愛国心、ナショナリズム、郷土愛について

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愛国心やナショナリズム、郷土や歴史への愛着。これらの関係についてあとで読み返したくなりそうなツイートがあったので、発端からまとめておく。

あと最後に簡単な感想・覚書。

発端

若林宣 @t_wak

温泉につかったりお茶を飲んだりするたびに「日本人で良かった」とか言い出すのって、フレンチを食べたときに「フランス人でなくて残念だ」と言うのと同じくらい滑稽だと思います(一応プロパガンダの手法だということは存じております、ハイ)。

2018-06-10 03:19:00
若林宣 @t_wak

ザワークラウトを食べて「ドイツ人で良かったぁ」とか言う人っているんだろうか(またそういう愚問を)

2018-06-10 03:20:24
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

@t_wak 00年代はナショナリズム関連の書籍ブームでした。しかし同じころから左派やリベラルが言い訳のように「わたしにも愛国心はあります」とか言い出すようになってから、ナショナリズム批判のもつ多元主義的な市民的徳を涵養する公共的な批判力が忘却されてしまった。教養が失墜している。

2018-06-10 20:22:31
えりし~ @Elice_13

@SHONAN_T_philo いや左派に限らず「愛国心」なんて誰でも持ってるだろ? 所謂「普通の日本人」が持っていると公言してる「程度」の愛国心ならw もっと踏み込んだ愛国心なら話は別だが、オレは左派の愛国心の方を支持するがね。 国家に従属する類いのモノでは無く、個人主義に根差した愛国心を。

2018-06-12 01:25:03

一連のツイート

湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

ご返信ありがとうございます。 失礼かもしれませんが、ごく基本的なことを確認させていただきます。ナショナリズムについて、あるいは愛国心について集中して勉強していたのは10年以上も前なので、改めて文献を引き出してくるのも大変ですので、ごく表面的なことだけを説明させていただきます。 twitter.com/Elice_13/statu…

2018-06-13 22:02:42
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

「「愛国心」なんて誰でも持ってるだろ?」と仰っていますが、 まず(1)「愛国心」という体験が近代的なものであり、人が本来的に自然に持つものではないということをご確認していただきたいと思います。

2018-06-13 22:03:19
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

もちろん人は社会的な生き物ですからまったく「自然な」感情というものはほぼないとは思うのですが、「自然に」感じられるということはそれだけ社会的に構築されているという基本的なことをご確認下さい。

2018-06-13 22:03:48
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

たとえば愛国心には「国民」であるという意識が前提として必要であるかと思いますが、「国民」という意識もいうまでもありませんが、主権を持った国境に境界付けられた領域があり、そこに一つ法に従う、一つの国語を語る市民がいる、という前提が必要です。

2018-06-13 22:04:25
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

大変失礼な確認ですが、近代国民国家の形成以前には、国民も国語も愛国心もあたりまえのものとして語れませんでした。郷土や共同体への愛着は当然あるでしょうが、それはいわゆる「愛国心」とは異なるものです。

2018-06-13 22:05:04
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

(2)つぎにこの愛国心を感じる主体についてですが、先に申し上げたことから国民という一人の主体、ということになるかと思います。単純に何も疑問を持たずに「愛国心」があるといえるのは、たいていは「日本人」としてのアイデンティティを持っている人だと思います。

2018-06-13 22:05:58
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

あるいはまた「愛国心」という日本人に対して「やまとんちゅう」だからだろと思うような沖縄の方もいるのではないか、と考えることも可能です。つまり誰でも持っているものなのでしょうか?そうした隣人と共有できない共同体への愛とは何でしょうか?これもわたしが愛国心を否定する一つの理由です

2018-06-13 22:08:28
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

さらにいえば、日本人であっても国家によってひどい抑圧や拷問にあった、恨みを持っている、という人に愛国心はあるのでしょうか?または、そうした隣人がいるときに自分には愛国心があるといえるでしょうか。

2018-06-13 22:09:35
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

(3)貴殿は「個人の」ということを強調しているので、「愛国心」とナショナリズムを分けていると思われますが、おそらくその区別は不分明で愛国心はいつでもナショナリズムに転落する可能性があると思います。

2018-06-13 22:10:25
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

たとえば、郷土への愛着や、過去の人物、作品や歴史的存在物へのわたしの愛着を指して、「それ愛国心じゃない?」といわれたとしても、わたしが愛国心ではないと主張する、郷土や共同性への愛着を愛国心と区別するのはとても難しいのです。

2018-06-13 22:12:03
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

そしてその区別に失敗し妥協したときに、私の愛着心は「みんな」に拡大されたとき簡単にナショナリズムへと転落する可能性はいつでもあるのです。

2018-06-13 22:12:39
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

ですから、わたしはナショナリズムにいつでも転落しうる愛国心とわたしが愛着するものへの思いを違うものとして表現し続けるためにパフォーマティヴに「愛国心はありません」といい続けます。

2018-06-13 22:13:11
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

そうした時代と現在とでは、それこそ近代国家の成立の以前以後ほどの違いがあるのではないかと思います。なぜ、簡単に愛国心と誰もが言えるようになったのか、そして愛国心を否定することを忖度してしまうような状況がいつから生じたのか考察に値すると思っています。

2018-06-13 22:14:37
湘南蔦屋書店人文 哲学・思想 @SHONAN_T_philo

ながながと、申し訳ございませんでした。とても重要なご指摘だと思いましたので、以上です。失礼いたします。

2018-06-13 22:15:46

感想・覚書

『人工地獄 現代アートと観客の政治学』を思い出す。

この本では、参加型アートを企画するアーティストと鑑賞者との関係の移り変わりを

鑑賞者の能動性と行為主体性が次第に顕在化している物語

あるいは

アーティストへの意思への自発的(ボランタリー)な従属が次第に強まっていく傾向

とも表現している。

これは国家と国民の関係としても読み替えられる。と言うか、参加型アートは起源からして政治的だった。

本書第二章が、

イタリアのファシズムのイデオロギー形成の確立に繋がった

「未来派」の活動や

ボリシェヴィキ革命の後年に萌芽したあらたな基軸となる演劇表現

およびこれらに対置される「ダダの季節」のために設けられている(参加型アートではないけれど「ロシア構成主義」はプロパガンダ・アートだ)。

自発的に参加するよう染め上げられて、外からの批判を受け入れなくなると危ないなあとは思うけれど、これきっと自覚困難なんだよね……。

ところで、「愛国心じゃない」と言い続けるの大事なはずで、『隷属への道』のこの一節を思い出す。

人々のしたがうべき価値の妥当性を、人々に受け入れさせる最も有効な方法は、人々または少なくともそのなかの最も善良なものが常に抱いていて、しかもこれまで適当に理解されず、また認められなかった価値と実質的に同じものであると説得することである。

愛国心という言葉が一度は極右的な言葉として日常から遠ざけられて、それがまた気軽に言えるようになり、否定しにくい雰囲気さえ出てきた移り変わりに、これに近いものを感じる。