星が撥ねた

くりす @Chrith_with_luv

１ 『見てー お星様いっぱいだよ』 小さい頃、母と手を繋いでの帰路 夜空を仰ぐと満天の星空。 よくある思い出。 あの頃のような星は何処に行ってしまったのか。 今も同じように存在してるのに 汚れたボクには見えないのかな。 #星が撥ねた

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２ 『ただいま…』 誰も居ない部屋へ戻っても 昔からの癖でつい 口に出してしまう。 いつまで経っても慣れないな。 返事をしてくれるロボットでも買うか。 それもなんだか虚しいような気がするし。 #星が撥ねた

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３ 毎日、機械のように同じことの繰り返しの日々。 ふと思い出す。 このまま時だけが過ぎていくのかな。 あの時のあの子は何してんだろ。 名前も顔さえもう覚えていないのに。 『会いたいな』 自分の口から飛び出したとは思えない言葉に驚く。 #星が撥ねた

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４ あの頃は無邪気に笑っていればよかった。 大人になるにつれて 笑えなくなるって本当だったんだと 今はわかる。 何を笑っていたのかな。 特に楽しいことだったとか 面白いことだったとか そうじゃないんだろうなぁ。 また会えたら 笑い合えるのかな。 #星が撥ねた

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５ キラキラと輝く笑顔を振り撒き 行き交う人達が眩し過ぎて 俯きながら歩く術を覚えた。 自分には何も無いことが あからさまにされるような そんなマイナス思考で 過ごしていた。 また 会えるなんて。 #星が撥ねた

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６ ニュースでは何年かぶりの天体ショーだと騒いでいるけど ボクはボクなりの一大決心をして 街のプラネタリウムに行くことにした。 空を見上げてもあの頃のようなものは見えないなら人工的だとしても良いから星が見たくて。 本来なら子供の科学センターだから 平日の昼間は空いている。 #星が撥ねた

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７ 流石に市営だからか 入館料も安い。 これなら一日中過ごせるかもしれない。 人工的と軽んじていた気持ちは 始まるとあっという間に吹き飛び 星空の世界に釘付けになった。 あの時の空とはもちろん違うけど 星の煌めきには十分魅了された。 結局、午後の映写は全て見てしまった。 #星が撥ねた

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８ それからは毎日通い詰めてしまった。 殆ど貸し切り状態。 それでも何故か泣けてくる。 一点を除いては。 ある日、終了時に係員さんに話しかけられてしまった。 「毎日ありがとうございます。」 恥ずかしいな 仕事してないと思われてんだろうな。 でも、これはチャンスだ。 #星が撥ねた

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９ 『毎日すみません。』 「いえ、いらしていただきありがたいです。」 『ひとつお訊きしてもしてもいいですか？』 「はい、分かることなら何でも。」 『最後なんですけど、こう、なんていうか、星が消える瞬間というか、あの、』 「あ、やはりお気付きですよね。」 #星が撥ねた

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10 「申し訳ありません、私の技術不足でして。」 その人は深々と頭を下げた。 「本来ならば綺麗に流れなくてはいけないのですが、ぶつ切れになってしまっているんですよね。 不快にさせてしまって本当に申し訳ありません。」 『本当にあんな風に消えるものなのかと。』 #星が撥ねた

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11 機械の操作ミスだと言う。 そう言われてみればそうかもしれない。 でも、ボクの記憶では… 『昔見た星空ではあんな風に消えたことがあったんです。』 「え？」 『記憶違いですかね…』 一度だけ星が流れたのではなく 消えた瞬間を見た。 あれは何だったんだろう。 #星が撥ねた

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12 「そういうことは普通は無いそうですが、もしかしたら何かありえないことが起きたかもしれないですね。 私も実は一度、見た事があるんですけど、幼い頃だったので、勘違いなのかと思っておりました。」 まさか 同じ星を見ていた！？ そんな馬鹿なこと。 #星が撥ねた

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13 『もしかして、同じ星を見たのかな？』 「まさか。」 そんなことあるはずはないのに 口に出したことが恥ずかしい。 「またいらしてくださいね。ちゃんと練習しますから。」 #星が撥ねた

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14 来ていいと言われたものの 何だか恥ずかしくて 暫くプラネタリウムには行かれなかった。 やっと見つけた癒しだったんだけど。 ボクの居場所は違うんだろうな。 あの日から何処にあるのか 探し続けてるんだけど 見つからないのは 存在しないからなのかな。 #星が撥ねた

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15 意を決して再びプラネタリウムに行ったのはひと月後だった。 それもいつもと違って日曜日の昼間。 あれ？ 練習するって言ってたのに。 相変わらず最後は綺麗に流れない。 難しいのかな。 終演後映写室前であの人を待っていると知らないおじさんが出てきた。 #星が撥ねた

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16 『あの、いつもの人は…』 《ん？あぁ丸山くんね、家庭の事情で１ヶ月くらい前に辞めたんだよ。》 あの時に！？ ボクはなんてタイミングが悪いんだろう。 名前だって今、初めて知ったし。 《君の事なのかな、いつも来る人が来なくなったって心配していたよ。》 #星が撥ねた

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17 『あの、もうひとつ、いいですか？』 『最後に星が流れないのはどうしてですか？ 難しい作業なんですか？』 《あぁ、あれはそういうやつなんだよ。 普通は流れ星のように流れたりするんだけど、恐らく、星と星がぶつかって出来るんじゃないか、と言われててね。》 #星が撥ねた

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18 そうだったのか… 撥ねるってことか。 それなのに、知ってたはずなのに丸山さんって人はどうしてあんなことを言ったんだろう。 撥ねるを別の捉え方をしていたからかな。 きっとボクの顔を見ていたらそうなんだろうな。 それじゃあ、昔見たことあるってのも 作り話なのかな。 #星が撥ねた

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19 あの夜見たのも 星が撥ねていたんだ。 まるで喧嘩しているようなのかもしれないけど 広い世界の中で出逢えたのは ものすごい低い確率なのに。 ボクが丸山さんに出逢えたのも 本当にびっくりするような出来事なんだろうな。 もう二度と会えないんだと思うと 無性に会いたい気になる。 #星が撥ねた

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20 でも、もしかしたら また何処かでって可能性もきっと有るんだよね。 ものすごく低い確率だけど。 世の中から撥ねられて来たボクだけど ほんの小さな希望くらい 持っていてもいいよね。 その時はちゃんと話をしよう。 ありがとう、と。 【おわり】 #星が撥ねた pic.twitter.com/2BZpP6y1TY

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