辺獄毋望之禍夜物語

リンボ @fate_limbo

…………フフ、ふ。鈴の音が、聞こえてしまいましたか。

リンボ @fate_limbo

戸を押さえる手が哀れな程に震えておりますよ、勇気ある孤独な者。おお、可哀想に、隈が……酷い顔をしておられる……そんなに怯えずとも、喰らいやしませんよ。昨夜は寝付けなかったと見ました。恐ろしい得体も知れぬモノに立ち向かうのは、さぞ……悩んだでしょうねえ、迷ったでしょうねえ。

リンボ @fate_limbo

それでも尚武器を構えるのは何故です？見栄？虚勢？それとも村の方々に認めて頂く最後の機会と賭けました？それならば恐らく……フフ、いえ、まだ貴殿には分かりますまい。いやはや、しかし褒めて差し上げたい！如何様な理由であれ素晴らしいと！

リンボ @fate_limbo

ええ、まあ、はい。それは、それとして。

リンボ @fate_limbo

寝惚けている場合では御座いませぬよ、……腕っ節が強いからと、村から吐き出された生贄が。襲い来る怪異にその震える細腕で立ち向かえますか？ンン？……でしょうねェ。然り。然り。貴方がこんな目に遭うのは我らの所為に違いなく。

リンボ @fate_limbo

しかし怨むべきは他に在りましょう。既にお分かりになられているのでは？拙僧は貴殿を御呼び立てするつもりは毛頭、嗚呼、ほら、来てしまった！

リンボ @fate_limbo

今宵も鬼が追い掛ける。血肉はおろか骨まで溶かされ、闇夜を照らす月にも見放され、醜く醜く朽ち果てる様を。陳腐な台詞だと我ながら思うのですがね？隠れても無駄でございますよ、人間如きが、我ら英霊剣豪に勝てる筈も―――――お、や？

リンボ @fate_limbo

なんと狡賢いなんと巧妙なんと滑稽な！何処の何方から入手したのかは分かりませんが、御守り、式の類か。嗚呼、先日といい今日といい！上質な贄と出会う。生きようとする尊く切なる想いが瓦解する瞬間にこそ！深い絶望は生み出される！自ら好んで餌に成り果てるとは、大変良い趣味をお持ちで。

リンボ @fate_limbo

ン、ンンン、ですが、はて、これは代償にしては大きいような？見なさい、貴殿の所為で拙僧の爪が……ふふ、フフフ、うふふふふふふ、ははははははははは！！

リンボ @fate_limbo

剥がれてしまったではありませぬか！

リンボ @fate_limbo

ンン、ンンンンンン凡骨如きがァァッ！！辺獄を司るこのキャスター・リンボにィ、血を流させるか！しかもこんな、こんなにも粗悪粗雑なモノで！！阿婆擦れめッ、浅ましい忌々しいか弱い女風情がァアア！！！

リンボ @fate_limbo

―――――フ、フ――――フゥゥゥゥウ……いけませんねえ、いけませぬ。幾らすぐ治るといえど、これでも痛みはあるのですよ？それに……女は淑女でいなくては。

リンボ @fate_limbo

慎ましく、華々しく、泣きながらに散り、死んでゆけ。無念のままに死んでゆけ。魂を呪え。この地を呪え。人々を呪い尽くさんことを。

リンボ @fate_limbo

……翌朝、彼女の死体を見せしめのように、恐怖を植えつけるようにと外にさらしておきました。皮膚は破れ目は零れ、腹を割かれて血塗れの女を見て、村の者達はどんな反応をしたと思いますか？

リンボ @fate_limbo

“災厄を呼んだ女だ” “こいつが来たから物の怪が出た” “この女さえ居なければ” “しんでよかった” “醜い” “穢らわしい” “悍ましい” “邪魔だ”

リンボ @fate_limbo

……言ったでしょう？この世に救いの手などありはせぬ。死して尚貴方は蔑まれ、憎まれ、怨まれている。屍と化しても殴られ、蹴られ、踏みつけられる。

リンボ @fate_limbo

嗚呼、この世は地獄なりや。 遣る事為す事すべてに感情がついて回り、迷信に躍らされ、他人に躍らされ、故に知性の有る獣どもに、ぺろりと平らげられてしまう。

リンボ @fate_limbo

人の手で立ち向かう事などできまい。怪異が蔓延るのを見逃す他あるまい。戸締りをし家屋で怯えて怯えて……。そんな人間の愛おしき哉、素晴らしき哉。

リンボ @fate_limbo

嗚呼、この世は地獄なりや。 無情非情の残酷さ。非道外道の悪辣さ。魑魅魍魎は恐れるというに、内に潜む魔は知らぬ存ぜぬ。 一体何処が泰平というのやら。

リンボ @fate_limbo

村に住まう者たちを呑み込むように、今宵も、幾度と、幾度と怪物が襲い来る。

リンボ @fate_limbo

そこに、恐れを知らぬのか、はたまた動けずに居るのか……逃げようとせぬ、一人の武士が居りました。その男は幼き頃から腕の立つ、実力だけは誰をも越え、名を上げた武将をも凌ぐやも知れぬ、立派な御方。ただ、

リンボ @fate_limbo

ただ――――彼には運が無かった。幾つもの多大なる機会を同胞に奪われ、地位など初めから見る影もなく。口先では天才の如く崇める同志も、男を差し置き上へ、上へとのぼり詰めていく。

リンボ @fate_limbo

それでも良い、それでも良いと、彼等の背中を見送る度にどろりと渦巻く其れは何か。いつか見返してやろう、程度に思っていたほんの小さな感情が、いつの間にやら膨れ上がり心臓を圧迫している。だがそれも今宵で終える。一か八か丁か半かの、一生をかけた勝負だ。―――なんて、思っていただけなのに。