ベイン・オブ・カトー #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆010010010111……ザリザリザリ。ファオー。デジタル笙リード音が0と1の残響軌道を伴い、電子庭園を駆け抜ける。しめやかにエントリーしてきたザルニーツァのIDを、既に集まっていた者達が認識し、ojigiコマンドで応える。「ドーモ。ザルニーツァ=サン」◆

2018-02-27 22:04:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆石庭を模した空間で、椅子に脚を組み、電子ウォートカを落とした紅茶を啜る男の肩には鸚鵡が止まっている。カラカサの下でザゼンしているのは輪郭の一定しない影じみた男。あるいはクナイ同士を火打石めいて繰り返し打ち付ける男。白灰色の装束を着た男。無表情なビッグニンジャ。◆

2018-02-27 22:05:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆チャネルのオーナーは鸚鵡を肩に乗せたカークィウス。シンウインターの腹心のニンジャだ。彼が維持するこのチャネルへ、現時点でjoinしてきているのは、カシマール。キンジャール。サイグナス。スノーマン。そしてザルニーツァ。チャネルの名は「ワイズマン」。◆

2018-02-27 22:07:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「遅くなりました」IRCチャネル上のザルニーツァは、なお無感情に言った。「構わん」カークィウスの肩の鸚鵡が言った。「そなたのイサライト・アーマーのメンテナンスは必要なものだ。そなた自身の休息もな。そなたのカロウシは組織の損失となる」「……は」ザルニーツァは無感情に頷いた。1

2018-02-27 22:14:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グルグルグル……」カシマールは喉を鳴らした。黒く滲む影めいた襤褸をまとい、低く低く、ほとんどドゲザめいてうずくまっている。それが彼の普段の姿勢なのだ。「ソウカイ・シンジケートは市内に潜伏を続けておりますな……虱潰しにしておりますゆえ、炙り出すのも時間の問題かと」 2

2018-02-27 22:17:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼が喋るたび、くすぶる影の衣から菌糸じみて闇めいた霊が浮き上がり、電子空間に散ってゆく。そのさまは不穏である。カシマールは恐らくはハデス・ニンジャ・クランのニンジャソウル憑依者だが、過冬においてもその力の正体を注意深く隠し通していると見られた。 3

2018-02-27 22:20:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「闇の相が巡っておりまする……暖かいですぞ」カシマールは誰にともなく話しかける。彼は発狂している。その発狂が実務上の害にならぬゆえ、容認されている。「シトカの市外に出られる者はない」カークィウスの鸚鵡が言った。「いずれ奴らも尻尾を出す。どちらにせよ当面の懸念事項ではない」 4

2018-02-27 22:24:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「三人がかりでザルニーツァを殺れなかった……と言うべきか。ザルニーツァを相手に生き永らえたこと、アッパレというべきか」キンジャールが呟いた。打ち付けるクナイは、彼の闘争心の発露であろうか。「おまえがやるか」スノーマンが言った。キンジャールは鼻を鳴らした。「命令とあらば」 5

2018-02-27 22:31:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんと美しい……」カシマールはキンカク・テンプルを見上げ、電子涙を流した。「嗚呼……しかしソウカイ・シンジケートにキンジャール=サンは向かいませぬ。勿体の無い話でございます。否、相によりてはそれもまた合?はて……嗚呼!見えない!にわかに暗く!わかりませぬ!」 6

2018-02-27 22:34:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「呪術屋」スノーマンが咎めた。「ウヒフ……グルグル」カシマールは嗚咽とも笑い声ともつかぬ音を響かせた。「つまり、件の重点ターゲット……ニンジャスレイヤー……が、ソウカイ・シンジケートと紐づいておらぬ確証もあるわけで無く……彼奴らめの動き始めし時が、合!」 7

2018-02-27 22:38:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ま、そう考えるのが合理的ではある」スノーマンは呟いた。「スーサイドからも情報提供を受けている。ソウカイ・シンジケートがニンジャスレイヤーを匿っている……少なくとも利用している可能性だ」「どちらにせよ、墓暴きの虫たちが、炙り出しまする」カシマールが笑った。 8

