前夜に把握していたなら、なぜ、事前に国民に知らせないのか?

北朝鮮のミサイル発射に関連して、官邸が比較的正確な予測をしていたとしても、なぜ、それを国民に周知できないのか? その理由を北岡元氏の『インテリジェンス入門』『インテリジェンスの歴史』を元にして、簡単に説明しました。
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■用語集

インテリジェンス
世界標準のテキストである『インテリジェンス 機密から政策へ』では以下のように定義される。
①国家安全保障上の要求から、特別の国家機関(情報機関)によって生産された情報。これが狭義のインテリジェンス。
②①が生産されるプロセス。専門的にはインテリジェンス・サイクルともいう。
③①情報、②プロセスを、仮想敵のスパイ等から護る取り組み(防諜、カウンター・インテリジェンス)。
④暗殺や仮想敵の反体制派を支援する等の秘密工作活動。

インフォメーション
インテリジェンスの②、インテリジェンス・サイクルでは、通常、情報(インフォメーション)を収集し、分析することによって、①である国家安全保障上の要求を満たしたインテリジェンスとなる。
つまり、収集された段階では、すべての情報はインフォメーションなのである。
これを人の手で加工(分析)することによって、インテリジェンスとなる。

サード・パーティ・ルール
他国Aから提供された情報を他国Bに見せたい場合は、Aの同意を事前に得なければならない、という基本的なルールのこと。
詳しくは、北岡元『インテリジェンス入門』p.127 を参照されたい。

北岡元
現タジキスタン特命全権大使。外務省国際情報局・国際情報課長を務めたこともある、著名なインテリジェンス研究者の1人。
『インテリジェンス入門』『インテリジェンスの歴史』『仕事に役立つインテリジェンス』『ビジネス・インテリジェンス』などの著書がある。
HKのホームページ

孫崎 享 @magosaki_ukeru

今日の動画:ミサイル発射<望月記者>首相が公邸宿泊「前夜に把握していたなら、なぜ、事前に国民に知らせないのか」 菅官房長官「答えることを控える」本当に頑張る東京新聞の望月記者。全国紙の記者は自分達の勇気のなさに恥ずかしくないのか。blog.livedoor.jp/gataroclone/ar…

2017-09-01 10:01:19
斉藤久典 @saitohisanori

同盟国や友好国からもたらされた情報を、右から左にペラペラしゃべるような政府は信用を失う…ぐらいのことは自分にも解る。 twitter.com/magosaki_ukeru…

2017-09-01 11:21:37
桐島 / 相良 @krsmnry

北岡元著『インテリジェンス入門』慶應義塾大学出版会 に、「利益の解釈の競合関係による秘匿(p.123)」として説明されてましたね。あとサード・パーティー・ルールも重要です。

2017-09-01 22:33:20

例えば国民が、自分の国の政府に対して情報公開を求めることがある。
そして政府がそれを拒否することもある。
(中略)
なぜ、このようなことが起こるのだろうか。
その原因はいくつかあるが、ここで再びインテリジェンスの理論からこのような秘匿が説明できるかを考えてみよう。
まずA国政府の情報サイドが、収集したインフォメーションに基づいて、隣国Bが近くミサイルを発射するかもしれないというインテリジェンスを生産し、政策担当組織に配布したとする。
A国政府はさらに、実際にミサイルが発射されるタイミングやそのターゲット等について、追加のインフォメーションを入手しようとするだろう。
さらに隣国Bに影響力を持つC国に接触し、隣国Bのミサイル発射を止めさせるよう圧力をかけるように要請するかもしれない。
さてここでA国政府が、この隣国Bによるミサイル発射の可能性に関するインフォメーションやインテリジェンスをA国民に公開した場合に、どのような影響が及ぶだろうか。
A国政府はこの点を検討し、次のような理由で、このインテリジェンスを国民に対して秘匿することにしたとする。

このインテリジェンスを公表するには、時期尚早だ。
発射のタイミングもターゲットも分かっていない。
政府も明確な対策が打ち出せない。
このような状況で、ミサイル発射の可能性があることが分かると、国民の間で不安感が増大して、混乱が生じる可能性が高い。
混乱の種類としては、A国から逃れようとする国民が空港へ殺到したり、「隣国BがA国内で大規模なテロを画策している」といったデマが飛んで一層の混乱が生じたり、A国に在留するB国民が暴行を受けるといった種々の可能性が考えられる。

さて、A国政府がインテリジェンスを秘匿しているうちに、隣国BはC国からの圧力によってミサイル発射を中止したとする。
その後、政府がインテリジェンスを国民に対して隠していたことが暴露されたら、どのような事態が生じるだろうか。
「なぜそのような、国民の生死に関わる重要なインテリジェンスを政府は隠していたのか」という形で、政府批判が高まるだろう。
A国民は、政府に対して主に次のように主張したとする。

