落語『和歌三神・改』

もともと、放送はもちろん、放送に乗らない寄席や落語会にもかけられない落語を、どうしたら活かせるか、酔った勢いで考えました。あり得ないとは思いますが、ご使用の際はご一報くださいw
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柳 紀 @YanagiNori

旦那「おい、権助や、今朝は寒いなぁ」 権助「寒いったって、雪降ってるからね」 旦「そうかい、道理で冷えると思ったな。  ・・・どのくらい積もった?」 権「そうだね、五寸くらい積もってるねぇ、横幅はわからねぇけど」

2017-10-10 18:36:46
柳 紀 @YanagiNori

旦「馬鹿野郎、雪の横幅がわかるか。  通る人が転ぶといけないから、雪を少し掻いておきな」 権「雪ぃ掻くったって、雪掻きが無ぇもの」 旦「じゃ、鍬(くわ)出して掻いておきな」 権「鍬は無ぇよ。この前、田舎から友達が来て、酒呑むったって、銭が無ぇから、鍬売って、酒呑んだね」

2017-10-10 18:38:25
柳 紀 @YanagiNori

旦「主人の物を黙って売るやつがあるか」 権「その代わり、あんたが歌詠みだから、歌ぁ詠んでおいたよ」 旦「ほほぅ、どういう歌を詠んだ?」 権「俳諧の 家にいりゃこそ 鍬(句は)盗む」 旦「なるほど、面白いな、下の句は?」 権「隙(すき、鋤)があったら またも盗もう」

2017-10-10 18:39:33
柳 紀 @YanagiNori

旦「いけないよ、そんな事しちゃ。  ・・・この雪を家で見ているのももったいないや。  向島へ行って雪を見よう」 権「よしなせぇよ、家で見たって、向島で見たって、雪は雪だんべぇ。  赤ぇ雪てのは無ぇからね」

2017-10-10 18:40:33
柳 紀 @YanagiNori

旦「向こうへ行けば、また、風情が変わるんだ。  その代わり、お前に酒を呑ませてやるからな、支度をしな」 権「酒ぇ呑ませてくれるなら、行くべぇ」 旦「どうだ、権助や。ずいぶん向島は良いなぁ。」 権「良いかどうか知んねぇけど、寒くてたまらねぇや。  早く酒呑むべぇ」

2017-10-10 18:41:32
柳 紀 @YanagiNori

旦「おや、権助、向こうの土手の下でお薦(乞食)が三人で酒盛りしてるよ。  風流じゃないかね。・・・けど、もうお酒が無いようだ。  お気の毒だな、お前の持って来た酒をあのお薦さん達にあげよう」 権「馬鹿な事いうでねぇよ」

2017-10-10 18:42:35
柳 紀 @YanagiNori

旦「お前さんには帰ってから呑ませてやるから。  ・・・おいおい、お薦さん達。お酒をあげましょう」 薦A「有難うございます」 旦「いやいや、お酒が足りないようだからね」 A「有難うございます。(呑む)  ・・・いやぁ、結構なお酒でございますね」

2017-10-10 18:43:22
柳 紀 @YanagiNori

旦「・・・お薦さん達は、仲間内で渾名のようなものがあるそうだが、お前さんは何てんだい?」

2017-10-10 18:44:20
柳 紀 @YanagiNori

A「あたしは、寝てるのが好きでございましてな、あすこに垣根がございましょう。  あの垣根の所で丸くなって寝るのが何より好きで。  垣根の元に一人丸くなって寝るから、垣根の元の一丸  (かきねのもとのひとまる←柿本人麻呂)  ・・・ってんですよ」

2017-10-10 18:44:53
柳 紀 @YanagiNori

旦「垣根の元の一丸か、何か歌はあるかな」 A「ほのぼのと 明かしかねたる 冬の夜に 縮み縮みて 一人かも寝む  ・・・ってんで」 旦「上手いもんだなぁ。  ・・・お前さんは?」

2017-10-10 18:45:38
柳 紀 @YanagiNori

薦B「あっしは安と申しましたが、同じ名前の者がおりますんで、秀と名乗っております。  あっしの仕事は、ほうぼうのお茶屋さんだの料理屋さんの前で、 犬が糞(ふん)をしましょう。  それを掃除するのが仕事で、みんなから、 糞屋(ふんや)と呼ばれております。

