ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかしその事実は当然デッドマンやファッショニスタには何の関係もないことだ。「それからご報告が一つございまして」「ンー?何だ」デッドマンは生返事をし、ハチコのもとへ歩いて行った。「GRRRR!」ハチコは狂おしく見開いた目をデッドマンに注ぎ、尻尾を振って走り寄った。 22

2017-10-17 22:58:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「腹は膨れたか?ハチコ。美しい筋肉で腹は満たされたか?」「GRRRR!」ハチコは実際グリズリーめいて大きい。血に染まった毛並みをデッドマンは撫で、目を細める。「オオクも一杯になった。好きに愉しめよ。ンン?」「GRRRR……!」バイオドーベルマンは邪悪な笑みを確かに浮かべた。23

2017-10-17 23:01:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……これを」ファッショニスタはタイミングを見計らって奥ゆかしくデッドマンに近づき、写真を見せた。「御覧の通りウチの連中です」それは破壊された車両と、地中からわざわざ掘り返された死体だった。「腕が切り落とされている。襲撃を受けて埋められたようです。体内信号を受信した結果です」24

2017-10-17 23:05:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウチのTシャツを着た連中にわざわざ仕掛けてきた奴がいるのか?」デッドマンはハチコを愛撫するのを止め、ファッショニスタに向き直った。「どこのアホだ?当然目星はついているんだろうな」その声に殺気がこもった。「ハイ。こいつらは少し、その……遠出をしていたようでして」「遠出?」 25

2017-10-17 23:10:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「例のイカレ野郎どものテリトリーを越えたせいで、襲われたようです」ファッショニスタは声を低めた。デッドマンのこめかみに血管が浮かんだ。「領域侵犯を咎めたと……?」「まあ……有名な話ではありますな。サワタリ・カンパニーはエメツ鉱床を保有してビジネスしてるってワケで」 26

2017-10-17 23:13:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「成る程。ならば、いい機会だ」デッドマンは呟いた。「そろそろ潰すつもりではいた。邪魔くさい連中だ。それに、例の"過冬"の件もある……エメツ鉱床は多く持っておきたい」「連中、ニンジャらしいですがね」「ハッハハハ!ニンジャだから何だというのだ。本当の恐怖というやつを知らん連中だ」27

2017-10-17 23:18:10
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「サイグナス=サンも、既にマナウスに到着したとの事で」「ああ。ならば猶更、エル・キケン流の歓待をせねばならんだろう」「左様で」「ウチは半端なやり方はしない……南米のエメツは全てウチを通して供給する。そういう威厳を見せんとな」「ごもっともで」「……で?策は?当然あるんだろうな」28

2017-10-17 23:23:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ご存知の通りサワタリ・カンパニーの砦は隠されています」ファッショニスタは言った。「ま、そういうミステリアスさもあって、昔の連中はおかしな神話的恐怖を抱いたんですよ。所詮はチンケなニンジャ集団ですから」「策だ」「簡単ですよ。定期的にマナウスに買い出しに来るんです、奴らはね」29

2017-10-17 23:27:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「買い出しだと?」デッドマンは笑った。「なんとまあ普通な奴らだ」「マナウスにノコノコ出てきた奴をカッさらって……ウフフフ……面白い事になりますぜ……」「よかろう。お前に一任する」デッドマンは言った。「ここはひとつ、過冬にエル・キケンのヤルキを見せてやるイイ機会だ」 30

2017-10-17 23:31:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ベン、ベンボン、ベン、ベンボン、ベン、ベンボン、ベン、ベンボン。ヒョウタンとバンブー、タイヤのワイヤーを組み合わせた弦楽器を器用に操り、エキゾチックなビートを作り出し、歌うのはモニカ。「パリャナウェー!パリャナウェー!パリャナ!パリャナウェー!パリャナウェー!パリャナ!」32

2017-10-17 23:37:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モニカを前に、輪になって立つのは、K2、K3、ディスカバリー、営業社員のペドロ、そしてコトブキ。モニカの演奏する楽器、ビリンバウと歌にあわせ、彼らはリズミカルに手拍子を打つ。輪から二人、K2とディスカバリーが進み出、前傾姿勢で手を合わせ、お互いにうなずき合う。そして側転する。33

2017-10-17 23:39:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

音楽と手拍子にあわせ、彼らはマイを舞うように、互いにゆっくりとした蹴りを繰り出し、手をついて側転し、水面蹴りを打ち、フリップジャンプで躱す。汗が散り、埃が舞う。みな笑顔だ。動きは極めてスローであり、実際危険はさほどない。その特徴的な動きは南米に伝わるカポエイラの一種である。34

