- in_KabeWall
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泣きじゃくる妹と、どうして球磨に叱られたのか理解できない自分。面白そうなものがあったから、近くに行った。それだけだったのに。 幼い日の記憶を整理できたのは、初めて酒を口にした時だった。 酒の力で想像力を増した北上は、ようやく、あの時自分が妹の存在を忘れて行動したのだと思い至った。
2018-06-15 21:09:50「ねぇアブックマ、これって謝るべきだと思う?二十年経っちゃった」 「変なあだ名はやめてください、悪いと思ってるなら謝ればいいじゃないですか」 「思い出す限りこれ以降なんだよね〜大井っちが離れなくなったの」 「小さい大井さんかわいそう」 北上は阿武隈の前髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
2018-06-15 21:14:39「ああっもう北上さんいい加減にしてください!」 阿武隈は鏡を取り出して前髪を手早く直す。回数を重ねる毎にタイムは縮まっていた。 「いやぁ情けない話なんだけどさ、謝っちゃったらもう大井っちからの求愛を受けられない気がしてね」 「毎度のらりくらりと躱してるくせにそういう事言うんですね」
2018-06-15 21:20:07「好き好き言ってくれるのも最初は本気だと思ってなくってさ、本気で言ってるって気づいた頃にはもう慣れちゃってたんだよね」 そうこうしている内に球磨に見咎められ、二人の距離は物理的に離れる。時々会社で会える事があるが、以前のような愛情表現は鳴りを潜めていた。 「いや、寂しいものだなぁ」
2018-06-15 21:28:39阿武隈は眉をひそめて北上を見た。 「北上さん、どうしたいんですか?」 「どうって......別にどうも」 北上から感じる厭世観。このヒトは感情を偽らないのに、行動は起こさない。 「いてっ、なんで背中叩くのさ」 「あたし的に気に入らなかったので」 「もし骨が折れてたらあたし仕事できないじゃん」
2018-06-15 21:37:15「ま、北上さんが今後の人生をどうするかなんて阿武隈は知りませんけど」 じゃあ叩くなよと北上は不満をこぼす。 「ずっとそんな態度だったら、いつか大井さんの心も離れていきますよ」 「そうかなぁ」 言い過ぎたと思っている阿武隈の言葉を、悲しむでも憤るでも無く、北上はただ受け止めた。
2018-06-15 21:53:43