アイアン・アトラス

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その店員の屈強な事といったら、サイバーサングラスは埋め込み式で、肩幅はがっしりと広く、シャツの下で筋肉がはち切れんばかりだった。コミタは多少訝しんだ。　23

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「ナンカスゴーイ！」「みんなカッコイー！」女たちは極めて友好的だったが、名前や職業もいまだによくわからない。とにかく飲むペースが早い。あれほどのウイスキーを……。「コミタ＝サンも飲んで！」チュリがサケを差し出した。「飲んで飲んで！」「よォし！」コミタは笑い返し、キアイを入れた。24

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30分が経った。「それじゃ私帰るね。ありがとうね」チュリはコミタの手を握って微笑み、席を立った。「うん……うん？」コミタは釈然としないまま、出て行く背中を見送った。他の女子はすでにいない。一人帰り、二人帰り……チュリで最後だ。テーブルには沢山の空きジョッキやグラスが並んでいる。　26

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「なあ、カバヤシ＝サンは何処行った？」ヤマダがコミタに尋ねた。「いや、わからないけど……」「抜け駆けか？まさか」「それはないんじゃない？」「い、いやあ、わからねえ」ヤマダはどこか青い顔をしていた。「エット、俺ちょっとトイレ」ぎこちなく彼は席を立ち、トイレに行った。「……」　27

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「だいぶ酔ってたのかな」コミタはイノに話しかけた。イノも急に青い顔になった。「お……俺、ちょっと様子見てくるわ」「ああ頼む」イノは席を立った。コミタは席に一人、残された。テーブルに並ぶ無数の空きグラスをぼんやりと眺めていたが……。「！」鈍感な彼も、さすがにこのとき思い至った。28

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グラスの飲み残しを取り、ゴクリと飲んだ。（ノン・アルコール！）彼は心臓が強く打ち、ニューロンが高速回転した。ドクン！ドクン！ドクン！（まさか！）コミタは慌てて席を立った。だがその肩を屈強な手が押さえつけ、無理やり座らせたのである！「アイエッ！？」「お客さん。何処行こうっての」　29

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「アイエエエ！友達がトイレから出てこな……」「スッゾオラー！」給仕店員は凄んだ。「テメェは逃がさねえぞ」ナムサン！この店は罠だ！偶然を装い接近してきたチュリ達は恐らく店のマイコ店員！鼻の下を伸ばした愚かなコミタ達を店に連れ込み、大量に飲んでみせ、そしてその会計を……「お会計」30

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給仕店員が伝票シートを突きつけた。ナムアミダブツ！「トイレの窓から逃げるとはたいしたタマじゃねえか、テメェの友人ども」給仕店員はクチャクチャとガムを噛んで威圧する。コワイ！もはや事態は明白である。コミタは罠にかかり、そして友人にも置いていかれ、逃げそびれたのである！　31

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「沢山飲んでくれたなァー。アリガトゴザイマス」給仕店員は伝票シートに並ぶドリンク注文を逐一読み上げていった。「……しめて49万円。こんなに払えねえんじゃねえか？大丈夫か？」「ア……ア……」「しょうがねえな。マケてやるよ」「アイエエエ……お、お願いします……」　32

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給仕店員は490,000を二重線で消し、488,000に直した。「出血！大サービスだ！」「アイエエエ支払えません！」「ザッケンナコラー！」右拳！「グワーッ！」「スッゾオラー！」左拳！「グワーッ！」KRAAASH！コミタはテーブルに突っ伏した。グラスがなぎ倒された。コミタの心は一瞬で折れた！　33

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「テメッコラー！俺の出血大サービスを拒否すンのか？」「アイエエエエエエ！」「今すぐ借金センターでカネ借りてくりゃ払えるだろうが！ケチめ！」「アイエエエエエエ！」コミタの頭の中は恐怖で真っ白になり、己の浅薄さを後悔する思考すらできなかった。彼はただ悲鳴を上げた！　34

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「オイッ！さっきからウルッセーゾ！」別の強面な叫びが店の奥から聞こえた。咎めたのは、先ほどのカップル客の、男の方だった。否、隣にいる相手の女は……おおかた、ここのマイコだろう。「何騒いでやがんだよ！モメてねえで、俺、お会計！」その男は伝票シートを振って見せた。　35

