- fate_limbo
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いつかの夜。根城に戻る際、あまりにも風が心地好く感じたので、少しばかり夜風に当たっていた時のことです。 大術の完成する気配こそ有れど、やはり至るには未だ程遠いようで。この身であれど流石に気疲れしたのか無意識に溜息を漏らした、その目の端に……
2018-01-11 23:57:37それはもう小さく拙僧の背丈の半分とない、汚らしい身なり、哀れな程に細腕で痩せこけた童子が壁に凭れ掛かっておりました。子の濁った瞳に拙僧がどう写ったのか、ええ。はい。“異な者”、“目を合わせてはいけない”、“おそろしいモノ”とでもお思いになられたのか、その場に蹲ってしまったのです。
2018-01-11 23:58:48なんとまあ、あからさまな行動を。思わず口許が緩んでしまいましてねえ、純粋無垢な小童の、壊れる様が見たいと。段蔵にも飽いていた頃でした故、尚の事気持ちは昂ぶり。気が付けば歩み寄り頭をするりと撫でて差し上げて、ええと、何と言ったか?確かその日の前に殺した女の言葉。嗚呼、
2018-01-11 23:59:24そうしたらその童といったら目をこんなにもまんまるにして!掠れた声で何も持っていないから、と。嗚呼、嗚呼、空腹感と孤独感と肌寒さとに苛まれながらも、何と生命力に満ち溢れた人間であろうかと!極限状態の中、救いの手を拒絶した!
2018-01-12 00:00:51……ンン、ン。はい。そう思いましてね?「私は僧にございます、少しばかり異なる格好を致してはおりますが、是は西洋という遠いお国の知恵も取り入れよりよい世へと作り変える為のもの。その世を担う幼子をどうして見捨てられましょうや。」などと、フフフフフ。
2018-01-12 00:01:52甘い言葉とはいつ如何なる状況下でも心が揺れようもの。惑った瞳を喰らってしまおうかとも考えましたが…否、否。まだ早い。騙し夢を見せ誑かし、最高の状態で!至高の最期を!ふつふつと地獄の釜が煮えるように疼く、腹の中で轟く欲を慈しむ笑顔の裏へと隠し、“飼おうとした”のです。
2018-01-12 00:03:26おぶって連れ帰り、行きに見つけた村外れの小屋をそれなりに整えたように暗示をかけ、未だ怯える童子の虱の湧いた髪を撫ぜつつ、中へと案内致しました。ンン、因みに子の名は■■■というらしく。
2018-01-12 00:04:08■■■は“肉”を食うのは初めてのようで、軽く火を通している最中にも少しばかり興奮気味に、辺りにある幻想を指差してはこれはなんだ、あれはなんだ、と。問うて、また問うてを繰り返し。
2018-01-12 00:04:48あれは貝ですよ、それは祈りに使うもの。嗚呼!それは触ってはなりませぬ、いけません。いけませんよ、フフ、まったく……悪戯がお好きなのですか?そんな、会話を交えながら。食事も終える頃には徐々に■■■の表情も和らいだものです。
2018-01-12 00:05:20憑き物が落ちましたな、と頬ずりすればにんまりと笑い、貴族の真似事をば、と爪先で虱を潰して香を焚いてやれば姫になったようだとはしゃいで。夢のよう、幸せ、幸福に満ち足りた子の笑み。
2018-01-12 00:05:52……それを見る度、どろりとした感情が溢れ出る零れる音を立てて蓋が砕け散りそうな。堪えよ、堪えよ堪えよ!耐えて耐えて耐えて。偽りとて触れた熱は変わらぬ。注ぎ注げばいずれ違和感すらも日常と化す。悠長に構える暇は無いが、多少の娯楽は赦されよう。ゆっくり、ゆっくりと鎖に繋いでいきました。
2018-01-12 00:06:45幾ばくの、いや、いや、もっと……短い時間。恐らく、一日の刻も経っておらぬ。昨晩、夜が明けるまで沢山の御話を聞かせれば、拙僧の腕で漸く寝付いた。
2018-01-12 00:07:23漸く起きましたか?もう既に昼時を越え、夕暮れ時にございます。……はて、夕餉?今から作りますよ。よし、よし……赤子のように。どうなさいましたか?ええ、ずっと此処におりましたよ。安心なさいと手を握り。ええ、ずっと貴方を見ておりましたよ。安心なさいと顔を寄せ。
2018-01-12 00:09:09その時の顔と言ったら!!昨夜よりも酷く醜く歪み!――――怒りが、ありました。ええ、ええ!それでこそ愚かな人間!怒りがありながら尚、拙僧を!この■■を信じている!これで、他人をいとも容易く信用してはならぬと勉強しましたね?
2018-01-12 00:10:09■■■、いいこ、えらい子。いたい、痛いですね?痛い、ね、ああ、いたいですね、可哀想に、嗚呼、血がこんなにも溢れて。指が、手が、ないですね?昨夜、私を母のようだと仰っていただろう、母の胎にかえるだけ、ふふふふ、うふふふふふ!
2018-01-12 00:11:20貪り、喰らい尽くし、悲鳴に心を弾ませ、拒絶にぞくりと体を震わせ、骨までも、血の一滴も残さず。ぐぢゅ、パキッ、ブチブチッ、と砕き吸い胎へと収めていく。気絶しようにも激しい痛みで覚醒され、幾度となく、声帯が焼き切れようが、叫び続けた。
2018-01-12 00:12:04すべてを失って尚、生気に溢れた小童も、最期は呆気無いもの。やわらかい肉には違いなかったが、それにしても貧相なものであった。嗚呼、しかし、嘆く事はありませぬよ?
2018-01-12 00:12:31