創作鯖SS『反英雄譚 赫奕せし牛頭』2章

創作鯖SSの続きと、ちょっとしたアナウンス
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水ようかん @mzyukn_0809

そもそもどこにあるか具体的に知らされていない歪みに、数時間歩いただけで辿り着けると思うのは虫のいい話だ。歩けども歩けども海と森。訪れた当初こそその自然の雄大さに魅入られはしたが、そこを歩き続けるとなると、変わり映えしない風景にやや気が滅入ってくる。

2018-01-10 00:54:27
水ようかん @mzyukn_0809

こんな時に気を紛らわせるサーヴァントでも付いていればよかったのだが、それは無い物ねだりというものだろう。

2018-01-10 00:54:50
水ようかん @mzyukn_0809

ミノタウロスは黙して僕の数歩後ろを歩くのみで、歓談とはおよそ無縁だった。カルデアとの定期連絡がなければ、僕はミノタウロスとの間に存在する溝のような沈黙に耐えられなくなっていたかもしれない。しかし霊体化されればそれはそれで不安を煽られるので、我ながら贅沢な悩みだと内心で苦笑を零す。

2018-01-10 00:55:14
水ようかん @mzyukn_0809

そんな僕の心境とは裏腹に、心情など意にも介さず、ミノタウロスは両刃斧を肩に担いで島内を歩き続ける。

2018-01-10 00:55:36
水ようかん @mzyukn_0809

僕が話しかければ最低限の応答はあるものの、彼からは会話が振られることはまずなかった。

2018-01-10 00:56:18
水ようかん @mzyukn_0809

クレタ島に着いてすぐの滔々とした長広舌は、ひょっとすると稀少なケースなのではないだろうか。すると、彼にそこまでの発話を強いてしまった僕の失言は、今後の関係(主従関係ではなく、友好関係)に重大な影響を及ぼすのではなかろうか。

2018-01-10 00:56:32
水ようかん @mzyukn_0809

そこまで考えて、僕は頭を振った。愚かなことだ、推測に推測を重ねるなど。 「マスター」 そこで、珍しいことにミノタウロスが口火を切った。

2018-01-10 00:57:20
水ようかん @mzyukn_0809

「なに?」 僕は歩みを止めて、後ろの大男を振り返る。彼は僕を見ることなく、明後日の方向に牛頭を向けていた。

2018-01-10 00:57:41
水ようかん @mzyukn_0809

「そこから二時の方向に、**のラビリンス、その跡地がある」 「何か用があるの?」 「ああ。**のみならず、貴様もな」 「?」 「**の半生が詰め込まれ、閉じ込められた迷宮に、何かがいる」

2018-01-10 00:58:09
水ようかん @mzyukn_0809

その言葉で、僕は気を引き締めた(それまで気を緩めていたというわけではないが)。ミノタウロスがわざわざそう告げるということは、今回のレイシフトの目的、即ち人理定礎の歪みとやらがそこにあると考えてもよいだろう。

2018-01-10 00:58:37
水ようかん @mzyukn_0809

「分かった。行こう」 ダ・ヴィンチに連絡し了解を得たところで、僕達はラビリンスへと進行方向を変更した。

2018-01-10 00:58:59
水ようかん @mzyukn_0809

と言っても、これまでに歩いた距離と比べれば、ラビリンス跡地までは大した時間はかからなかった。クレタ島を東端から反時計回りに海岸沿いを歩きここまで数日かかったが、ミノタウロスの報告からラビリンスに辿り着くまで一時間もかからなかった。

2018-01-10 00:59:25
水ようかん @mzyukn_0809

僕達を迎えたのは、まず正門。ダ・ヴィンチの説明によると、ここから迷宮に立ち入ることになる。迷宮の面積はおよそ一・四平方キロメートル。迷えば最後、伝説のように出ることはできなくなるだろう。尤も僕達にはレイシフトがあるので、万が一迷うようなことがあっても強制的に脱出できるのだが。

2018-01-10 00:59:51
水ようかん @mzyukn_0809

「僕です、藤丸です。ラビリンスに到着しました。今から探索を始めます」 『あぁ、分かっ……。ただ、……の可能性があるから…………ように頼むよ』 「? なんです? よく聞こえません」 『どうやら…………らしい。私は……と思うが……。ともあれ気を付けて…………』

2018-01-10 01:00:26
水ようかん @mzyukn_0809

どうやら通信のノイズが激しいようだ。何らかの魔術的作用によるものだろうが、それもここの歪みを正せば解決するだろう。 後ろのミノタウロスを確認するが、相変わらず彼の表情は窺い知れない。しかし僕が頷くと彼も軽く頷いたので、意思の疎通はできているのだと理解する。

2018-01-10 01:01:04
水ようかん @mzyukn_0809

僕達は揃って正門をくぐり、迷宮内に踏み出す。 ーーザザザッ――! 次の瞬間、全身が総毛立ち胃の内容物を引っ繰り返されるような感覚と共に、僕は周りを石壁に囲まれていた。辺りを見回すが、白い壁ばかりが聳え、正門はおろか傍にいたはずのミノタウロスでさえもが姿を消していた。

2018-01-10 01:01:50
水ようかん @mzyukn_0809

困惑しつつもカルデアとの通信を試みる。失敗。ミノタウロスとの念話、失敗。壁をよじ登り位置情報の確認、平坦な五メートルの壁に阻まれ失敗。 (何らかの魔術作用による妨害か……?)

2018-01-10 01:02:29
水ようかん @mzyukn_0809

立ち往生しても埒が明かない。ひとまずは、この迷宮内を探索すべきだろう。そこで人理の歪みかミノタウロスを見つけられれば御の字だ。それにこの広い迷宮の狭い通路で敵性体に出くわすようなことはないだろう。

2018-01-10 01:02:52
水ようかん @mzyukn_0809

逡巡なく正面へ歩き出す。突き当たりの丁字路を右へ。左、右、左と団子虫のように交互に角を曲がっていく。 深奥に向かっているのか入口に向かっているのかは判然としないが、これで少なくとも同じ場所をぐるぐる回るというようなことはないはずだ。

2018-01-10 01:03:24
水ようかん @mzyukn_0809

団子虫が右左と交互に曲がるのは、交替性転向反応と言い、暗所で障害物を避けながら天敵から逃れる為の効率的な移動法だ。常に一方に曲がり続ければそれは単なる堂々巡りに過ぎない。

2018-01-10 01:03:48
水ようかん @mzyukn_0809

そういうわけで、僕は時々休憩を挟んで他者との連絡を試みながら、確かにどこかへと向かっていた。そのはずなのだが。 (むぅ、こうも同じ景色ばかりだと、本当に同じ場所を歩いていないか不安になる)

2018-01-10 01:04:18
水ようかん @mzyukn_0809

行けども行けども視界に映るのは白い壁と青い空。如何に自然の叡智が味方しているとはいえ、神代にかの高名な工匠ダイダロスが建設したラビリンスがその範疇に収まるとは断言できない。

2018-01-10 01:04:40
水ようかん @mzyukn_0809

何時間も何日も歩いたように錯覚するが、この迷宮に迷い込んでから太陽はまだ一度も沈んでいない。或いは、迷宮内では太陽の見かけ上の移動による時間計測は不可能なのかもしれない。

2018-01-10 01:05:11