ふさわしい騎手に替えるべきだという単刀直入な意見もあった。私はそうは思わなかった。それよりも、ヒシアマゾンはなぜ逃げたのか、なぜああも折り合いを欠いてしまったのか。

2011-03-17 00:23:29
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」48・そればかりを考え続けた。その時は理由が分からなかったが、なんだかヒシアマゾンが苦しがって、前へ前へと行きたがっていることだけは伝わってきた。のちになって、馬はどこか苦しいところがあると、レースから逃げようとして暴走するということを知った。

2011-03-17 00:27:26
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