ライトノベル作家・扇智史の4月2日短編「嘘の翌日」

2
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

例によって、彼らは現地種族の人工衛星運用を阻害しない高々度の軌道上から、ひっそりと地上を見守っている。が、ホロナは非常に怒っていたので、この任務ももうじき終了かもしれない。プキラはホロナに話しかける。「本星に、絶滅業務を申請しました。返事はじきに届くと思います」 *Tw*

2011-04-02 21:27:59
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「ご苦労様」機嫌悪そうに三本の角をぴくぴく動かすホロナに、プキラは尻尾を立てて疑問を呈する。「やっぱり、単なる逆恨みなんじゃないですか? 超越種らしからぬ態度ですよ、たかだかファーストコンタクトを嘘っぱち扱いされたくらいで、絶滅決定だなんて」 *Tw*

2011-04-02 21:29:40
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「私は嘘が嫌いなんだよ」硬い鱗の下の目で、ホロナはプキラを睨む。「何なんだ、あのつるぺた肌どもは」「時期が悪かったんですよ」プキラは昨日から同じことを繰り返している。「地上ではちょうど、惑星周期に1度だけ、堂々と嘘のつける期間だったから」 *Tw*

2011-04-02 21:31:12
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「だからと言って……」ホロナの怒りは収まらない。何しろ、地上のネットワークに発信した友好宣言は、嘘としてあっけなく退けられた。いくら交渉を求めても向こうの態度は変わらず、笑われ、呆れられ、『空気読め』『不謹慎』と罵られ、そのうち相手にされなくなった。怒って当然だ。 *Tw*

2011-04-02 21:32:56
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「あんな連中に合わせることはなかったんだ。首都上空に出現して、電波を全て乗っ取ってやれば、話は早かった」「そういう虚仮威しは条約違反ですよ、現地種族の精神に悪影響を与えます」もちろん、星間交渉のベテランであるふたりは、その手の条約は付帯条項まで熟知している。 *Tw*

2011-04-02 21:34:43
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

ただ、無駄口でも叩かなければ、ホロナは今にも暴れ出しそうだった。「嘘であれほどはしゃぐなど、精神の幼い種族だよ。そのくせ、破壊兵器やエネルギー炉は大量に保持している。危険な星だ」「そうですか? 嘘を楽しめるなら、精神的には成熟していると思いますが」 *Tw*

2011-04-02 21:36:15
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「一時の熱狂の道具にするなら、楽しんでいるとは言えんよ」「私の調査では、嘘をうまく楽しむ種族もいるようですよ。現地語では”ツンデレ”というそうです」「あの種族は虚構に耽溺しすぎだ」ホロナは角をふたたび揺らす。「嘘をおもちゃにする割に、現実の嘘はうまく扱えないのだ」 *Tw*

2011-04-02 21:39:09
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「そうかもしれませんね」「嘘は危険な武器だ。精神をも殺す」そうつぶやくホロナのすぐ背後で、プキラは言った。「……やっぱり、まだ気にしてらっしゃるんですね。婚約者様に欺されたこと」「そうだよ」ふたりの間には嘘はない。真実を隠すには、彼らの任務期間は長すぎる。 *Tw*

2011-04-02 21:40:50
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「親は認めている、と言っていたのにな。肝心の手続きの直前になって……」「仕方ないですよ。難しい関係だったのでしょう?」「誠実に会話すれば、理解は得られるはずだったんだよ。いくら超越種でも、違う種の婚姻に生殖の困難があるのは、当たり前だろう?」 *Tw*

2011-04-02 21:42:44
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「でも、”性”の異同は、あまり障害ではありませんし。そこは婚約者様も何とかなると考えていたのでは?」数百の星間種族においては生殖の様式も様々だが、素のままで生殖可能な種と、そうでない種はある。その関係は、便宜的に”性”という古い言葉で呼び習わされている。 *Tw*

2011-04-02 21:45:03
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

ホロナと婚約者は同じ”性”だった。そのことが、婚約者の親たちには不愉快だったらしい。「……問題は、そこではない」苦々しいホロナの声に、プキラが苦笑した。「いっしょに、解決したかったのですね。なのに、嘘をつかれて、遠ざけられた。それが辛いのですか」 *Tw*

2011-04-02 21:47:31
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「いちいち言葉で表現するな」「でも、しなければ伝わりません」「他者の心を見通したふうに言うこともか?」「理解しているという、何よりの証明です。体を触れただけでは、伝わりませんからね」ホロナの鱗は硬すぎて、プキラの羽毛は触れただけで千切れてしまう。 *Tw*

2011-04-02 21:49:31
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「……それが分かってるなら、嘘をつかれるのが辛いのも分かるだろう」「嘘は真実でやり直せます。けれど、そのためにはすごく勇気が必要で、それが辛いんです」「……知ったような口を利く」「知っていますから」プキラは嘯く。 *Tw*

2011-04-02 21:52:06
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

プキラは饒舌だが、過去については多くを語らない。だが、ホロナたちよりもずっと長命な種族で、経験を積み重ねていることはホロナも承知している。「それで、きみは私にどうして欲しいんだ? 申請を撤回することか? あのひととやり直すことか?」 *Tw*

2011-04-02 21:53:50
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「その選択を観測するのも、わたしの職務の一つです」「それにしては、干渉しすぎだろう」プキラは首筋の羽毛をぴくりと震わせた。楽しんでいる証だ。「最終的な判断を信頼しているから、わたしは、あなたたちには気兼ねなく話せるのですよ」 *Tw*

2011-04-02 21:55:47
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

眼下の蒼い星を映すディスプレイを見やって、プキラは言う。「願わくは、彼らとあなたたちも、同じようになって欲しいですね」「……そうか」ホロナのつぶやきと同時に、星間通信が届いた。プキラが空間に触れる。「本部からの返答が一通、あと、私用が一通です。あなたに」 *Tw*

2011-04-02 21:57:50
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

申請への回答は『不許可』だった。もう一通は、ホロナが差出人だけ見てアーカイブした。「安心しました?」「いや」「ツンデレですね」「そういう表現で正しいのか?」「さあ? 精査のためには、もっと彼らと交流してみないといけませんね」「……そうか」その直後、新しい通信が届く。 *Tw*

2011-04-02 21:59:33
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「どこからだ?」「……下の星からですね」顔を見合わせる。メッセージを理解し、信じた地上の誰かが、この衛星への送信先を探り当てたのだ。精神は未熟で、危なっかしいが、技術力には見所はありそうだ。「何と書いてある?」「……”ごめんなさい。友達から始めましょう”と」 *Tw*

2011-04-02 22:01:17
バーチャル後方見守り女/扇智史 @o_g_s_t_

「忙しくなるな」「はい」相手がこの上なく楽しそうなのを、ふたりとも知っていた。それは、星間連盟からのファーストコンタクトが送信されて、地球の標準時でちょうど、二四時間が経過した時のことだった。 *Tw*

2011-04-02 22:03:23