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男の隣では、マイコが給仕店員に肩をすくめて見せた。ナムサン……当然ながら、その男もコミタ同様、この店に騙されたクチというわけだ。「アッハイ！ドーモ！」給仕店員は男にへりくだった笑いを投げた後、床で呻くコミタにひそかに唾を吐きかけた。「ペッ！テメェ、後で一緒に借金センター行くぞ」36

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給仕店員は奥の客のもとへ向かう。コミタは涙に霞む目で、震えながらそのさまを見守った。ここはジゴクだ。どうしてこんなひどい目に。「いやあ、あのファック野郎が無銭飲食しようとしてましてね。お客さんは？お帰りですか？」「帰る、帰る。酒薄くねえか？」「そんな事ありませんよ」　37

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「まあいいけどよ。……あン？　オイ店員。なんだこりゃ」「何がですか」「なんだテメェこの……」男は伝票シートを見直した。「テメェこの……エット……高えよ！4,900円！？」「……ア？」給仕店員の声に凄みが宿った。豹変！「お客様マヌケかコラ？0がふたつ少ねえよ。49万円だ、このカスが！」　38

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「49万円？ウッソ！……ヤッバ！」男は狼狽した。給仕店員は男を睨んだ。「持ってねえのか？」「アーヤベエ……」男はソファから立ち上がった。コミタは息を呑んだ。デカい……「デカい！」コミタは思わず声が出た。その男、7フィート超！天井につくほどに背が高い！「そんなカネ、持ってねえワ」　39

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男は店員を見下ろした。「持ってねえから……エット……」こめかみに指を当て、考える。店員は男を見上げた。「そんなら借金セ」「イヤーッ！」「アバーッ！」男はいきなり店員に頭突きを喰らわせた！「アイエエエ！？」マイコが悲鳴を上げる！「アバーッ！」額から血を噴き出し、店員が床を転がる！40

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「イヤーッ！」「アバーッ！」ケリ・キック！店員は失禁し失神！「払えるかッコラー！代金はテメェがポケットマネーで立て替えとけや！」男は言い捨てた。その顔には……ナムサン！メンポが生成され、装着されている！「アイエエエ！」マイコは悲鳴を上げ、泡を吹いて失神！　41

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「ニ、ニンジャ」コミタは激しく震えた。「ニンジャ、ナンデ！？」「ア？」男はコミタを見た。そして歩いて来た。まずい。終わった。コミタは死を覚悟した。罠バーに騙され、友人に見捨てられ、恐怖を味わった挙句、ワケもわからずニンジャに殺されて死ぬのだ……。「テメェ今、ニンジャつったか？」42

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「い、言いました」「ナンデ？　なんでわかっちまった？た、確かに俺、ニンジャだけどよ」「メンポ……」「だって、メンポが着いちまうんだからよォ！しょうがねえジャンよ！」「アッハイ、しょうがないです！」「クッソ、49万円、どうすんだよ！」「いや、それは……」　43

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「クソ店員、立て替えろっつったのに、気絶してやがるしよ！」「いや、それは……」「お前どうすんの？」「え？」「払ったのか？」「いや、払えないです……」「なあ！ビックリだよな！」ニンジャは同意を求めた。コミタはとにかく頷いた。ニンジャは目を細めて笑い、コミタの肩をバシバシと叩いた。44

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「アイエエエ！」「だよな！全くよォー！俺そんな大金、持ってねえよ！家が建っちまうジャンなァ！」「こ、これは実際詐欺だと思います、ハイ…こうやってサケを注文させて、最後に請求を、エット……」「49、まんえん、エート」ニンジャはもはや聞いていない。不意にコミタを見た。「お前、幾ら？」45

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「エ？」「金額幾らよ」「お、同じです、49万……アッ、違う、488,000円です」「ハァ？なんでだよ」「オマケするとか言われて……」「ズルイだろ！」「アイエエエ！」「もういいよ。エット……49たす488……わっかんねェよ計算！UNIXじゃねえんだから！ナメんなよ！」ニンジャは癇癪を起こした。　46

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「978,000円です」「何？」「た、足し算ですよね？僕らの請求額……」「テメェ……」ニンジャは眉根を寄せた。コミタは死を覚悟した。ニンジャは目を見開いた。「頭いいナ！お前、スッゲエじゃん！お前のあだ名、UNIXマンだな！」「UNIXマン？」　47