ベイン・オブ・カトー #1
Koremadeno arasuji ◆ニンジャスレイヤー=マスラダ・カイの自己破滅の危機を一時的に防いだシルバーキーであったが、その養女であるゾーイの力は、アラスカのロシアンヤクザ「過冬」のドン、シンウインターに狙われていた。シルバーキーの隠れ庵は過冬のニンジャに襲われ、ゾーイは誘拐された◆
2018-02-19 21:56:54Koremadeno arasuji ◆ニンジャスレイヤーは恩を返すためゾーイ奪還に乗り出す。シトカに突入した彼はヤクザホテルに襲撃をかけゾーイを救出。シンウインターとの因縁を深めていたニンジャ、スーサイドの思いがけぬ助言を受けながら、彼はシトカからの脱出を試みた。しかし◆
2018-02-19 22:00:27Koremadeno arasuji ◆シンウインターの力は予想外のものであった。超自然のオーロラに阻まれ、ニンジャスレイヤーとコトブキ、そしてゾーイは、シトカへのUターンを余儀なくされる。雪隠詰め状態となった彼らは、スーサイドの残した言葉にしたがい、フジミ・ストリートの店<筋>を頼るのだった◆
2018-02-19 22:02:13「イヤーッ!」ザルニーツァの拳がインシネレイトの顔面を捉えた。インシネレイトは砕けた眼鏡の奥で驚きに目を見開き、ザルニーツァの背後で強大なカトン・ファイアが炸裂するのを見た。圧縮された時間が還元され、キャノン砲じみた勢いでインシネレイトの身体は跳ね飛ばされた。「グワーッ!」1
2018-02-19 22:05:39KRAAASH!KA-BOOOOM!インシネレイトが大の字に背中から時計塔に叩きつけられた。時計塔の外壁が吹き飛び、機構部から噴き出す炎がひととき空をオレンジに染めた。「……」ザルニーツァは鱗屋根に着地し、タタミ数枚距離を滑った。手を突き立ててブレーキすると、夜空に赤い火花が撥ねた。 2
2018-02-19 22:08:05シューッ……ザルニーツァのイサライト・アーマーの各部が展開し、ほの白い熱蒸気が排出された。「ハアーッ」戦士は極度の苦痛に微かな呻きを漏らしたようだった。だが、恐らくその奇怪なフルメンポの下で彼女は氷めいた表情を少しも変えておらぬだろう。1秒後、カタナ社の鎧は再び彼女を拘束した。3
2018-02-19 22:11:15「バ……バカな」インシネレイトは時計塔の残骸に埋もれ、もがいた。「俺のカトンの速度を……」「死ね」ザルニーツァはプラズマ・クナイを構えた。「イヤーッ!」白い光の死の矢が飛翔するコンマ1秒前!インターラプトをかけたのはヴァニティである!拳をかため、殴りかかる! 4
2018-02-19 22:14:51KRAAAASH!カワラ割りパンチで屋根が破砕!「ヌウーッ!」ヴァニティの呻き声!プラズマ・クナイが彼女の肩を切り裂いていた。インターラプトは当然の予測か!跳び上がって躱しながら、一撃食らわせていた!「こいつ……!」KRAAASH!ヴァニティは建物崩壊に呑まれる! 5
2018-02-19 22:17:11BLAM!BLAMBLAMBLAM!宙に身を翻すザルニーツァを銃弾が追った。ホローポイントは撃ち尽くした銃を放り捨て、ザルニーツァの着地点へ跳んだ。「イヤーッ!」ザルニーツァは空中で身をひねり、ホローポイントに飛び蹴りを繰り出した。「イヤーッ!」ホローポイントは腕で弾き……身を屈める。 6
2018-02-19 22:19:04恐るべきヤクザニンジャの目が不穏に光った。ザルニーツァのニンジャ第六感が超自然の警鐘を鳴らした。ホローポイントはザルニーツァの懐へ飛び込む。そして!「……サップーケイ!」 7
2018-02-19 22:20:31「姉御……オニイサン……!」インシネレイトが血を吐いた。ホローポイントが消えた。消え……「クソアマ!?」隣の民家の屋根に、残像を伴う高速移動体が着地。ザルニーツァ、無事である!「何故だ……」「不穏だった」冷たい声がインシネレイトの耳に届いた。「察知できればどうという事はない」 8
