突発現パロSS、第十三話

お喋り回
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

香取が二週間の仕事から戻ってきた翌々日。艤装を外して長い休息をとった香取は、会社へ向かった。仕事ではなく、待ち合わせのためだ。 「あっ、香取姉」 「ごめんなさい、待たせちゃって」 「いいの、それより仕事の疲れはとれた?」 二人の会話は離れていた歳月など関係無いというように気安かった。

2018-06-10 20:16:42
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「今日は鹿島の家で過ごすのよね?どんな部屋か楽しみ」 「うん、どこかお店でゆっくりっていうのも考えたんだけど......姉妹だし」 二人は途中の喫茶店で軽食をテイクアウトして鹿島宅へ向かう。 「はい、狭いけどどうぞ」 鹿島はドアの鍵を開けて香取を中へ促した。

2018-06-10 20:22:28
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香取は部屋の真ん中のテーブルに買ったものを置く。鹿島も同様に、その隣に置いた。 「えっと......」 先ほどまでの気安さはどこかへ消え、二人の間に隔絶されていた時間が横たわった。 「ひ、久しぶりだね、香取姉」 「本当にそうね、元気だった?」 「うん、香取姉こそ、あの後からはどうだったの」

2018-06-10 20:26:46
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あの後とは、片親にくっついて鹿島と離れ離れになってからの事だ。 「そうね、泣いてた記憶しかないわ」 「だから、そんなにおしとやかに育ったんだね......あんなに暴れん坊なお姉ちゃんだったのに」 「よ、よく覚えてるわね」 「メガネ、似合ってるよ」 「ありがとう......鹿島は変わってないわね」

2018-06-10 20:32:16
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会社で見たときは一目で鹿島だって分かっちゃった、と香取は笑った。つられて鹿島も笑う。 「ねぇ、香取姉は今幸せ?」 「ええ、もう悲しくて泣く事も無いし、幸せ......なんでしょうね」 「そっか。それなら良かった」 「鹿島、あなたはどう?悲しい事や辛い事は無い?」 「......うん、もう無いよ」

2018-06-10 20:37:43
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続く言葉が見つけられず、二人は黙った。沈黙を破ったのは香取だった。 「鹿島、隣に行っていい?」 「うん」 鹿島の隣に腰を下ろし、買い物袋からコーヒーを出す。 「あなたに話したい事がたくさんあって、何を話せばいいか分からないわ」 「じゃあ......会社のことでも話す?」

2018-06-10 20:43:13
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「香取姉はなんで入社したの?」 「大学の斡旋で......理由は特に無いわ」 「あ、そう......」 鹿島はあからさまにがっかりした。 「嘘。本当は艦娘って技術に興味を覚えたから」 「海に立てるなんてすごいよね」 「ええ、慣れるまでは大変だったけれど、慣れてしまえば陸より快適に感じる事もあるし」

2018-06-10 20:47:57
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「私も早く香取姉とお仕事してみたいな」 「そういえば来週から私があなたの訓練を担当するって話があったわ」 「わ、忘れてたの?」 「仕事明けでぼーっとしてた時に聞いたから......」 「じゃ、仕方ないかぁ」 訓練後の疲労感を思い出し、鹿島は納得した。 「今までは大井さんから教わってたの?」

2018-06-10 20:51:06
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「うん、最初は夕張さんだったけどその後は大井先輩から。私、上達が早いって褒められたの」 自慢げに褒めて褒めてという表情が昔のままで、香取は思わず頭を撫でた。 「それにしても、姉妹揃って大井さんに面倒みてもらったのねぇ」 「ちっちゃい時と逆だね」 「そっか、大井さん迷子だったっけ」

2018-06-10 20:54:12
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鹿島の目が期待に輝く。 「香取姉、覚えてる!?」 「その時のこと?もちろん、姉妹の最後の思い出みたいなものだったし」 「絶対遊ぼうって約束した事も?」 「もちろん」 香取にとって、その日の出来事は泣きたい時に心がかえる場所で、思い出す度に胸を痛めていた。

2018-06-10 21:00:23
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輝く鹿島の目を見ると、彼女にとってその日の思い出は希望であり続けたのだと理解した。 「鹿島」 「わ、香取姉」 香取は鹿島を抱きしめる。 「公園、大井さんも誘って行きましょうか」 「いやもうコンビニだよあそこは......」 「そうだったわ......」 香取は案外抜けていた。

2018-06-10 21:05:31
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せっかく感傷的な気分になったのにね、と買ってきたコーヒーに向かって文句を言う。 そんなようすを見て鹿島は笑った。 二人の間にあった時間の溝は、もう埋まったようだった。 「私、もう少し鹿島の話をききたいわ」 「コンビニに来た変なお客さんの話とか......?」 「いや鹿島自身の話かなぁ」