2017-10-17 23:41:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「パリャナウェー!パリャナウェー!パリャナ!」モニカの歌に、ほかの者たちも和する。K2とディスカバリーは互いにメイアルーア・ジ・コンパッソを繰り出す。やがてK3がゆるやかに輪を歩き、ディスカバリーの肩を叩く。ディスカバリーは彼と入れ替わって演武を離れ、コトブキの隣に来た。35

2017-10-17 23:45:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モニカ=サンが流行らせてな」ディスカバリーは手拍子を続けながらコトブキに言った。「ゼンを養い、暴力をコントロールするカラテを一段高いステージに持って行くんだとよ。あのクソガキ共に本当に効果があるかどうかは知らんが……おっと」モニカが咎めるように一瞥した。「ああ、効果はある」36

2017-10-17 23:47:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「素晴らしいです」コトブキは言った。「私もやりたい……」「脚が壊れてるんだから止めておけ」K2とK3が互いにブレイクダンスめいたワザを繰り出し、ペドロがサムアップした。「ウース!」「どうだ。ここの生活は。何も無くてつまらんだろ」「旅行者目線なので楽しいですよ!」 37

2017-10-17 23:50:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキがこのフォート・サワタリに滞在し、既に何日も経過していた。K2とK3はコトブキによく懐いたし、モニカも親切だった。コトブキは少し足を引きずっていたが、生活そのものにさほど支障はない。彼女はモニカから服を借りていた(モニカの私服はホットなものばかりだった)。平和だった。38

2017-10-17 23:54:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フォートには自給自足が可能な設備があり、コメ畑や野菜畑、引き込んだ川には川魚が入り込んで、それを捕らえてスシにする事ができた。時にはマインドキルが「狩り」に出る事もあった。魚は住み込みで働くイタマエのミゲルがスシにした。ミゲルは腕のいいイタマエであり、美しいスシを作った。39

2017-10-17 23:58:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スシはコトブキのみならず、ニンジャにとっても貴重なエネルギー源だ。加えてフォートのニンジャ達は元々ヨロシサン製薬によって生み出されたバイオニンジャであり、本来バイオインゴットの摂取を必要とする。かつて彼らは生きる為にヨロシサンのプラントを襲撃し、インゴット収奪に明け暮れた。40

2017-10-18 00:03:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

インゴットが無ければ臓器不全を起こし、吐血し、死に至る。しかしインゴットは彼らを闘争に駆り立て、摂取時のニンジャアドレナリン過剰分泌が時として過剰な暴力に結び付く事もあった。彼らは今、バイオインゴットを摂っていない。代替物として開発された「ブラックタイガー」のおかげだ。 41

2017-10-18 00:06:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブラックタイガーの原料はこの地の鉱床から産出される不純エメツである。暗黒メガコーポの工業製品に使用するにはひどく劣ったこの不純エメツは、逆に、フォレスト・サワタリ社長が自ら開発した「ブラックタイガー」の精製には無くてはならぬものだった。 42

2017-10-18 00:09:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

十分なブラックタイガーを作り出す事がカイシャの最初の目的であり、最初の存在理由であった。所帯が増え、ビジネスの幅は広がったが、サワタリのカンパニーはバイオニンジャを生存させる為……共に生きてゆく為にこそ作られたのだ。月破砕年以降の過酷な旅の末に、彼が築いたドージョーであった。43

2017-10-18 00:12:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

昼休みのカポエイラを終えると社員は再び持ち場に戻った。コトブキは釘とハンマーを使って植物棚を作ったり、バイクの修理を行う。K2とK3は周辺地域のパトロールの為に何度も出てゆく。砦はフォート・サワタリの他、フォート・ハイドラとフォート・ダイナソーが存在。各所にニンジャが住む。44

2017-10-18 00:16:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そんなものより自分の脚を直したいよね」植物棚を受け取りに来たモニカが、すまなそうに言った。「大工仕事は大好きです」コトブキは微笑んだ。「機械が得意なんですよ」「実際助かってる。色々させてしまって……」「それがフォートのルールだ」白衣姿のサワタリ社長が現れた。45

2017-10-18 00:20:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが実際、貴様の働きは満足の行くものだ」サワタリ社長は携帯スシを食べながら、表のスプリンクラーを見た。コトブキがネットワーク上から設計図を入手し、有り合わせの材料で作ったシステムである。「生産性が飛躍的に……」「ちゃんとテーブルで食べなさいよ、社長」「そんな暇は少ない」46

2017-10-18 00:24:51