『黒憺たる夜に』3

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水ようかん @mzyukn_0809

【レディース&ジェントルメン! 最近のマイブームは「改札通る時に心の中で『変身』と唱える」水ようかんです! さてさて週も折り返し地点に到達しましたが、皆様如何お過ごしでしょうかぁ! なに? 「雨降ってるし週もあと半分も残ってる」? そんなダウナーのあなたにぴったりの作品があるんで

2018-04-18 01:14:47
水ようかん @mzyukn_0809

すよ! これぞ『黒憺たる夜に』! これを読めば日々鬱々と過ごすあなたも明日から明朗闊達コミュ力MAX! 宝くじが当たったり恋人ができたりとあなたの人生を華やかに彩ること間違いなし! それでは、あんまり見かけないし意味ない気がするけど #黒憺夜 のタグを置いて、始まり始まりィ!】

2018-04-18 01:17:03
水ようかん @mzyukn_0809

「おうユーリ、どうしたその小娘は? 俺への土産か? 顔はいいが痩せすぎだな。入る金も入らねェ。一部のマニアには受けるだろうが、大金が舞い込む程のモンでもねェ。もっと肉をつけさせろ。話はそれからだ」 「そうじゃねぇよ色情魔」

2018-04-18 01:18:41
水ようかん @mzyukn_0809

帰るのには五日を要した。筋肉も衰えており、少女の体力は全くと言っていいほどなかったのだ。最後の日など、ユーリが少女を終日おぶって移動していたくらいだ。

2018-04-18 01:19:24
水ようかん @mzyukn_0809

更に、往路で三日、復路で三日を予定していたので、持参した食料が底を尽き、自給自足する破目にも陥った。自分だけならまだしも二人分となると、食料調達も些か骨が折れた。

2018-04-18 01:20:08
水ようかん @mzyukn_0809

道中で交わすコミュニケーションは殆どなかった。あったとしても、最低限のものだった。それ以外は、基本的に互いに無言で歩き、たまにユーリが立ち止まって少女が追いつくのを待ったくらいだ。

2018-04-18 01:22:08
水ようかん @mzyukn_0809

予定外の長旅で疲労困憊だったが、少女をどうにかしなければならないため、こうしてライオネルの所まで連れてきたのだ。 彼はきょとんとしてユーリと少女を交互に見た。 「じゃあ何だよ。迷子か? 隠し子か?」 「いや、拾った」 「拾っただァ?」

2018-04-18 01:23:32
水ようかん @mzyukn_0809

「罹患地域で非罹患者を見つけた。それがコイツだ。放っとけないからそのまま連れてきた」 ライオネルは葉巻に火を点けて煙を吐き出した。独特の臭いが鼻をつく。

2018-04-18 01:24:35
水ようかん @mzyukn_0809

「おいおい、勘弁してくれよ。ウチは孤児院じゃないんだぜ」 「分かってる。だからコイツを引き取ってくれそうな場所を紹介してくれ」 「ふーむ、悪りィが、知らねェなァ。そういう店なら幾らでも紹介できるんだが」 「そうか、ならいい」

2018-04-18 01:25:23
水ようかん @mzyukn_0809

ユーリは黒い泥で満たされた小瓶を渡すと、ライオネルの元を後にする。 自宅に戻り、ソファにどっかりと腰掛ける。少女は扉の傍に立ったままだ。 「散らかってて汚いが、まぁ適当な所にでも座っててくれ」

2018-04-18 01:27:00
水ようかん @mzyukn_0809

埃の積もったベッドの上やユーリの隣など、座る場所は幾らでもあったが、少女はその場に座り込んだ。 アデインの村で出会った時の状態や、歳にしては異様に少ない口数、そして何よりその真っ白な容姿から、彼女がどのような待遇を受けていたのかは想像に余りある。

2018-04-18 01:27:44
水ようかん @mzyukn_0809

だが少女の過去がどうであれ、引き取り手を探さねばならないのに変わりはない。それまでの間、自分の所で世話を見なければならないであろうことも変わりはない。 「あー、アンタ、名前は?」 まずは相手を知らねばなるまいと判断し、少女に尋ねる。

