ニンジャスレイヤーとアユミ=サン
「ネタバレな」「自己責任」「テンプラ」「家族が大事」威圧的な文言が表示されるカンバンを押しのけてあなたは前へ進んだ。
◆忍◆ ニンジャ名鑑#0001 【ニンジャスレイヤー】 謎のニンジャ「サツガイ」の手で幼馴染アユミと共に殺されたマスラダ・カイは、邪悪なニンジャソウル「ナラク・ニンジャ」の憑依によって蘇り、ニンジャスレイヤーとなった。悔恨と憎悪を力に変え、サツガイへの復讐を開始する。 ◆殺◆
2016-10-12 15:26:04マスラダがマッチを擦って火を灯し、それをオリガミに移していくのを見て、アユミは驚きに目を見張った。「ちょっと、何をしてるの!」「なにが」マスラダも逆に怪訝そうにアユミを見返した。金属の盆の上で、アブストラクトな水晶枝めいたオリガミ作品は燃え萎びてゆく。「もったいない!」「何?」
2016-10-13 22:20:33「だって……作品が」「作品?」マスラダは灰溜まりと化したオリガミを見た。そして合点がいった。「ああ。そういう事か。成る程」「でしょ」アユミは持ち上げかけた木箱を下ろした。マスラダは頷いた。「作品として出さないオリガミはその場で灰にする。万一これが市場に出れば俺の作品が値崩れする」
2016-10-13 22:25:52「そういうものなの」「そういうものだ」マスラダは肩をすくめた。「他の分野は知らないが、少なくとも、おれはそうする。周りの連中も。特に注意深く扱うんだ」彼は薄く透ける正方形の紙をつまんで見せた。「凄い技術で作られたワ・シだ。だけど、これは単なる素材だから、二束三文」「うん」
2016-10-13 22:31:25マスラダは長い指を紙の表面に滑らせた。すると、一秒後、彼の手のひらの上にあったのは、歩きながら振り返った姿勢で凍り付いた鳩だった。アユミが息を呑んだ。「……ただの紙を、おれがこの形にした。これで価値が生まれた。おれという人間と、おれの技術と、注意深い取り扱い。意味と価値になった」
2016-10-13 22:38:09「凄い」アユミがおそるおそる鳩に触れた。マスラダは言った。「別におれはカネモチになりたいわけじゃない。カネ、好きだけどな」微かに笑い、「意味と価値を壊すのは容易いんだ。だけど、おれはおれの作品にしかるべき敬意を求める。カネのやり取りは一番公正な敬意の尺度だ。だからそれを守りたい」
2016-10-13 22:45:34マスラダは鳩を金属の盆に乗せ、やはり火を灯して灰に変えた。アユミを見て、問いかけるように首を傾げて見せた。アユミは苦笑した。「どうしても勿体ないと思っちゃうけど、わかった」「誠実に話したつもりだよ」マスラダは真顔で言った。アユミは頷いた。「本当に立派だ、カイは。私なんか平凡で」
2016-10-13 22:48:19「平凡かどうかは知らないけど、アユミは凄いだろ」マスラダはチャに手をつけた。アユミが淹れてくれてからだいぶ経っており、ぬるくなっている。「それに、おれは立派じゃない。少なくとも、まだ立派じゃない」ようやくオリガミ・アート市場で買い手がつくようになった。ほんの最近のことだ。
2016-10-13 22:53:49ワモンは小さなドージョーのカラテ・センセイであり、過去にはもっと規模の大きい孤児院の面倒を見ていたらしい。マスラダとアユミは、老境を迎えたワモンがそうした仕事を信頼のおける人手に渡したのち、ほとんど気まぐれのように引き取った孤児だった。 2
2016-11-08 22:15:16マスラダもアユミも実の親の記憶は持たなかった。それでよいのだ、とワモンは幼い二人に請け合った。それでもマスラダは物心ついたのち、実の親について深く調べた事がある。結果、ワモンの言葉には嘘はない事がわかったし、それ以上しらべればロクな事にならないと思った。家族はワモンとアユミだ。3
2016-11-08 22:20:22成人してから二人はワモンに追い出されるように社会に出た。それから彼に顔を合わせたのは臨終の三日前だった。病状については隠していたらしい。「サヨナラ」マスラダは呟き、振り返った。アユミが正座から立とうとして呻き、よろめいた。「痺れた……」アユミは苦笑した。マスラダと目が合った。 4
2016-11-08 22:23:57「BWAHAHAHAHA!MWAHAHAHAHA!」笑い!眼差し!血溜まり!八つの刃を生やしたスリケン……!(カイは偉いよ)アユミはマスラダを見ずに呟く、(私には何もない)(何故)(カイにはある)(おれには何もない……今は何もない!)(((然り!サツガイが奪ったのだ!))) 30
2017-05-26 00:50:23アユミは生きていた。だがサツガイによって殺された。サツガイ。マスラダは周囲を見渡した。マルノウチスゴイタカイビル3階。展示会を控えたウシミツ・アワー。ニューロンが焼ける。マスラダは耐える。「どうした?アユミ」「どうした、ッて……随分だね。ほら」アユミはフロシキ包みを差し出す。11
2017-08-17 22:25:09「言われた通りの物の筈だけど。これで大丈夫?」「ああ……そうだ」マスラダは中身を確かめた。そして微笑んだ。「良かった。焦ったよ」「わたしが居たからよかったけど!」「恩に着る」「恩に着てよ」「今度飯でも奢るさ」「そうね」アユミは少し考えた。「そうだ。テンプラ」「テンプラか……」12
2017-08-17 22:27:40「このビルにいいお店が出来たって。今度行こうよ」「高そうだな」「別にそこじゃなくてもいいけど」「いや、そこにしよう。店の名前を……」アユミの肩越しに、マスラダは荒地のトリイを見た。マスラダの作品があったはずのところには荒野とトリイがあった。超自然の風が吹いた。 13
2017-08-17 22:31:17黒いトリイ。それをくぐり、現れた者がある。一歩。一歩。その者が足を踏み出す。キュン。キュン。キュン。スリケンが放たれた。アユミを突き飛ばし、庇う。その者のフードの奥の闇に、嘲笑う白い歯が見える。「BWAHAHA!GWAHAHAHA……!」「……!」マスラダは声もなく叫んだ。 14
2017-08-17 22:35:07キュン。サツガイが彼を認識したその瞬間、ニンジャスレイヤーの眉間をめがけスリケンが飛翔し、貫き、爆発四散せしめた……否。そうなる1秒前、ソーマト・リコールめいて鈍化した時間の中で、ニンジャスレイヤーのニンジャ反射神経は飛来するスリケンを捉えていた。彼はスゴイタカイビルに居た。 6
2017-08-24 21:53:53アユミは流星めいた速度で射線に切り込み、飛来したサツガイのスリケンを弾き飛ばした。研ぎ澄まされたカラテだった。アユミのチョップはサツガイのスリケンを……「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはサツガイのスリケンをチョップで弾き返した。出来る。彼には出来る。 7
2017-08-24 21:56:42