アイアン・アトラス
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2018-05-04 13:01:27ネオサイタマ、トリヨシミツ・ストリート11PM。下水配管工から湧き出すスモークが足首の高さに立ち込める。「電話王子様」「チャツコのお店」「大きい人専門店」。ネオン看板の蛍光色は残響じみてスモークを薄く彩り、空を縦横に横切る電線ケーブルはパチパチ音を立てて火花をアスファルトに落とす。1
2018-05-04 13:04:37トリヨシミツは磁気嵐消滅後のネオサイタマで伸長した地域のひとつだ。ネオサイタマ南東部の損壊や企業戦争によって商売が立ち行かなくなったもの達が自然と集まり、中立緩衝区域に極彩色の歓楽街が生み出された。 2
2018-05-04 13:07:02ここではメガコーポの目は届きにくく、ちょっと油断すればカツアゲマンに襲われ、陰に引き摺り込まれて金品の強奪にあう。それを未然に防ぎたければ、ソウカイ・シンジケートのケツモチ・トークンを購入することだ。ケツモチ・トークンを使えばソウカイヤの治安ヤクザが現れ、敵をやっつけてくれる。3
2018-05-04 13:09:18トークンは回数制で、2回使用すると再度のチャージが必要となる。だが、いかんせん値段が高く、カツアゲマンの半分はソウカイヤの末端構成員で、マッチポンプをやっているという、まことしやかな話もある。4
2018-05-04 13:11:42「十人十色!十人十色!」ライムグリーンの自走マネキネコは左腕を激しく動かしてマネキ・サインをしながら、8の字を描いてストリートを練り動く。狭い路地裏ではモヒカン・ヘアの側面に「悪人」の文字をペイントしたカツアゲマンが気弱なサラリマンを壁に押し付け、財布を奪い取る。 5
2018-05-04 13:14:13桃色の格子戸の奥ではオイランが微笑み、ネオン扇子をゆっくりと振っていた。「安い、安い、実際安い」「自由なら何でもある!あなたはここで何をする?」「ムカつく奴をノックアウトだ!」広告音声にメランコリックな街頭BGMが混じる。「ヒートリー、コマキー…タネー…ミスージノー、イトニー……」6
2018-05-04 13:16:31あるいはホロ・オスモウのオハヤシ音声。「イヨオー!ノコッタ!」あるいは市民に注意を促す自治会警告音声。「街頭キャッチマンに気をつけてください。あなたのIDや素子が狙われています。トリヨシミツ商店会の腕章が無い人間!今すぐキャッチやめなさい。射殺される事もありますよ!」 7
2018-05-04 13:19:16ここは不夜城ネオサイタマ・トリヨシミツ。0時以前など、いわば朝のようなもの。ネオン誘蛾灯に誘われるホタルめいて、流行りの発光アクセサリを身につけた市民が集まり、次の飲み屋の一軒、ホットなオイランランド、深夜イベントのクールな地下クラブを求めて、東へ西へ歩き過ぎる。 8
2018-05-04 13:21:46「参ったなあ、お店どこも一杯じゃね!?」「本当だな!」そこを歩くほろ酔いの赤ら顔の若者集団も、そのクチだ。先ほどまではカラオケ・ステーションで楽しんでいたが、今は二次会の場所を求めていた。「だれかIRCのID、ゲットできた?」「俺ダメ!」「俺も」「皆ダメかよ、しょうがねえな」 9
2018-05-04 13:24:10「お前はどうなんだ」「ダメだった。盛り上がった筈だよな?」「盛り上がってた」「おかしくね!?」不満募らせる彼らはコンパの帰りだ。コンパとは男女グループがノミカイを行い、ホットな相手を探すイベントだ。集団オミアイよりカジュアルで、セックス・パーティーよりも性的に健全とされている。10
2018-05-04 13:27:19この日、彼らはエスイーの女性たちとの会合を持ったが、誰一人、連絡先の交換すらできなかったというわけだ。「こんな状態じゃ帰れねえよ」「ホントだよな」彼らは反省会の場を探していた。 11