ミサイルが発射されなかったから良いようなものの、本当にミサイルが飛来すれば、多くの国民が犠牲になっていただろう。
他方、国民は一人一人、自分の命を守るために最善を尽くす権利がある。
もしインテリジェンスが事前に公表されていれば、A国を離れたり、地下に避難したりといった自衛策を講ずることができた。
A国民は、デマを流して一層の混乱を引き起こしたり、隣国Bがミサイルを発射する可能性があるからといって、在留のB国民に暴行を加えたりするほど幼稚な国民ではない。
そのような可能性を政府が懸念するのは、政府が一般国民を蔑視しているからに他ならない。

この例では、政府も国民も国民の利益を考えているから、その意味では利益の競合関係は存在しない。
しかし「何が国民の利益か」に関する解釈を巡って競合関係が生じているのである。

以上、北岡元著『インテリジェンス入門【第2版】』慶應義塾大学出版会p.124~126 より引用

桐島 / 相良 @krsmnry

諸君、時事的なインテリジェンスの話題が流れてきたときは、北岡元著『インテリジェンス入門』慶應義塾大学出版会 を再読しましょう。

2017-09-01 22:35:15
桐島 / 相良 @krsmnry

北岡元著『インテリジェンス入門』と小林良樹著『インテリジェンスの基礎理論』は、インテリジェンスの基本中の基本のテキストですよ。

2017-09-01 22:37:35
桐島 / 相良 @krsmnry

インテリジェンスについての基礎知識を身につけようとするならば、マーク・M・ローエンタール著 茂田宏監訳『インテリジェンス 機密から政策へ』小林良樹著『インテリジェンスの基礎理論』北岡元著『インテリジェンス入門』の3冊は外せません。或いはこの3冊で十分といっても過言ではありません。

2017-09-01 22:43:35
桐島 / 相良 @krsmnry

あくまでも、基礎知識だけなら、の話ですけどね。

2017-09-01 22:44:30
桐島 / 相良 @krsmnry

北朝鮮のミサイルについて「前夜に把握していたなら、なぜ、事前に国民に知らせないのか」という批判があるらしいですが、これはインテリジェンス的には以下のように回答できます。

2017-09-01 23:13:07
桐島 / 相良 @krsmnry

「例え北朝鮮がミサイルを発射する可能性が高い、というインテリジェンスが政策決定者に配布されていたとしても、実際に発射されるまではどうなるかは確定していないのですよ。これをインテリジェンスの世界では『ミステリー』と言ったりします」(北岡元著『インテリジェンスの歴史』p.32)

2017-09-01 23:17:25

結構な量の引用をしなければならない、程度には背景説明が必要な部分なのですが、詳しくは『インテリジェンスの歴史』第1章「2:時間差および意図と推測の量の問題」を参照してください。
学術書ですが、面白いです。

桐島 / 相良 @krsmnry

インテリジェンスの不完全性・不確実性・曖昧さといった部分に思いを致していただきたい。相手が実際にどう行動するのかは、その時になってみないと、分からないんです。

2017-09-01 23:20:44
桐島 / 相良 @krsmnry

今回、官邸が北朝鮮のミサイル発射を予測できていたならば、それは確かに、それなりに凄いことです。「インテリジェンスの成功」といえるでしょう。とはいえ、インテリジェンスの世界には予知はあり得ません。相手の意図を推測するという、極めて難しい、不確実性の高い作業をしているのだから当然です

2017-09-01 23:29:20
桐島 / 相良 @krsmnry

官邸が国民に周知した結果、北朝鮮がミサイル発射を思いとどまってしまった場合、官邸が誤った警報を流してしまった、ということになりますしね。これが1回ならまだいいですが、何度も続くと狼少年になっちゃいますので。

2017-09-01 23:37:42
桐島 / 相良 @krsmnry

この問題は政府による広報だけでなく、インテリジェンス機関による、政策決定者への警告も含まれます。相当根深い問題ですよ、これは。

2017-09-01 23:39:27
桐島 / 相良 @krsmnry

そもそも官邸は何と言って国民に周知すればいいんですかね? 撃たれる場所までは把握できていないわけですし。

2017-09-01 23:48:12
桐島 / 相良 @krsmnry

仮に場所と時間を推測できても、実際に撃たれるまではどうなるかは分かりません。例えば、1週間前に北朝鮮にいる情報提供者からミサイル発射の計画がある(あるいは「近々計画が正式に認可される」)、と知らされても、この1週間で計画が延期される、という可能性もありますし、

2017-09-01 23:52:32
桐島 / 相良 @krsmnry

ほとんどリアルタイムで「今準備を進めている」と知らされても、もう広報している時間的な余裕はないでしょう。そのリアルタイムの直接的なインテリジェンスですら、相手が行動を変更する可能性は常にあるので、究極的には100%のインテリジェンスは存在しません。

2017-09-01 23:55:57
桐島 / 相良 @krsmnry

やっぱりごく普通の一般的な話しかできないな……。もし私に北朝鮮のミサイルと現代日本のインテリジェンスについての背景知識の蓄積があれば、もうちょっと詳しく語れるのでしょうけど。

2017-09-02 00:10:37