サイバーパンク百合

サイバーパンク世界観での百合です
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紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

ネットワークの海に世界が沈み込み、そろそろ息継ぎがしたくなってきた未来。  人類の倫理観は一周し、機械の体から、生身の体にその価値の重みが再び移った時代。生涯を賭けた美を過去にされた鉄くずと、生まれながらに祝福された肉の話。 #サイバーパンク百合

2017-10-11 21:30:29
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

3320グラム。すこしふっくらした体で生まれたあたしを迎えてくれたのは、ひどくゆるゆるした夫婦の笑顔と、チタン製保育ドローンのひんやりとしたアームだった。 #サイバーパンク百合

2017-10-11 21:49:48
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 1223グラム。誕生と同時に終わろうとしていた私の命は、両親の愛情としてのお金と、当時最新鋭とされた技術によって救われた。初めて瞼を開いた時、私の体は推定12歳前後の少女の体になっていた。

2017-10-21 13:06:18
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

あたしが彼女に出会ったのは、17歳の夏。アルバイトとして始めた、ごみ収集業をサボって、侵入非推奨区画の路地に入ったとき。 #サイバーパンク百合

2017-10-11 22:03:34
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

私が彼女に救われたのは、64歳の夏。いつ来るかわからない停止の瞬間におびえながら、何もできず、ただ声にならない声で叫んでいた時。洞窟探検でもするような、きらきらした目が私を捉えたのだ。 #サイバーパンク百合

2017-10-11 22:09:12
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

彼女はありとあらゆる関節が無茶苦茶に曲がった状態で転がっていた。ノイズ交じりの声、というよりももはやただのノイズが、関節の軋む音に紛れて鳴っていた。ざざーぎちぎち。なにを言っているのかわからなかった。 ただ、あたしはその時、見つけたと思った。 #サイバーパンク百合

2017-10-11 22:14:16
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

出会いから18時間。あたしは警察署にいた。帰宅して間もなく、私が見つけたのが、モノではなく人だと気づいてからは、とても慌ただしいことになったのだ。 #サイバーパンク百合

2017-10-12 21:51:54
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

彼女に出会ってからの数時間は、私の人生でも上位に来ること間違いなしの、とてもスリリングな体験になった。私を故障したアンドロイドだと思った彼女は、なんの躊躇もなく私の頭部だけを体から引っこ抜いて、家に持ち帰ったのだ。 #サイバーパンク百合

2017-10-12 21:57:36
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

彼女を自宅に持ち帰ってから数時間、仕事から帰ってきたお父さんにだけ、彼女を見せた。修理にいくらかかるか聞きたかったのだけど、返ってきたのは、「これは、人間だねえ。大変だ」というとんでもない一言だった。 #サイバーパンク百合

2017-10-12 22:03:06
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

頭を引っこ抜かれて間もなく、省電力脳保護状態になった私が次に目覚めた時、私の体は足の生えた鉄の箱になっていた。蜘蛛のように歩く鉄の箱。言葉が出なかった。口がないからだけど。 #サイバーパンク百合

2017-10-12 22:11:58
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

お父さんがお母さんに、あたしが人間の脳殻を拾ってきたと伝えてからは、あたしの人生トップテン入り間違いなしの苦難の連続となった。お母さんに泣かれて、警察署に行って鋼鉄製のおまわりさんにこってりと説教された。そして歩く鉄の箱に「FUCK YOU」とホログラム表示された。 #サイバーパンク百合

2017-10-12 22:32:15
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

その日はなぜか、夜の散歩をした。普段通らない、静かな通りを歩いていた。そして私は、車に轢かれた。轢いた奴らはすぐ車を止めて私の元に駆け付けたが、私の体を見て、すぐに安堵したらしかった。なんだ。アンドロイドかよ。その辺に捨てとけ捨てとけ。 #サイバーパンク百合

2017-10-13 22:22:46
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

アンドロイドと見分けのつかないような義体を持った人が、昔はいた。大抵はものすごいお金持ちで、何か事情があって、あるいは、ただその体の性能や、美しさを求めて、精巧な体を求めた時代があったんだ。警察署からの帰り道、お父さんがそんな話をした。 #サイバーパンク百合

2017-10-13 22:26:41
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

ネットワークにつながるために、有線を繋ぐなんていつぶりだろう。私の義体の記録を見た警察から無料提供された体は、とんでもない骨とう品だった。ショッピングチャンネルにつなぎ、新しい体を探す。義体、安くなったなあと、しみじみ思う。 #サイバーパンク百合