2018-05-04 13:28:57コンパは複雑なプロトコルに支配された場であり、奥ゆかしく、ユーモアを絶やさず、チームプレイ重点、場面場面で適切に行動する事を求められるイベントだ。今回の会合の何がいけなかったのか?店は問題なかったか?ホットな女性のテンションを落とす発言はなかったか?逐一検証する必要がある。 12
2018-05-04 13:31:28今回のエスイーの女性達は極めて奥ゆかしく、いわばセッタイじみて友好的だった。それゆえに全く本心が汲み取れなかった。……「オーイ」向かいの店「デコノミ」から出てきたのは、コミタ・アクモ。この男子集団の一人であり、ジャンケンに負けた彼は、入店可能な店を斥候する役目を負っていた。 13
2018-05-04 13:34:01「どうだった?」「ダメ、ダメ」コミタは顔をしかめて首を振った。「二時間待ちだって」「マジかよ」彼らは途方にくれた。反省会でヤケ酒する事すら許されないのか。暗澹たるアトモスフィアが彼らの間に漂い始めた頃、不意に一人の女性が彼らのもとに近づいてきた。「お兄さん達、ノミカイですか?」14
2018-05-04 13:36:35「え」「え?」コミタ達は驚き、お互いに顔を見合わせた。「あ…ウン。そう」コミタはほかの連中の機先を制して一歩前に出、頷いた。「だけど店がどこも閉まっててさ。キミ、どうしたの?」「私たち、コンパの予定だったんですけど、日程を間違えちゃって、男子が来なくって……あ、私、チュリです」15
2018-05-04 13:39:27「チュリ=サン?ステキな名前だね」コミタは最高な笑顔を心がけた。チュリは噴き出した。「オモシローイ!」「あのさ、俺たち、もう一軒行こうとしてたんだよね」カバヤシが割り込んだ。「他の皆はどこ?」「そこのお店」チュリは雑居ビルを振り返り、5階を指差した。「超タノ」という店だった。16
2018-05-04 13:41:47「私だけ先に降りてきちゃった。まだ居ますけど?」「え、マジで?」カバヤシはグッと力を込めた。「じゃあさ……せっかくだから、俺らとノミカイしちゃわない?」「えー」チュリは迷ってみせた。男達は緊張に唾を飲み込んだ。長い長い2秒後、彼女は元気よく頷いた。「いいよ!」 17
2018-05-04 13:44:34男達は無言でガッツポーズした。「行こ!」チュリは無造作にコミタの手を取り、促した。コミタの心臓は期待に早く打った。(ヤバイ!こんな最高なインシデントが日常的に起こるストリート、それがトリヨシミツなんだ!しかもこの娘、完全に狙いを俺に定めてやがる…これは退廃ホテル一直線コースだ)18
2018-05-04 13:47:17「「「「カンパーイ!」」」」男、女、どちらも四人ずつ!ケモビール・ジョッキを打ち合わせ、ひと息に飲む。天井にはミラーボールが回転し、ソファは紫色で、魅惑的なアトモスフィアを醸し出していた。店はそれなりの広さがあったが、彼らの他の客といえば、壁際で飲んでいるカップルだけだった。 20
2018-05-04 13:50:19「サイコー!」チュリは朗らかに喜び、コミタにハイタッチした。彼女は目の下に星のペイントをしており、蛍光色のつけまつげが先進的で、キュートだった。しかもコミタの太腿に手を置いている。このスキンシップは積極的過ぎる。(この娘、完全に…その気だな!)コミタは完全にその気になっていた。21
2018-05-04 13:53:08「それで、みんな何処から来たワケ?」「エー?ワカンナーイ!」女たちは笑った。そして店員に空のジョッキを振ってみせた。「水割りください!」「私も!」「ハイヨロコンデー」屈強な店員はオジギし、奥に戻っていった。 22
2018-05-04 13:57:05