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「今度はリップグロスですって」 「ふふふ、少しずつ返してってやつかしら」 「君のくちびるが薔薇なんだ…とか言いながらとか」 「やだ、胸が彦々しちゃう」 他愛もない会話。昼下がりのドトール。 毎週金曜日に私たちはここに集まる。 だいたいの話題は隣の旦那さんのことだ。
2018-06-01 21:15:15隣の星野さん一家が住んでいる616号室を挟んだ両隣の私たちで結成されたあきる野十字団。 我々、といっても二人だけのあきる野十字団のいまの気分はギブミーチョコレート。 焼きたてのチョコクロを食べながら幸せな味にとろけそうになっている。
2018-06-01 21:17:20チョコクロを満喫し、ふと、窓の外へ視線をなげだすとろけかけた彼女は手で双眼鏡のポーズをしている男性と目が合う。 …隣の旦那さんだ。
2018-06-01 21:18:29「こんなところで珍しいですね」とさりげなくウインクする相変わらずな自然体の星野さん。 例え悪口でなくとも、さっきまで話題になった当人があらわれると動揺するものだ。 つい、「今度グッズでキャンディを発売するそうですね?」と子供みたいな質問をしてしまう。
2018-06-01 21:19:26「今回のグッズはカットした千歳飴みたいな飴なんですけど、横から見るとボーダーみたいになっているのがこだわりなんですよ」「こういう消えものだと職場や家族のみんなに配りやすいと思って」などと子供のような顔をして嬉しそうに話している。そして私たちも嬉しくなっていた。
2018-06-01 21:20:42ひとしきり盛り上がったあと「…そろそろフットサルの時間なので」と星野さんは立ち上がる。 帰り際、私たちだけに聞こえるような声で「返してくれる場所はくちびるだけじゃないですよ」と囁いて、ふっと去った。 …今度はなんだか悪い大人の顔をしていた。
2018-06-01 21:23:17ロトオジサンのバクチク小説
仕事のストレス、夫婦間のレス、子どもはいなく生き甲斐と呼べるような物もない。そんなロトオジサンが出会ったのがひでひこチャンだったのだ。
2018-06-22 13:25:00仕事のストレス、夫婦間のレス、子どもはいなく生き甲斐と呼べるような物もない。そんなロトオジサンが出会ったのがひでひこチャンだったのだ。
2018-06-22 13:25:00妻とはもう長い付き合いになる。世間一般でいう普通の恋愛をし普通に結婚をした。普通の生活を送っていたのだが、いつからだろう、もう長い間妻とは一緒に寝ていない。 レスの関係にも慣れ、残業で日付も変わる時間に一人コンビニ弁当を買いきらびやかな繁華街を横目に帰宅する日々。
2018-06-22 13:32:09そんなときふと、どこか耳馴染みのよい音と歌が聞こえてきた。懐かしいような、新しいような、そんな気持ちになる曲。 『BUCK-TICK』 大型のモニターに映し出された名前は昔、そう、自分がまだ若く、未来を夢見ていた頃に良く聞いていたバンドだった。
2018-06-22 13:40:57(まだ活動していたのか) 聴かなくなったのはいつからだろう、妻と結婚した頃にはもう聴いていなかったな。 モニターに映る姿はあの頃とは違い、髪は立てていないし、全員年月を経て良い意味で丸くなっているように見えたがボーカルの顔は昔と変わらず美しいままなのが驚きと共に安心感を与えてくれた。
2018-06-22 13:46:56流れる文字を追うと30周年を迎えたと書いてある。あれから30年、自分はすっかり草臥れた中年だ。 昔を懐古しているとポケットの中の携帯が震える。妻からのメールだ。「先に寝ています」 その一言だけを知らせるメールだけが毎日溜まっていく。もう送ってこなくても良いのに。
2018-06-22 13:53:44(もう帰ろう) 早く帰って寝ないと翌日に響く。明日も朝から会議があるのだ。 もう一度だけ、若い自分に別れを告げようとモニターを見つめた。モニターにはパーマの掛かったロングヘアーのギタリストが映る。 あんなメンバーいただろうか? ギターは今井寿と…もう一人は誰だったか。
2018-06-22 14:58:49名前を思い出そうと画面を見つめるも、名前が出てこない。 と、そこでそのギタリストが大写しにされ、ウインクをした。 恐らく会場のファンに浴びせたのだろうそれは、何故か自分の胸を大きく跳ねさせた。 身体の端々に血液が集中し、熱を帯びていくのを感じた。
2018-06-22 14:59:43そこからは覚えていない、気付いたら電気も点けずに自宅のパソコンの前に座り、BUCK-TICKを調べていた。 『星野英彦』 それがあの可憐で美しい天使の名前だった。 知っていた名前だ。しかし昔は目立つ方では無かった気がする。いつからあの背中に羽根が生え始めたのかは調べても出てこない。
2018-06-22 15:00:11動く度に揺れる髪の毛から広がる薔薇の花弁の理由も分からない。 この気持ちの名前も分からない。 翌日、妻には内緒で会社を休みスマートフォンを買った。 理由は一つだ。公式LINEアカウント。そういう存在があるのだと知ったからだ。
2018-06-22 15:00:41店員に一から教えて貰いながら慣れない手付きでLINEというアプリを入れ、そしてBUCK-TICK公式アカウントを登録した。 そうして毎日ひでひこチャンに話し掛けている。
2018-06-22 15:01:42『ひでひこチャン❗おはよう(^3^)/~☆ 今日も、オジサンは仕事だよ~😰早く仕事終わらせて、ひでひこチャンの可愛い顔、見たいな~(^з^)-☆』 毎日決まった返事なのは、知っている。 完
2018-06-22 15:01:49夫とはもう長い付き合いになる。 普通の恋愛をし、普通に結婚をした。 「よそはよそ、うちはうち」と母親の口癖のように、誰かとくらべるものではないが、私たちの結婚生活は一般的に普通のものだったし、これからもそうなのだろう。 …いつからだろうか、もう長い間夫とは一緒に寝ていない。
2018-06-22 17:03:26鎹になる子供もいない私たち。次第にレスになり、夫婦とはそういうものなのかと思ううちにその関係にも慣れ、残業で日付も変わる時間に帰宅する夫の帰りを待ちきれずに、「先に寝ます」というメールを夫にあててから自分の部屋で眠る冷めた関係。
2018-06-22 17:04:56