2018-02-27 22:42:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スーサイドか」サイグナスは言った。「鼻の利く男ではある」「半端者だがな」スノーマンはバカにしたように言った。「奴はボスに直々に歓迎された。拭えない恐怖が奴を縛っている。犬の役には立つ」「どちらにせよ、ソウカイヤを追う中で、ニンジャスレイヤーを見つけ出す事ができるか」「然り」 9

2018-02-27 22:54:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ボスの所望はふたつだ」カークィウスの鸚鵡が強調した。「ゾーイ。ニンジャスレイヤー。前者は必ず生かして連れ帰る事。まずは無傷でだ。どのようなダメージがあれの能力を妨げるかが確かめられておらん。ニンジャスレイヤーは……殺せ。恐らくこの者達は行動を共にしている」 10

2018-02-27 22:57:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アア!嗚呼!ああ」カシマールが不意に叫び、泣き出した。「消えてゆく。命が消えてゆく……む、む、虫たちが告げまする。私に囁きまする……痛い!熱い!」「動き出したな」スノーマンがニヤリと笑った。カシマールは激しく頷いた。「立て続けだ!恐ろしい事だ!」 11

2018-02-27 23:00:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殺られたニンジャは、何故殺られた?本格的な『狩り』の命令を下の連中におろしたわけでもない」サイグナスが目を細めた。スノーマンは頷いた。「つまり、奴の方から積極的に動いている。尻尾を出すのも近い」「となれば、理由など不要だ」キンジャールが言った。「痕跡を辿る」 12

2018-02-27 23:09:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「熱くなっているか?キンジャール=サン」スノーマンが言った。「クールにやれよ」「冷静だとも」キンジャールは笑った。「だが正直、ザルニーツァ=サンのイクサぶりに感化されているところはある」「……」ザルニーツァは無言だ。キンジャールはクナイを納め、踵を返した。「そうと決まれば、だ」13

2018-02-27 23:13:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01のノイズを残して、キンジャールの後ろ姿が消えた。カークィウスが紅茶を啜った。「このオーロラは好かん」サイグナスが言った。スノーマンは答えた。「誰しもそうさ。そこのカシマールのようなイカレ野郎を除いては」「私も恐ろしいよ」カシマールは目を閉じ、顔を歪めた。「でも美しい……」 14

2018-02-27 23:19:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見られなかったか」リロイが囁いた。「ああ」ジェシは頷いた。リロイは満足しなかった。「オイ!緊張感が足りないんじゃないのか……電磁揺らぎ存在に、こちらのハート・ビート周波数を察知されれば、すぐに緊張値として現れてしまうんだぞ!」「絶対大丈夫だ。それよりお前も声がデカいよ」 16

2018-02-27 23:23:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これは声ではない……」キューウイーキキキキ……ピリリリリリリ。細く高い電子音は、リロイが背負っている奇っ怪なバックパックが発するサウンドだ。彼はこのバックパックを公園の広場の地中に埋めていた。この時のためにだ。掘り起こすのに大変な苦労をさせられた。 17

2018-02-27 23:25:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「で。それでどうするんだ」ジェシは尋ねた。リロイは囁き返した。「もうすぐわかる」「……」二人はイクラ・ディストリクトに注意深く足を踏み入れる。闇の中に投げ込まれたような錯覚。この区画の建物はどれも打ち捨てられている。ユーレイ騒ぎが起こるより前から、このあたりはゴーストタウンだ。18

2018-02-27 23:28:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蛍光ネオン看板もなく、ボンボリもない。浮浪者の焚火もない。しんと静まり返った街並み……年代モノの鱗状の石畳も、まるで怪物の背だ。家々の向こうには黒々したイクラ工場の影。ガスタンクや鉄パイプ。巨人じみている。ジェシはリロイを見る。彼の手には電子ダウジングロッドが握られている。19

2018-02-27 23:32:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キュイン、キュイン、キュイン」リロイは口で呟きながら、ダウジングロッドをクルクルと回している。ジェシは顔をしかめる。だが、リロイが手探りで進む先を懐中電灯で照らしてやることは忘れない。もう付き合う事を決めたのだ。 20

2018-02-27 23:34:01