デウス・エクス・マキナ

僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。 この広い朽ち果てた屋敷は、僕らだけが住んでいる。 『廃棄』を願う彼女と約束を交わした僕の日常。
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ハラヨシ @harayosy

#twnovel お願いですマスター。機械である私にメイドな服を着せないで下さい。激しく無駄です。お願いですマスター。機械である私に試食させないで下さい。そういう機能はついてません。お願いですマスター。機械である私にそんなに優しくしないで下さい。熱暴走で…エラーです。

2010-11-25 21:39:48
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 「お願いですマスター。起きて下さい」殺気。僕はベッドからはね起きた。フライパンが枕に直撃する。「惜し…はようございます」「『惜しかった』を強引に挨拶に変えるな!」僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。「何でフライパン?」「アーカイブに最重要事項として記載…」「嘘だ」

2010-11-26 19:22:13
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。失われた時代。失われた技術の最後のカケラ。「お願いですマスター。私が、私でなくなった時は、どうか廃棄して下さい」到底できない契約のもと、今日も彼女との一日が始まる。「お願いですマスター。掃除の邪魔です。消えて下さい」時々憎い。

2010-11-26 19:28:51
ハラヨシ @harayosy

#twnovel アンドロイドは電気執事の夢を見た。「…執事が一匹。執事が二匹…」「それって暗にメイドやりたくないって事かな…ってか、匹って数えるの!?」「むにゃ…お願いですマスター…名前はセバスで…ちゃん付けで呼ばせて下さい…」「…アーカイブからろくでもない知識仕入れてるなあ」

2010-11-30 19:10:39
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 「お願いですマスター」僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。ぴっと差し出した両手は、時間がたっても少しも揺らぐことは無い。「…何?」手を差し出したままの彼女に聞く。「私の手には?」「靴下」「クリスマスプレゼント頂いてないです」「何だそれ、またアーカイブか!」

2010-12-27 23:33:09
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 「お願いですマスター。受け取ってください」僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。「…何これ?」遥か昔の異国の服を着た彼女から小さな箱を受け取る。「渡した一ヵ月後にその箱の3倍の価値の物を徴収できるという契約らしいです」「またアーカイブか」「セーラー服も着てみました」

2011-02-13 23:11:51
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。「お帰りください、マスター」優雅な一礼をする彼女。「お帰りなさい、だろ!」「間違えました。逝ってらっしゃいませ、マスター」「どうやっても家に入れない気か!」しかも不穏な言葉を使われた気がする。「一人で外出なんて酷いです」「ごめん」

2011-02-25 20:48:40
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 僕が彼女と出会ったのは、この広い屋敷に連れてこられた時だった。ここには僕以外誰もいない。当時、九歳だった僕にとって屋敷の広さは心細く、明かりのない暗闇は怖いというほか無かった。埃だらけのソファに縮こまり、ただただ朝が来るのを、僕はじっと待っていた。

2011-02-25 21:10:29
ハラヨシ @harayosy

#twnovel …朝が来て暗闇は去っても、何も問題は解決していなかった。朽ちかけた屋敷には、食料すら無かった。僕を連れてきた人たちは、何も考えていなかった。いや、考えていたから、かも知れない。空腹と不安に押しつぶされそうになりながら、僕は屋敷の中を彷徨いつづけた。

2011-02-25 21:15:30
ハラヨシ @harayosy

#twnovel ワインの貯蔵庫が見つかったのは、お昼近くになってからだった。殆どは割れたり空っぽだったりしていたが、中には無事なのもあった。少し考えて僕は、そのうちの一本を手に取った。お酒、という事に躊躇いがあったが、ひどく喉が渇いていた。何とかコルクを引き抜いて、僕は飲んだ。

2011-02-25 21:22:28
ハラヨシ @harayosy

#twnovel その日まで僕はワインを飲んだ事は無かった。ひどく酔いやすい体質だったらしい。僕はあっという間にフラフラになってしまった。どこをどう歩いたのか。実は、今でも僕は思い出すことができない。屋敷のどこか。階段を昇ったのか、降りていったのか。ふと、目の前に扉があった。

2011-02-25 21:27:51
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 酔っていた僕にも、「それ」が何なのかは分かった。鈍く銀色に光る扉。壁と扉の隙間には髪の毛一本も通りそうに無い。扉は失われた時代のものだった。失われた技術。僕達、今の人類が無くした、或いは捨て去った力の産物。それが、朽ち果てた屋敷の僕の目の前にある…?

2011-02-25 21:35:06
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 九歳の僕には難しいことは分からない。だけど、触れてはいけないような、近づいてはいけないような気はしていた。だけど。「あ」いつの間にか、僕は扉に触れていた。不安と恐怖に押しつぶされそうな僕にとって、その銀色に輝く扉は、暖かく感じた。扉は音も無く開き、中には────

2011-02-25 21:42:10
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 「どうしました、マスター?」目の前に彼女の顔。「わ!」「…驚く事はないと思います」「いや、ちょっと」昔を思い出してて、と言いかけてやめた。「そうですか、上の空ですか。私のお説教は、バンバンジー豆腐、馬の耳に年貢の納め時ですか」「知らないけど、絶対それ間違ってる」

2011-02-25 21:50:01
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 「アーカイブで取得した情報です。間違いはありません」「…じゃあ、使用者に問題があるのか」僕の呟きは無かったことにされた。「お説教の続きです。外は危険なんですよ、マスター一人でなんて無謀です」彼女の声が僕の耳を通り過ぎる。その声と同時にもう一つの声も聞こえてきた。

2011-02-25 21:55:29
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 『あなたが誰であろうと、どうなろうとも私には関係ありません』扉の中にいた彼女。『私は既に廃棄されています。役目を終えた私にとって、あなたの存在は何も意味は持ちません』ひどく、冷たい、それは機械の声。『私は、目覚めたくなかった。私は、『死んで』いたいのです」

2011-02-25 22:05:41
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 「…マスター、聞く気は?」「ない」思わず即答してしまった。「舌噛んで死んでください」過去の声とは違う彼女の声。「もういいです、お昼は抜きです」「ひどい!横暴だ!」「お願いですマスター、黙っててください」機械仕掛けの人形は僕のメイドだ。今でも。そして、これからも。

2011-02-25 22:12:24
ハラヨシ @harayosy

#twnovel 僕のメイドは機械仕掛けの人形だ。「お願いですマスター、雑巾がけして下さい」「うん」フキフキ。「それと庭の草むしりも」「うん」プチプチ。「肩こったのでマッサージ」「うん」もみもみ。「…は。こるわけないじゃないか!」「気づくの遅いです」何故か嬉しそうに彼女は言った。

2011-04-06 21:14:02