2017-10-10 18:46:27
柳 紀 @YanagiNori

元が安で今が秀、糞屋をやっておりますので、糞屋の安秀(文屋康秀)と申します」 旦「糞屋の安秀か、面白いね。それにちなんだ歌があるかい?」 B「吹くからに 秋の草屋は 寒しろの 肘を枕に われはやすひで」 旦「上手いもんだなぁ。  ・・・お前さんは、何ていうんだい?」

2017-10-10 18:47:51
柳 紀 @YanagiNori

薦C「(手拭いか扇子で目より下を隠し)私は、あし原のまっぴら(在原業平)と申します。  ・・・世間様では吉原といいますが、私にとっては悪しき処、あし原でしかございません」

2017-10-10 18:48:48
柳 紀 @YanagiNori

旦「ほぅ。・・・元はどこかの若旦那だったが、吉原に通って悪い病気を背負い込んで、  さらに勘当になった・・・ってぇ感じだね。目より下をそうやって隠して」

2017-10-10 18:49:21
柳 紀 @YanagiNori

C「いいえ、少ぅし違います。  ・・・うちの両親は大変かたくて、お前は色男すぎるから、みだりに人と顔を合わせれば間違いが起きる。  ・・・ってんで、物心ついてこのかた、家からほとんど出してもらえず、  自分の部屋の御簾越しに、小僧やなんかに何でもいいつけて持って来させてました」

2017-10-10 18:49:59
柳 紀 @YanagiNori

旦「・・・大変な暮らしをしてたんだね」 C「ところが、色男すぎるってのは真っ赤ないつわりで、本当は、私の顔は何の因果か生まれつき  化け物みたいに歪んでおりまして、だから外へ出したくなかったのでした。  ・・・でも、それに気がついたのは、あし原、吉原へ誘われた後でした。

2017-10-10 18:50:39
柳 紀 @YanagiNori

・・・町内の札付きの源兵衛さんと太助さんが、私をこっそり誘いに来まして。  私もついふらふらっと、御簾をくぐって外へ出てしまいまして」 旦「・・・なんか、どっかで聞いたような話だな、権助」 権「作者はあんまり落語さぁぶった事ねぇから、仕方なかんべぇ」(爆)

2017-10-10 18:51:31
柳 紀 @YanagiNori

C「・・・足を踏み入れた時は、世の中にこんなに綺麗な処があるのかと・・・」 権「そんで、千早太夫にふられて、神代太夫もいう事を聞かなかったのけ?」 C「・・・よくご存じですね」 権「大体わかるべぇ」 旦「止しなさい!」

2017-10-10 18:52:09
柳 紀 @YanagiNori

C「・・・自分の顔を鏡でちゃんと見た事があるのか、といわれ、  そこの大きな鏡を見て、愕然としました。  ・・・源兵衛さんと太助さんは、最初から、私の財布だけを当てにしてたのでした。

2017-10-10 18:53:16
柳 紀 @YanagiNori

・・・無断で遊びに行ったのが親にばれて勘当になった私は、とりあえず奉公先を探しましたが、  化け物みたいな顔を恐れて、どこも雇っちゃあくれません。  ・・・あの時、御簾をくぐり馬鹿な事をしなければ後々、旦那でおさまっていられただろうに、  と思っても、後の祭です。

2017-10-10 18:53:55
柳 紀 @YanagiNori

薦C「私は最後に、歌を一首したためまして、世間様と縁を切りました。  千早ふる 神代も聞かず 立ち帰り 世間まっぴら 御簾くぐりしゆえ」

2017-10-12 12:13:20
柳 紀 @YanagiNori

旦「(笑いそうになるのを、手拭いで目を押さえて誤魔化し)  なるほど、涙無くしては聞けないなあ。  ・・・で、前のほうを忘れちゃってるお客様があるといけないから、繰り返させてもらいますがね。(爆)

2017-10-12 12:19:06
柳 紀 @YanagiNori

・・・一人目が、かきねのもとのひとまる(柿本人麻呂)、二人目が、ふんやのやすひで(文屋康秀)、三人目が、だいぶ苦しいけどw、あしわらまっぴら(在原業平)・・・

2017-10-12 12:23:53
柳 紀 @YanagiNori

・・・お前さん達はまさしく、雲の上の、和歌三神ですなあ」 お薦達「いいえ勿体ない。薦の上の、馬鹿三人でございます」 (了)

2017-10-12 12:27:49