2017-10-13 22:32:50
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

お前が拾ったあの人の義体はね、と、お父さんが続けて言う。時代が時代なら、僕が今の人生を三回くらい繰り返してやっと手に入れられる値打ちのものだったよ。それを失ったんだ。理不尽な仕打ちも受けた。だから、とりあえず怒っても仕方ない。ホログラムで罵倒とは笑えるけどね。 #サイバーパンク百合

2017-10-13 22:47:16
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

とりあえず、綺麗そうな体を、注文完了。前の体に比べたら、とてもとてもとても安い買い物になった。さて、気楽に待とう。部屋の隅に座る、というか、鎮座して、休む。ひどいことを言ってしまったな。あの子には、そのうち謝ろう。休眠モードに入りながら、そう思った。 #サイバーパンク百合

2017-10-13 22:53:25
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

疲れ切ったあたしは、帰宅して間もなく寝室のベッドに倒れ込んだ。あたしの体のコンディションをあれこれ配慮した部屋が、勝手に明かりを落とし、温度を調整をする。繭に包まれたような快適さと、広告映像で見た。それじゃああたしは蛾じゃん。出来れば蝶がいいなあ。 #サイバーパンク百合

2017-10-13 23:09:58
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 繭を破って出てくるのはいつだってしんどい。特に月曜日は。あたしはまだ学生だから、学校に行かなきゃいけない。こういう時、ほんのちょっと電脳に憧れる。だってスイッチ一つで、世界に繋がるのだから。肉体的疲労とは無縁なのだと思う。これは、贅沢な悩みなのだろうか。

2017-10-18 22:09:13
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 やっほー。おひさ。久しぶりに、電脳庭園にやってきた。肉体も、義体も捨てて、仮想現実に人生を移した人々の街。この街に生きる人々は、当然みんな美しい容姿をしている。理想の姿になれるのなら、誰だってそうするに決まっている。私に似て、異なる、美を求めた街。

2017-10-18 22:18:43
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 月曜日は憂鬱だ。そう考えたところであたしは、一つの考察を始める。憂鬱な出来事は、たいていが肉体に影響を及ぼす損失に由来にするのではないか、と。あいたっ。先生が投げたチョークが頭に飛んできた。伝統的な生徒指導法らしい。頭についた粉を払い、ため息をつく。憂鬱だ。

2017-10-18 23:53:46
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 私が電脳庭園を訪ねるのは、ある認識をはっきりさせたいときだ。肉体の無い私たちは、幸福だ。この街にいる人々は、みんなにこやかで、親切で、若くて美しい。彼らはいつだって理想の自分で生きている。幸福だ。そう思わせてほしい。けれどいつも、彼らは憂鬱を抱えている。

2017-10-18 23:59:05
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 放課後、先生に呼び出されて、昨日おとといの激動の経験について、お褒めの言葉をいただいた。結果的に、人命救助になったわけだから、と。うん。そういえばそうだ。あたしは、あの人を助けたんだよね。そこではっと気づく。あの人の『FUCK YOU』は、まさしく憂鬱のサインだ、と。

2017-10-19 00:08:48
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 え?幸福?んなわけないでしょ。私たち、脳みそしかないんだよ。電脳庭園のレストランで合流した友人が言う。私たちは、生きたいように生きている。けどさ、制限があるんだよ。限界といってもいい。情報の塊でしかない、カプレーゼを口に含んで、続ける。私たちは、幸福なだけ。

2017-10-19 00:12:56
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 全身義体の女性から、はっきりと向けられた感情があった。これまでの人生で経験したことのない出来事だったのに、あたしはその重大さに気づかなかった。もしくは、面食らっていたのかもしれない。あたしが見つけたのは、これだったのかも。もう一度、会わないと。強くそう思った。

2017-10-19 00:23:15
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

#サイバーパンク百合 ワインを飲んだ友人が、私に管を巻く。あんたはねえ、ここに来るべきじゃないの。電脳に欺瞞を持ってる人間が来たら、私たちは夢を見れないの。顔を赤くして、フォークを私の鼻先に突き付けて、言う。あんた、とりあえず例の女の子に謝りに行きなさい。丁度、そう思っていた所。

2017-10-19 00:28:23