ベイン・オブ・カトー #6

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーが深く呼吸すると、眼前のキンジャール、の命が、ニニンバオリ・アソビめいて操られるヴォジャノーイの身体の表層に張り付き、脈打っているのが感じ取れた。かりそめの命だ。「……フフフ」キンジャールは肩を揺らして虚無的に笑った。「成る程、ますます油断ならぬ敵だ」 21

2018-03-10 23:22:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スナップを利かせてクナイ・ダガーのひとつを宙に投げると、刃はクルクルと高速回転しながら宙に留まった。キンジャールはもう一方のダガーを握り、両手を後ろに隠した。例の攻防一体、必殺の構えである。「然り、俺は死ぬだろう。最後に貴様の首級をあげて、サンズ・リバーの渡し賃としよう」 22

2018-03-10 23:25:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「過冬のシンウインターはそれ程までに忠誠を誓いたい相手か」「……あの方は恐ろしいお方だ。だが俺は戦士として死ぬ、ただそれだけの事よ。貴様を殺してな!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは地を蹴った!キンジャールは幻惑的なクナイダートを 投じた!「イヤーッ!」 23

2018-03-10 23:31:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは跳躍しながら回転し、その勢いを乗せた裏拳をクナイに叩きつけた。生成されたクナイは裏拳に負け、破砕した。キンジャールはしかし、第三の生成クナイを更に後ろ手に隠し持っていた。空中で回転する盾のクナイで身を守るように回り込み、その一撃を……!「イヤーッ!」 24

2018-03-10 23:34:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギャリリリ!歪んだ金属音を発し、クナイが弾け飛んだ。高度なニンジャ動体視力をお持ちの方は決定的瞬間を見て取った筈だ。ニンジャスレイヤーは高速回転する盾のクナイに指を挿し入れ、回転速度と己の指の動きを同期させ、位置をずらし、キンジャールが繰り出した第三のクナイにぶつけたのだ!25

2018-03-10 23:37:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウランガ……!それはキンジャールとの最初のイクサの折に見舞われた手痛いワザマエを、狙いすましてそのまま返した形である!双方ともに手負いとあらば、閃きにおいて機先を制した者がイクサを制する!キンジャールの顔面に……拳を叩きつける!「イヤーッ!」「グワーッ!」 26

2018-03-10 23:40:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キンジャールの姿勢が崩れた。ニンジャスレイヤーは後ろに下げた逆の手に必死の力を込めた。「イイイイ……イヤーッ!」「グワーッ!」強烈なカラテ・アッパーカットが、キンジャールの頭部を粉砕!ヴォジャノーイの身体もろともに爆発四散せしめた!「「サヨナラ!」」 27

2018-03-10 23:43:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウーッ……フウーッ……!」ニンジャスレイヤーは腰を落とし、ザンシンした。ニンジャ第六感を総動員し、マッタキな死を注意深く見届けた。……完全に仕留めた。工場に吹き込んだ冷たい風が、爆発四散痕を吹き払った。ショッギョ・ムッジョ。 28

2018-03-10 23:46:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはザンシンを解き、UNIXデッキに向かう。ニンジャのニューロンから情報を引きずり出す機会を逸したが、今回の目当てはこの装置のデータだ。「片付けたぞ」ニンジャスレイヤーはタキにIRC通信をコールし、UNIXデッキのキーをタイプする。「指示を」 29

2018-03-10 23:48:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『時間かかってンじゃねえか』タキが応じた。『だいたいお前、何人殺ッたんだ?知らねえぞ。過冬はヤバイ国際ヤクザニンジャ組織だ。完全に目をつけられるな、お前。ベイン・オブ・カトーってか!』「早くしろ」『ああ、ハイハイ、とにかく、オレの指示通り操作しろよ。そんで同期を、こう……』30

2018-03-10 23:53:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オマーク。何だ?」UNIXモニタ上で明滅するシステムのロゴに、ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。『……まあ、それをこれから調べるのがオレの腕の見せ所だからよ。お前、本当感謝しろよ。オレのような敏腕腕利きの情報屋はそうそう転がっちゃいねえんだ』「UNIXを繋ぐぞ。ネットワークに」 31

2018-03-10 23:56:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはキーをタイプする。遠く離れた極東のネオサイタマで、ピザタキの秘密アジトはネットワークを通じ、シトカのイクラ工場に同期する。0101000010101タキはバリキ・ドリンクとケモビールのカクテルを飲み干し、UNIXモニタに流れる情報を注視する。 32

