少女人形本編再演・永久に撫子の咲く庭

瑠花 @kirisakiflower

再会の約束なんかもしちゃって……ふふ、私ったら浮かれてしまっているみたい。だから、もう少し…もう少しだけこのぬるま湯のような猶予期間を彼女と二人で過ごさせて。私の『心残り』を遂げるのはそれでもかまわないんだもの。もう千年もこの思いを抱き続けてきたんだもの、いいでしょう？

瑠花 @kirisakiflower

六の宮の姫君に私の心を打ち明けてしまえば、もう元には戻れない。だから、……もう少しだけあの子と『姉妹』でいさせて【楓子】

瑠花 @kirisakiflower

古典の豆知識じゃ。わらわが生きておった時代、「妹」とは男性から女性を親しんで呼ぶ語だったのじゃ。「弟」は年下の弟妹をさす言葉でのぅ、わらわもよく姉上様から「わらわの弟」と呼ばれたものじゃ【梨】

瑠花 @kirisakiflower

ふぅ、今日も共に過ごせて楽しかったのじゃ。ではまた会おうぞ、姉上様！【梨】 ……待って梨花【楓子】 む？なんじゃ？【梨】 梨花、あなたの心残りは……どうしてあなたはここにいるの？【楓子】

瑠花 @kirisakiflower

わらわはもう一度人生をやり直したいと思ったのじゃ。わらわはまだ結婚もしておらなんだ。まだまだ生きられたはずであった。恋をして、子を成して、幸せになるはずであった。故にこうしてここにおる【梨】 ……そう【楓子】 今更なぜそのようなことを聞かれるのじゃ姉上様？【梨】

瑠花 @kirisakiflower

……言おうと思っていたけど言えなかったことを言うわ。梨花、松風さまがこの時代にいらっしゃるわ【楓子】 な…………【梨】 覚えているでしょう、あなたが兄上様と言って慕っていた方よ。…私はてっきりあなたの心残りは松風さまに関することだと思っていたからずっと言えなかったの。【楓子】

瑠花 @kirisakiflower

言えばあなたは、この時代でもきっと松風さまと恋をする。だから私はずっと言えなかった。 ……あなたの所に松風さまが来た日、本当は私の所に来ようとしていたってこと、私は知っていたわ。松風さまは間違ってあなたの部屋に行ってしまった。そこから運命が狂ったのよ【楓子】 …………【梨】

瑠花 @kirisakiflower

でも、いいわよね。あなたの心残りは松風さまのことじゃなかったわ。だったら私が松風さまをいただいてもいいわよね。ねぇ梨花、私達、まだ『姉妹』でいられるわね？……ふふ、うふふ、ふふふふふははははははは！！！！【楓子】 …………【梨】

瑠花 @kirisakiflower

……梨花、あなたが死んだ後のこと、私は覚えているわ。あなたが死んだ後、松風さまはとても悲しまれたの。もう部屋の主がいないあなたの部屋に無理やり押し入って、残っていたあなたの文や衣服を掻き抱いて人目もはばからず泣いていらっしゃったの。……それを見て私は分かったわ【楓子】

瑠花 @kirisakiflower

松風さまは今この瞬間、あなたへの恋心を自覚なさったんだ、って【楓子】 ッ……！？　そ、んな、嘘じゃ、わらわは……六の宮のわらわは兄上様の、撫でし子、であったのじゃ。わらわは、妹として見られておって……いくら六の宮のわらわが懸想しても届かぬ、…兄上様であったのに【梨】

瑠花 @kirisakiflower

…あなたは松風さまに恋をしていたのね【楓子】 ……っ、六の宮のわらわじゃ。いまのわらわでは…ない【梨】 そう。じゃあ私が恋心を伝えてもいいわね。私が今世の松風さまと恋をして子を成して幸せになって…それでいいわね？【楓子】

瑠花 @kirisakiflower

……酷い顔。今のあなたの顔、足元から地面が崩されたときのような顔よ。 良いわ。私たちは『姉妹』だもの、少しだけ猶予期間をあげる。その間にあなたの気持ちを整理なさい。今世の松風さまにお会いして幸せになるのか、それとも身を引くのか。……あなたに決めさせてあげる【楓子】

瑠花 @kirisakiflower

（……夕日が最後の光をわらわ達に向けておった。姉上様の背中を後ろから照らす橙の光が姉上様の顔に影を落としておった。やもすると全くの別人ではないかと錯覚してしまうほど感情が消えた姉上様の顔は、わらわへの愛など忘れ去ってしまったかのようであった）

瑠花 @kirisakiflower

（言葉を紡ぎ終えた姉上様は、先ほどまでのやり取りがなかったかのように綺麗にお笑いになって「また次の休みに会いましょう」と言って手を振って行ってしまわれた。わらわは……そこから動けず呆然と立ち尽くすことしかできなんだ）【梨】

瑠花 @kirisakiflower

……(ﾎﾞｰ【梨】 にゃ、梨花お姉ちゃんてば昨日からなんだか様子が変だよぅ【由】 そうッスね。さっきも砂糖と小麦粉を間違えそうになってましたし【里】 わたしにお菓子作り教えてくれる約束も忘れちゃってたんだじぇ……【里】

瑠花 @kirisakiflower

……おはようじゃ。ではの【梨】 ちょちょ、待つッス！;;; それだけッスか！？……あーあ、行っちゃいました。やっぱ様子が変ッス、何があったんでしょう…【里】

瑠花 @kirisakiflower

……なぜじゃ。何故、今になって…。今を生きるわらわは『六の宮の梨子』から延びてはいるが『六の宮の梨子』そのものではない。まして兄上様の『常夏』でもないのじゃ。それはとうの昔に思い切っておる。であるのに、……で、あるのに、じゃ【梨】

瑠花 @kirisakiflower

何ゆえわらわの胸はしくしくと痛むのじゃ、兄上様がいらっしゃると聞いてとくとくと鼓動を早めるのじゃ。わらわは……わらわは違う。わらわは撫でし子でも常夏でも梨子でも六の宮でもない。わらわは、梨花じゃ【梨】

瑠花 @kirisakiflower

兄上様に甘き思いを抱いておったのは梨子じゃ。姉上様を敬愛しておったのは梨子じゃ。蘇りたいと思ったのは梨子じゃ。……じゃが、新しい生を心のままに生きるのはわらわじゃ。この現代で既に死した兄上様の事を思い続け、過去を見て生きるのでなく未来を見て生きると決めたのはわらわ自身じゃ！【梨】

瑠花 @kirisakiflower

…わらわ自身、じゃ。が……兄上様がいらっしゃると姉上様は申しておった。兄上様が千代の命を持っておるとは思えぬし、一番可能性としてあるのはわらわと同じ少女人形になった、ということかのぅ【梨】

瑠花 @kirisakiflower

少女人形であれば、死する前の記憶もあるじゃろう。姉上様に会いやすい場所に居られるのやも知れぬ。次点で生まれ変わり……本当に生まれ変わりというものがあるならば、じゃが。もしかしたら姉上様のマスターであるやもしれぬのぅ【梨】