好きな馬がいますか?ver2.0

@glassracetrackさんの秀逸連載をトゥギャりました。
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治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」149・松田博資調教師ほどの熟練の腕をもってしても、夏から秋、そして冬にかけて変化してゆく、牝馬の体調のバイオリズムには逆らえなかった。ほぼ馬なりで天皇賞秋を勝ったブエナビスタの走りを見て、松田博資調教師はシマッタと内心思っていたのではないだろうか。

2011-04-10 23:36:16
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」150・続くジャパンカップはわずかに調子が下がっていたが、ブエナビスタほどの超一流馬にとっては、走りに大きく影響が出るレベルではなかった。世界の強豪を相手に、府中の2400mでは不利とされている16番の外枠をものともせず、大外から全馬をなで斬りにした。

2011-04-10 23:42:12
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」151・その後の降着騒動について、今回の主旨には関係ないので詳しく書かないが、あれはどう考えてもミスジャッジだった。その後、裁決の問題が連鎖的に起こったのは偶然ではない。嘘を隠すために嘘をつかなければならなくなるように、ミスを認めなければミスは再び起こる。

2011-04-10 23:53:20
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」152・有馬記念に臨むにあたって、ブエナビスタの体には冬毛が差し始め、体調は明らかに下降線を辿っていた。牝馬がこうなってしまうと、競走能力は半減してしまう。前進意欲に欠けていたからこそ、ポジションを悪くしてしまい、最後は地力で追い込んできたが届かなかった。

2011-04-10 23:56:56
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」153・そういった伏線があって、あのハナ差が生まれたのだ。2500mも走って、なんでハナの差だけ?と不思議に思うのも無理はない。だけど、競馬とはそういうスポーツでありゲームであるのだ。

2011-04-11 00:02:35
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」154・どこかで将棋の羽生善治氏が「将棋のルールを作った人は凄い」と語っていたが、それだけではないと思う。もちろんルールを作った人も凄いが、最初から完成されていたわけではないだろう。

2011-04-11 00:05:34
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」155・将棋の歴史の中で、人間がルールに合わせて鎬を削ってきたからこそ、わずかな駒の自由不自由が勝敗を大きく左右したのだろう。競馬でいうと、人間と馬が全知全能をかけて、スタートからゴールのあの1地点を目指して競走するからこそ、ハナの差で決着が付くのだ。

2011-04-11 00:09:52
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」156・今となっては、有馬記念でのヴィクトワールピサとブエナビスタの間にあったハナの差が、偶然ではなく必然であり、大きな意味を持っていたことに異論を挟む人はいないだろう。その後、ヴィクトワールピサは日本馬として初めてドバイワールドカップを制したのだ。

2011-05-02 23:21:43
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」157・この差が分かる(感じる)のが単勝の思想、つまり、1頭の馬を観るという思想である。偶然か必然かで言えば、必然の思想とも言えるかもしれない。

2011-05-02 23:35:35
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」158・「対談 競馬論」(ちくま文庫)の中で、寺山修司は単勝の思想を英雄主義として、やんわりと批難している。「クレオパトラのハナ(鼻)が3センチ低くなくても、彼女に惚れていたのがシーザーじゃなく、シーザーの馬舎番だったら歴史は変わらなかった」と語っている。

2011-05-02 23:39:34
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」159・また寺山は、単勝の思想はきわめて感情的なものであり、「競馬というのはもっとそういう個人の情念みたいなものを超えた、一種の叙事性というか、全体性、集団性といったものがあることを無視できない。対立の同時的表現が必要」とも語っている。

2011-05-02 23:42:49
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」160・それに対し、対談相手の虫明亜呂無は「勝つことを祝福するのもよいが、同時に、敗れる馬の敗れゆく要素をはっきりと知っていなくてはならない。ドラマの主なる英雄すらよく知られていないではないですか」と反論する。

2011-05-02 23:46:51
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」161・寺山氏の言うことも、虫明氏の言うことも良く分かる。1頭の馬を観るという視点では、競馬を形づくっているもっと大きな背景が抜け落ちてしまうのではないかという見解に対し、いやまずは目の前の1頭を知らなければドラマは語れないというそれである。