2018-03-10 23:58:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01001010そこに羅列されているのは、イクラ工場で選別された「人間資源」を納品する先だ。タキの眉がぴくりと動く。「こりゃ、いきなりイケるんじゃねえか?シンウインターの野郎がどこに隠れてやがるか、こいつで……オッホホ!こいつは、丸裸にしてやるッて話だぜ……!」「裸がお好き?」33

2018-03-11 00:01:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あン?」タキは顔をしかめ、モニタから顔を上げた。「あれ?」周囲を見渡した。それから頭上を。黄金の立方体がゆっくりと自転している。タキは目をぱちくりさせた。……「裸が。お好き?」タキは声の方向を見た。電子裸体が挑発的に己の身体に指を這わせ、微笑んだ。「ドーモ。サキュバスです」34

2018-03-11 00:03:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキは顔をしかめ、電子裸体の周囲を舞う0と1のノイズを透かして、その詳細を見極めようとした。「もうちょい……もうちょい」確かにその女の名はサキュバスだとわかるし、ワイズマンという名称も、ついてきた。 35

2018-03-11 00:06:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエエ!アイエエエエエ!」イクラ工場を転がり出たジェシは、喚きながら足を滑らせて転倒し、エビめいて反り返り、頭を抱え、鼻血を出して叫び続けた。「アイエエエエ!ニンジャ!ニンジャナンデ!」溜め込まれた拘束ストレスが精神許容値を超えるニンジャの暴力によってフィードバック!37

2018-03-11 00:09:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ!これは典型的なニンジャリアリティショック(NRS)症状だ!磁気嵐が消失し、月が破砕してから約10年経ち、ニンジャは過去以上に人の世に混ざり、夢幻の存在とも言い切れぬものになった。それでも決して非ニンジャの精神が安らぐ事などない。超人性を目の当たりにすれば、こうだ!38

2018-03-11 00:12:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

命を持ったように撥ねる水!赤黒の炎!ニンジャの身体を覆って主導権を奪い、死から隠れようとするシノビのジツ!ニンジャ真実を知らぬ者がそれらにいちどきに晒されれば、常識が崩壊し、現世認識が歪み、防衛本能が精神を逆に傷つける!「アイエエエ!アイエエエ!ニンジャナンデ!ニンジャーッ!」39

2018-03-11 00:15:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ジェシ!」「ニンジャーッ!ニンジャ、ニンジャーッ!ゴボボーッ!」ジェシは嘔吐し、やがてそれが血に変わった。「ジェシ!」「ゴボボボーッ!」「ジェシ!」頬を張ったのは、リロイだった。「アイエッ……」「しっかりしろ。これを使え。電磁揺らぎアクチュエーターだ」40

2018-03-11 00:19:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

リロイはバックパックに接続された聴診器めいたものをジェシのこめかみに当てた。「深呼吸して」「スーハースーハー」「そう。ゆっくり」「スーハースーハー」「こういう事は常に起こりうるんだ。俺は知っているんだよ」「リロイ……」「大丈夫だ。安心して。電磁捩じれは一時的に逆位相化されてる」41

2018-03-11 00:21:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「逆位相……?」「こういう局面では、お前のような几帳面な奴より、俺みたいにブッ跳んじまった奴の方が強いのかもな」リロイは言った。哀しい目をしていた。「俺はもう、そういうの、わからないからさ。俺を遮るものはなくて、無限なんだ。世界は。だから」「……リロイ……」 42

2018-03-11 00:23:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャだってさ?」リロイは呟いた。「参っちまうよな」「……ああ」ジェシは吐瀉物を拭い、笑い返そうとした。泣けてきた。「……ダグは……」「……」リロイはゆっくりと首を横に振った。「……帰ろう。少なくとも、今日は」「……」「立てるか」リロイはジェシに肩を貸した。 43

2018-03-11 00:27:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのまま彼らは無言で歩いた。空にはオーロラ。腹立たしいほどに美しい。しばらく歩いて、どちらが促したわけでもなく、二人は足を止めた。不意に彼らは思ったのだ。かつてはここにダグが居て、三人だった。今は居ない。その事実が、すとんと腹に落ちた。 44

2018-03-11 00:33:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クッソ」ジェシは呟いた。リロイが肩を叩いた。そして何か言おうとしたが、かわりに空を見上げ、叫んだ。「クッソ畜生!」「畜生ーッ!」ジェシも叫んだ。「チクショウ!チクショウ!」二人は喚き、看板を蹴りつけ、バックパックの機械のノイズを最大に鳴らした。犬が吠えだしたが、構わなかった。45

2018-03-11 00:35:43