【ドライブ・アローン】 独りでドライブ。寂しくも爽やかで、独りでいることの全てを語るようなこの曲は、しかし二人用の譜面であった。老朽化し、隙間風の吹き込むサークル会館の片隅で、二本の弦楽器と二人の男は、独りを語るため、一つになろうとしていた。
2018-01-29 21:37:25【鍵を打つ猿】 ゴーヤを手にとって、何気なくでこぼこにを指でなぞる。つるつるしたでこぼこが、リズミカルに指先を跳ねさせる。偶然、ひとつのリズムに当たった。ととと、とんとんとん、ととと。いや、こんなの唯の偶然だ。そう思いたかった。しかし文章は、破綻することなく、続いていた。
2018-01-29 22:27:19【しっぽの気持ち】 ある日突然、柴犬よろしくくるんと巻いた尻尾が生えてから、かれこれ三年は経っただろうか。この尻尾は、嬉しくなるとひとりでにぶんぶんと暴れ出す……と思っているのは周りだけ。本当は、全部自分の意志。周りを騙すことに、随分慣れてしまったものだ。
2018-01-29 22:49:49【種も仕掛けも】 ふと気付けば、モノが消えている。まるで手品か何かのように、ほんの先刻までいじっていたスマホや手帳や鍵が消える。ADHDの症状のひとつ……のはずだった。けれどもある日、目撃してしまった。小さなふさふさの何者かが、せこせことスマホを運んでいるところを。
2018-01-30 18:14:59【ふたりでタント】 銀杏並木、タータンチェック、ミルクティ。秋晴れの日、吹き抜ける風は少し肌寒いけれど、きみのかわいさを引き立ててくれてるから、まぁよし。さ、今日はどこ行こうか?
2018-01-31 20:03:35【待ちぼうけの街】 雑踏、すれ違うたくさんの人、人、人。街はこんなに沢山の人で溢れているのに、僕が会いたいただ一人の彼の顔はない。この街では、皆が誰かを待っている。今は会えないと分かっていても、それでもひとりひとりを目で追ってしまうのだ。
2018-01-31 20:09:19【一番風呂に浸かる】 そんなこと、考えもしなかった。身体を洗うため、その為だけに、これだけ沢山の湯を沸かすなんて。温かいお湯のなかで両足を伸ばすことが、こんなにも気持ちいいなんて。 その日彼は、この文明が興って初めて、風呂というものを知ったのだ。
2018-01-31 20:17:23【鬼の時渡り】 歳の数だけ豆を食べる。ちょっとした出来心で、一粒多く食べてみる。何かが少し変わっていた。 二粒、三粒……食べていく度に、部屋は、家族は、少しずつズレていった。一年ずつ、時間を跳んでいたのだ。やがて親が死に、子が授かった。一日限りの、奇妙な体験だった。
2018-01-31 20:30:15【放課後の天使】 「誤解しないでほしいんだけど、ウチらは皆が想像するような大層なもんじゃないよ。カッコよく悪魔殺したりなんかしないし、武器もなければ魔法もない。ただこうやって、悪い気持ちの残りやすい場所、放課後の教室なんかを、雑巾とモップで掃除するだけ。天からの使いっ走りなんだ」
2018-01-31 22:57:12【みずのいろをください】(25/27) そう言って、目をきらきらさせたその子は、私の前にしゃがみ込んだ。写生を中断し、パレットの上で青と白を何度も混ぜて見せたけど、その子は満足しなかった。「ううん、たとえば、あんなの」小さな指がさした先には、ぽっかりと浮かぶ雲があった。
2018-02-01 00:55:59【午前三時の植物園】(26/27) 誰もが寝静まる真夜中、それでも植物たちは起きている。とりわけここ、植物園の屋内では、野外とは違い葉で葉を洗うような必死の競争も起こらず、きわめて快適な環境で、思いに耽ることだってできる。問答が始まるのがこの時間。どんな動物にも邪魔されない午前三時。
2018-02-01 01:05:41【こめかみと緑青】(27/28) 彼女のこめかみには、鈍い青が覗いている。塗装の傷から緑青が見えているのだ。塗料や、もしくは化粧やアクセサリーなんかで、隠そうと思えばいつだって隠せるのに、彼女はそれを、ヒトならざるモノの象徴を、誇らしげに見せつけるのだ。「だって、カッコイイっしょ?」
2018-02-01 01:17:26【ドライフラワー】(28/28) 作り方は簡単ですよ。風通しがよく、湿気の少ない場所に吊るして、水分を全部抜いてやればいいのです。もっとも、これはお花でのやり方でしてね。人間の脳でやるなら、アイデアをこれでもかと絞り出してやれば、すっかり乾いて、綺麗なままいつまでも保存できますよ。
2018-02-01 01:21:05