生きろ＊渋

まるこ@エイト妄想 @eightmaruter

＊生きろ＊渋 薄暗い部屋の中で、頭まで布団を被りながらテレビを観る。 〜♪ 小綺麗な格好をした女の歌手が、何処にでもありそうな明るい歌を歌っていた。 …世の中、前向きな歌ばっかりだ。 “夢だけは失うな…” “希望に満ちた明日へ…” “どんな時も前を…” バカみたい。

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2 周りの子たちが、どんどん自分の道を決めて歩み出そうとしている中、 私には 何も ない。 目標や、明日を生きる意味さえ分からない。 学校に行っても、浮いた存在。 もう出来ることならこんな人生… “次のアーティストは、関ジャニ∞でーす！” その声に顔を上げてみると、

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3 照れながら笑みを浮かべる、すばるくんが映ってた。 …遠くに行っちゃったな。 昔はあんなによく遊んでたのに。 最近はこっちに帰ってきても、全く会わなくなった。 あんな、自分の夢を掴んで、キラキラ輝いている人がいるんだと思うと、 余計にツラい。 --- ppp…♪

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4 ちょうどその時、携帯の画面が明るく光った。 「あ…。」 【明日そっちに行くから。 すばる】 --- 来なくていい。 来ないで… こんなんじゃ合わせる顔がない。 深くベッドに潜った。

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5 --- “降りてきなー！すばるくん来てくれたんだよ？” お母さんが階段の下から出す大きな声にも耳を塞いだ。 構わないで…私に。 …どっか行ってしまいたい。 誰もいない暗闇の中に。 楽になりたい…。 そんな事を考えていると、耳に当てていた両手が外された。

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6 「何してんねん、お前。」 振り返ると、昔とは変わらない顔がそこにあって。 いや、少し変わったかな…。 『…何できたの。』 「来たらあかんかった？」 少し笑いながら、私の部屋の中を見回す。 「めっちゃ懐かしなぁ。久しぶりやん、お前の部屋。」 『……。』

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7 今の私を見ないで。 無邪気にあなたと遊んでた、昔の私はもういないから。 「で、最近どうなん？」 彼が、私の椅子に座りながら軽い口調で聞いた。 『…そっちこそ。 ご盛況なようで。』 うずくまりながら答える。 「そんなんちゃうわ。 …大学出たらどうすんの？」

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8 『別に…』 「なんやそれ。 やりたい事とかないん。」 …何でこう、 聞かれたくないことを普通に聞いてくるかな… 『…取り柄とかないし。 すばるくんみたいに。』 「…ふーん。」 興味無いのか、興味あるのか、よく分かんないような返事。 だから、ほっといてよ。

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9 『すばるくんには分かんないんだよ。 住む世界が違うもん。 私の焦りとか、思いとか… そういうの、分かんないよ。』 小さい声で抵抗する。 …もうこれが精一杯。 声が出せなくても出せない、思いを隠すしかない存在が、 すばるくんの知らないとこでは、沢山いるんだよ。

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10 「… お前、昔の俺みたいやな。」 『…え？』 「ま、ええわ。 これ聞け。」 そう言って立ち上がったかと思うと、音楽プレーヤーを私の足元にポイッと投げた。 『…いいよ。』 「ええから、聞け！」 抵抗する私の手を退けて、無理やり耳にイヤフォンをねじ込んだ。

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11 どうせまた、ありふれた歌なんでしょ？ 『…』 仕方なく耳を澄ませる。 〜♪ …広がる 広がる 目の前 世界が広がる… 皆の、力強くて、 だけど優しい歌声が頭に響いていく。 …何もなくたっていいから やりたい事なんて 夢や希望なんて なくたっていい…

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12 …ただ一つだけ あなたを生きて… 『…っ。』 何だこれ。 目から溢れてくる涙。 私、歌なんか聞いて泣くんだっけ。 …誰でもないあなたを生きて… --- 曲を聴き終わった後、すばるくんは帰り際に言った。 「それ、やる。」 『…いらないよ。』

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13 「黙って貰っとけ。」 『…ありがと。』 ボソッと言うと、すばるくんは小さく笑った。 「…なぁ。」 『…。』 「俺も、今は華やかな場所にいるように見えるかもしれん。 でも、お前と同じやで。 悩みもあるし、消えたいと思うこともある。」 『…そう、なの？』

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14 「けど、結局、 生きてる事より幸せなことってないと思うねん。 せやから、 ん〜、」 と、頭を掻いてから照れくさそうに 「生きろ！ …っな。 じゃ、また！」 そう言って、去っていった。 --- 『…。』 生きろ…か。 『… っふふ、雑。』

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15 すばるくんらしい。 遠くに行ってたと思ってたけど、みんな同じなんだ。 なら、そっか。 私、生きるよ。 明日も。 大きく息を吸ってカーテンを開けた。 --- …生き進め… END pic.twitter.com/4j40x6QnqQ

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