2018-04-18 01:28:41
水ようかん @mzyukn_0809

「……アリアナ」 「そうか、俺はユーリだ」 「…………」 白い少女、アリアナは立てた膝に顔を埋めた。俯いて、赤い瞳で少し先の床を見つめている。

2018-04-18 01:29:39
水ようかん @mzyukn_0809

「……慰師を、やってる。罹患者、罹患者って分かるか? 黒憺病って病気に罹った連中のことだ。そいつらを慰藉、簡単に言えば安楽死させる、そういう仕事だ」 「…………」

2018-04-18 01:30:24
水ようかん @mzyukn_0809

気まずい空気が流れる。しかしそれも無理からぬことであろう。アリアナからすれば、突然自分の村に押しかけてきた男が、村民を皆殺しにして自分を拐かしたも同然なのだから。

2018-04-18 01:32:00
水ようかん @mzyukn_0809

しかし彼女からどう思われていようと、ユーリがやる事は一つだ。それは、アリアナの安住の地を探してやることだ。押しつけがましいかもしれないが、他に彼女を幸福にする方法をユーリは知らない。

2018-04-18 01:32:50
水ようかん @mzyukn_0809

「アリアナ。俺はこれから、アンタを引き取ってくれる場所を見つける。それまでは、ここを自分の家だと思ってくれ」 アリアナの返事はない。ただ少しだけ、ユーリを一瞥したのみだ。

2018-04-18 01:33:39
水ようかん @mzyukn_0809

話題に困窮し、ユーリはシャワーを浴びて寝ようと腰を上げる。 すると、 「……私は、売られるのですか」 消え入るようなか細い声で、アリアナが訊いてきた。 その問いにはっとする。どうやら自分は人攫いだと誤解されていたらしかった。

2018-04-18 01:34:41
水ようかん @mzyukn_0809

「いや、違う。俺はただ……」 慌てて否定したが、ただ、なんだというのだろう。義侠心に唆されたとでも嘯くか? それとも、気まぐれで助けたと? 或いは、己の中の己がそうせよと命じたから? 笑止だ。繕いで重ねる言葉など、何の意味も持たない。良心など、今の自分から最も遠いものなのだ。

2018-04-18 01:35:40
水ようかん @mzyukn_0809

アリアナは黙して返答を待っている。もしかしたら、答えなど期待していないかもしれない。 「……いや、そうかもしれんな」 彼女と一瞬目が合う。

2018-04-18 01:36:53
水ようかん @mzyukn_0809

「やってることは奴隷商と何ら変わらんだろうさ。自分の為にアンタを連れ帰り、自分の為にアンタを他所に引き渡すんだから。違うのは、金が目当てではないってことくらいか」

2018-04-18 01:37:47
水ようかん @mzyukn_0809

「では、貴方の為というのは」 静かに、彼女が再び問いかける。覇気が一切なく、注意していなければ家鳴りと勘違いしてしまいそうだ。しかしそれでいて聞き取りやすい、不思議な声色をしていた。

2018-04-18 01:38:33
水ようかん @mzyukn_0809

「あー、アンタにとっちゃ迷惑な話だよ。あの時、俺にも家族がいたのを思い出しちまった、それだけだ」 がしがしと頭を掻く。

2018-04-18 01:39:26
水ようかん @mzyukn_0809

「『いた』?」 「ああ、いたんだよ。もういない。そんなことより、もう遅いし疲れただろ。シャワー浴びて寝ろ。そこのベッド使っていいから」 余計な古傷を穿り返される予感がして、ユーリはそこて無理矢理話を打ち切った。

2018-04-18 01:40:15
水ようかん @mzyukn_0809

「『しゃわー』……?」 鸚鵡返しにするアリアナ。どうやら彼女の村ではシャワーを浴びるという文化はなかったらしい。或いは、彼女だけが知らなかったのか。

2018-04-18 01:40:54