2018-02-19 22:24:17ナムサン!ホローポイントが繰り出したキリングフィールド・ジツは相手を強制的に一対一のサップーケイ空間に引きずり込む恐るべきジツである。だが結果は……!何が起こったのか!答えは速度にある。ザルニーツァはジツの兆しをかろうじて読み、空間封鎖よりも早くに離脱を果たしたのだ!コワイ! 9
2018-02-19 22:27:14バシューッ……圧縮空気が再び排出され、もはやイサライト・アーマーの拘束力が失われた。ザルニーツァは屋根瓦に手をついたが、構えたチョップは、時計塔の瀕死ニンジャをカイシャクするには余力十分と告げているかのようだ。インシネレイトは右手を瓦礫から剥がし、ジツを構えた。一矢報いる! 10
2018-02-19 22:30:14KRAASH!その時だ。ザルニーツァの足場民家が破砕した!大通りのトラックが民家に衝突した為である。何が起こったのか!ヴァニティである!彼女は走りきたウキヨエ・トラックを受け止め、強引にニンジャ腕力によって持ち上げ、力任せに投げつけたのだ!アブナイ!アブナイ過ぎるイクサ現場だ! 11
2018-02-19 22:32:42「チイ」ザルニーツァは隣接民家のへりに掴まり、身体を持ち上げる。その一瞬の隙に、ヴァニティはトラックの背を駆け上り、ひととびに時計塔へ跳びつくと、荒っぽくインシネレイトを救出した。「グワーッ!」「……ッたく!」ヴァニティはインシネレイトを肩に担ぎ、塔の壁を蹴った。「イヤーッ!」12
2018-02-19 22:36:48撤退するニンジャを、ザルニーツァは目で追った。「エネジイ……エネジイ」イサライト・アーマーの電子音声が呪わしく呟いた。ザルニーツァはもう一度舌打ちすると、フルメンポを脱いで小脇に抱えた。美しい髪がこぼれ、風になびいた。……IRC通信。シンウインターからだ。 13
2018-02-19 22:39:39ホローポイントの気配はない。脅威は無いと判断し、ザルニーツァは着信に折り返した。「モシモシ」事務的に状況を報告しながら、彼女は恐るべき光景をあらためて認識していた。空に輝く超自然のオーロラを。不吉だった。仮にニンジャ第六感を持たずとも、それは明らかだったろう。 14
2018-02-19 22:45:29ダグが消えてから、半年は経過した筈だ。もう彼の話をする奴はいない。ジェシとリロイを除いては。野犬にでも食われたのだ。あるいは、酔っ払って港から足を滑らせ、カニの餌になった。そういう事になっている。しかし二人は納得していない。とくにリロイは危険な精神状態だ。ジェシはそう思う。 15
2018-02-19 22:50:42ダグはジェシの実の兄だが、リロイの方がダグにこだわっている。彼はおかしな陰謀じみた妄想にはまりこんでしまった。ジェシは落ち着かなかった。……ダグ、ジェシ、リロイは「海のほとり孤児院」の出身……出身といっても、円満に出てきたわけではない。脱走してきた仲間同士だった。 16
2018-02-19 22:53:44孤児院はロクな場所ではなかった。その実態は、ロシアンヤクザマネーで運営される児童労働斡旋所に他ならなかったのだ。力と暴力が支配していた。大人の暴力と、孤児の中で特に強い奴からの暴力と、レイヤーは二段階あり、どちらも油断がならなかった。 17
2018-02-19 22:56:16三人は境遇を耐え偲び……ある日、遂に、脱出した。奇妙な少女が彼らの計画を手助けしてくれた。彼女の名前は……ぼんやりして思い出せない。彼らは追手を恐れながらも、自由の空気を胸いっぱいに呼吸した。ヤクザ達も、しみったれたガキ三人を捜すためにいつまでも人員を割かなかった。 18
2018-02-19 23:00:46残念ながら外の世界も孤児院同様に過酷だった。シトカは凍える寒さだ。信用力のない市民、それも未成年の仕事はきついものばかり。それでも彼らは必死で自由を謳歌した。……やがてダグは消えた。野犬かカニの餌になった。最近では、実の弟のジェシ自身、そのブルシットを採用しようと考えつつある。19
2018-02-19 23:05:03