2018-06-10 21:12:14
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「そうね例えば......誰か好きなヒトがいるとかそういう」 「ごほっ、ごほっ!」 コーヒーを飲んでいた鹿島が唐突にむせた。 「だ、大丈夫?」 「香取姉......」 「えっ何、もしかしているの?」 今のは適当に言っただけなんだけど、と香取は弁解する。 だが香取に相談してみるのは良いかもしれない。

2018-06-10 21:29:35
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「暁さん達に言われてから気付いたんだけどね」 時々会社付近に現れる子供達かと香取は合点する。 「私、大井先輩のこと、好き......みたいで」 「鹿島、顔が真っ赤だけど大丈夫?」 「私そんなに顔に出るのかなぁ!?」 「とても分かりやすいわよ鹿島」

2018-06-10 21:32:32
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「それでね、私、どうすれば良いんだろうって......」 「何か目標はあるの?恋人になりたいとか告白したいとか」 「わかんない、何も......ただ先輩を見るとドキドキするようになったっていうか」 「そう......それなら、知ってもらうだけでも良いんじゃない?」 「こ、告白するってこと?」

2018-06-10 21:39:08
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「大井さんは優しいから、鹿島にそういう事言われて拒否はしないと思う......想像だけどね」 「そうかなぁ......困らせないかな」 「まぁ困りはするでしょうね」 なぜなら大井は北上が好きだから。だがそれを本人の居ない所で広めて良いのかは分からない。 「でも......拒まれはしないと思うわ」

2018-06-10 21:43:43
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「うぅ、香取姉......」 鹿島は香取に体重を預ける。 「告白より気持ちを落ち着けるのが先ね、この分だと」 「そうだよね、ほんとに好きかもまだ分からないんだし......」 「大丈夫、時間はたくさんあるんだから」 そうだよねと鹿島は元気を出して、二人は買ってきた食事に手をつけた。

2018-06-10 21:49:39
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休日、大井はあるデパートのフードコートへ向かった。同僚との待ち合わせだ。彼女のスマホには、他の二人は既に到着していると連絡が入っている。 階段を降りてフードコートへ到着すると、すぐ目に入る目立つ席に彼女達は座っていた。 「誘っといて遅れないでよねー」 「悪いけど先に食べてる」

2018-06-10 22:59:03
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「いいわよ、来てくれれば何でもいいんだから」 「また何で私?珍しい」 「川内をほっとくと香取が危ないから」 「えー私絶対香取に良い印象与えてるよ?真面目に仕事したし」 「ねぇ、由良は何で呼ばれたの?」 「川内と二人きりだと私がキツいから」 「無礼、無礼だぞ大井」 「ま、丁度いいかな」

2018-06-10 23:03:02
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「丁度いいって何が?」 「ん、後で話す」 「はぁ、ポテト追加で買ってくるけど大井は何か食べる?」 「川内に任せる、これ使って」 「奢り!?やったー!由良は?」 「ポテト」 「いってきまーす」 「あいつ絶対山盛りのポテト持ってくるわよ」 「いいじゃない、何なら由良が全部食べるから」

2018-06-10 23:07:16
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大井の予想通り、川内はトレーいっぱいにフライドポテトを盛ってきた。 「私しおしおのやつ好き」 「由良は硬いやつがいい」 「ねぇこの山には私の分も含まれてるの?」 「当たり前じゃん」 この気の抜ける感じ。これが一緒にいて楽というやつだろうか。 「で、何か相談でもあるの?」

2018-06-10 23:15:13
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「あぁ、うん。新入りのコいるでしょ、鹿島っていう」 「いるね、香取の妹だとか」 「その鹿島のようすが最近変で」 「恋だね」 「まだ何も話してないんだけど」 「大井周りのトラブルって基本そういうのじゃん」 「トラブルまで発展してないわよ」 「残りポテトの数が奇数なら恋って事で」 「何でよ」

2018-06-10 23:20:40
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「目を合わせてくれなくなったし、よく赤くなってるし」 「えっその話続けるの?」 大井はむっとしたが、そもそも相談する前からとっくに結論は出ている。 「大井ってこういう時いつも由良達に奢るじゃない。そういう所よ」 「それ由良達が私に惚れてる感じにならない?」 「えっ無理......ごめんね」

2018-06-10 23:24:55
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「それにしてもさ、内容はアレだけど大井が後輩のこと気にかけるなんて、変わったよね」 「前は北上さんの事しか見てなかったものね」 「やっぱり大井は北上と離されて正解だと思うよ」 「川内、北上さんの悪口は許さないわよ」 「待って大井、今のはあなたへの悪口よ」 「ならいいわ」 「いいんかい」

2018-06-10 23:28:27
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知らぬ間に立っていた大井は再び椅子に座る。 「ほんと、大井は変なやつだよ」 「類は友を呼ぶっていうでしょ」 「ん?」 「私たち、社内の要注意人物だからね」 「え、由良は違うよね?ね?」 大井は無言で財布を出す。 「何か飲む?」 二人から適当、との返答を貰って大井は席を立った。

2018-06-10 23:33:04