ストライダー:サーチ・アンド・デストロイ #1
「かわいいだろ?娘でよ。ミチコ。俺、酒癖が悪くて、カミさんはミチコつれて逃げちまってさ。だけど俺……そう、見ての通り、仕事も見つかったしよ。生まれ変わって出直してんのよ。だから俺、毎日この写真に謝ってるんだよ。連絡先もわからねえからな」 「オン」24
2017-11-13 23:03:45「じゃあな、ワン公。オタッシャデー」男は去った。次に通りかかったのは二人連れのサラリマンだ。「よし、次は俺が知ってるいい店あるから!」「ハイ!ありがとうございます!」「俺はいいセンパイか?コブナ=サン!」「ハイ、いいセンパイですよ!」「絶対嘘だね!だけど畜生、ありがとうよ……」25
2017-11-13 23:07:17「センパイ、酔っ払うといつも泣きますよね!」「うるせェーよ!」「あっセンパイ、犬ですよ!犬!」「犬だァ?」「オン」「本当だ、犬だコブナ!デカシタ!」「アリガトウゴザイマス!」「ドーモ、ゴタンダです、こういうものです!」センパイはタロウイチにオジギをして、名刺を差し出した。 26
2017-11-13 23:10:46「もうセンパイ、犬困ってるじゃないですかァ」「何ィ?俺の名刺が受け取れんのか?」「ハイハイ、わかりました、わかりましたから!」「社歌を歌おうコブナ!」「ちょっと迷惑になると思うんで、次の店のカラオケで歌いましょうセンパイ。お店どこです?」「多分あっちだ!あっち!」「多分かァ」27
2017-11-13 23:14:20サラリマンは去っていった。その後もタロウイチはその場から動かなかった。ヤクザが通り、ストリートギャングが通り、祈祷プリースト集団が通った。雨が強まり、弱まり、また強くなり……やがて夜が徐々に明けはじめた。 28
2017-11-13 23:17:42クノクラブ「光一」から漏れ聞こえる音がアッパーな音楽からチル・アウトに変わった。そして、夜通し遊んでいた客たちが笑いさざめきながら階段を上がってきた。別の店に向かう者、退廃ホテルに向かうカップル、泥酔してその場に座り込み、強面のスタッフにモップで別のスクエアへ追い立てられる者。29
2017-11-13 23:20:27タロウイチはほとんど風景の一部めいて溶け込み、じっと動かずにいた。しかし、ついに、歩き始めたのである。20メートルほど距離を取り、彼は「光一」から出てきた客の一人を尾行し始めた。 30
2017-11-13 23:26:12「マジ、俺、幹部候補生扱いでさあ。在学中なのに、インターンでコキ使うコキ使う。期待されまくっちゃってるワケ。マジ困るよネ?」「エー、スゴーイ!」「休む暇も無いわ。そりゃ俺、そこらの奴らの三倍は収益あげられるって、マジわかりきっちゃってるけどネ?」「わかりきっちゃってるんだー!」32
2017-11-13 23:31:19「ホンット大変……カイシャの愛が重いわ……マジ、毎日が悩みの連続でさ……」歩きながら、コバジは連れの同級生の女子に向かって上機嫌で喋り続けた。「だからさ、ねえ疲れてない?マジそこ入らない?」コバジは彼女の肩を抱き寄せ、退廃ホテル「ネオグランド・タマロワイヤル」を指差した。33
2017-11-13 23:33:58「えー……あ、見て、ワンチャン」「ワンチャン?」「ほら、あれ」コバジは彼女の視線を追い、闇に光る二つの目を認めた。コバジは息を飲んだ。その敵意と怒りに打たれた。「ワンチャンってお前……」「GRRRRR!」闇の中から犬が飛び出し、コバジに襲いかかった。 34
2017-11-13 23:36:46