2011-05-02 23:54:13
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」162・私は両者に共感しつつ、虫明氏の「英雄すらよく知られていないではないですか」という言葉に反応する。そして、クレオパトラのハナは3センチ低くなかったわけだし、シーザーが彼女に惚れたのも事実で、だからこそ歴史が変わったのだと思うのだ。それは偶然ではない。

2011-05-03 00:01:13
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」163・寺山氏は競馬の偶然性について、こう語る。「競馬は一口に言って「数」に似ている。「数」には増えてゆくときの言いようのない魔力があって、それはどこか運命的なのです。つまり、偶然性ということについて、もっと考えてもいいかな、と思わせる何かがある」と。

2011-05-03 00:05:30
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」164・対して虫明氏は、「ロシアでは真実は幻想の姿をしていると言ったのはドストエフスキーだが、競馬では真実は偶然の姿を借りてしか表れない」と言及する。このやりとりひとつを取っても、私には虫明氏の語る言葉の方がしっくりとくる。

2011-05-03 00:13:43
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」165・競馬では真実は偶然の姿を借りてしか表れない、けだし名言である。つまり、偶然に見えることの中に真実があるということである。競馬のほとんどは偶然で構成されているが、それらの中に混じって、真実であり必然が存在するということだ。

2011-05-03 00:19:37
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」166・安田記念を勝ったのがトーワダーリンではなくノースフライトであったこと、有馬記念でヴィクトワールピサとブエナビスタの間にあったハナの差、どちらも偶然の姿を借りた真実であり必然なのだ。ここに競馬というゲーム、そしてスポーツとしての醍醐味がある。

2011-05-03 00:25:10
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」167・だから私は杞憂するのだ。単勝の馬券を勝っていない人が、その差が分かるようになる日が果たして来るのだろうかと。たとえば連勝複式やワイド、3連複、または馬単や3連単でも頭を固定しない馬券を買っている人が、

2011-05-03 00:38:04
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」168・ヴィクトワールピサとブエナビスタのハナ差について深く考えたり、心底喜んだり悔しがったりすることがあるのだろうか。いや、ない。どちらが勝っても同じだからである。馬券の種類が悪いのではない。1頭の馬を観なくなると、真実までもが見えなくなるのが怖いのだ。

2011-05-03 00:43:03
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」169・競馬を何年も続けていて、偶然も必然も分かり、自分なりの競馬の楽しみ方を心得ている人はまだいい。そうではなく、これから競馬を始める人、競馬を始めたばかりの人が特に問題なのだ。偶然の中にある競馬の真実や必然に触れることなく、競馬を去ってほしくないから。

2011-05-03 00:48:33
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」170・私が競馬を始めた頃は枠連が主流であり、競馬を教えてくれた友人も枠連で賭けていた。当然のことながら、私も最初は枠連で賭け始めた。というよりもむしろ、枠連以外の馬券があることすら知らなかった。単勝や複勝といった賭け方があることを知ったはだいぶ後の話だ。

2011-05-03 00:53:26
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」171・私は運良く、いつからか単勝にシフトしていくことができたが、あのまま枠連、その流れを汲んで馬連、馬単、3連単という馬券を買っていたらどうなっていただろうか。それでも今と同じように競馬を好きで続けていたと思いたいが、正直に言って分からない。

2011-05-03 00:57:08
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」172・私に競馬を教えてくれた友人は、今、競馬をやっていない。彼の競馬時計はナリタブライアンあたりで止まっているので、最近の話が通じない。私が知っている限りにおいて、あの頃、枠連の馬券を買っていた人間は、ほぼ全員、競馬に興味を失ない、競馬を去ってしまった。

2011-05-03 01:03:06
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「好きな馬がいますか?」173・少なくとも20年以上コンスタントに競馬を続けている人間はいない。仕事が忙しくなった、家庭を持ったなど、それぞれに理由はあっても、ようは競馬の本当の面白さを知ってもらえなかったということだ。競馬が記号や偶然でしかなかったのだ。

2011-05-03 01:14:32
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