転叫院@tenkyoin_さんが語る「リスクを計算するということ」の困難性

転叫院@tenkyoin_さんが原発事故を例に「リスクを計算するということ」についての解説と、それの難しさを語っています。
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@tenkyoin_

たぶん、あの地震と原発事故のあとで、密かに進行するのは「リスクは計算できるんだ」派と「リスクは計算しても無駄だ」派の対立というか分裂だと思う。

2011-04-12 23:20:15
@tenkyoin_

「主知主義」と「反知性主義」と言ってもいい。ただし、十分に知を尽くして考えた末に「計算できないリスクもある」結論に至る一部の人もいるとおもう。

2011-04-12 23:21:36
@tenkyoin_

25年くらい前に欧米で始まった社会学の思想で「リスク社会論」というのがあって、これはざっくり言えば、現代社会は多くのリスクが「可視化」し「計量可能化」していて、それらがあまりにも「専門知化」しているために、人は断片的な情報で極端な行動に出てしまうという前提のもとに、

2011-04-12 23:24:08
@tenkyoin_

どうすれば、正しくバランスをとったリスクの計量ができるか(あるいはそんなことはできないのか?)ということを論じた思想だった。僕はその問題意識は四半世紀経った今でも古びていないと思う。

2011-04-12 23:25:17
@tenkyoin_

「リスク社会論」の結論の一つは、リスクを数量化してちゃんと確率の計算のもとに計量すること、つまり「保険の計算」をちゃんとやること、であったと思う。

2011-04-12 23:26:33
@tenkyoin_

そして、3月11日の地震の後から、この「リスクの計算」という考え方は一部で大変旗色が悪くなってきている。特に「リスクの計算を語る学者」に対する不信感は相当のものだろう。

2011-04-12 23:27:40
@tenkyoin_

しかし逆に言えば、あの3月11日の原発事故の後から、いま現在ほど、まっとうな「リスクの計算方法」が求められている時代もないと思う。

2011-04-12 23:28:43
@tenkyoin_

一つリスク社会論を擁護したいのは、「リスクを計算すること」の落とし穴に付いて、リスク社会論ほど自覚的であった思想は他になかっただろう、ということだ。

2011-04-12 23:29:57
@tenkyoin_

その「落とし穴」とは何かというと、一つ目には、人は専門家の意見を基にしてリスクを計算するわけだが、そこで専門家が正しいことをいかにして他の専門家によって保証すればよいのか(あるいはそれは無理なのか)という問題。

2011-04-12 23:37:08
@tenkyoin_

もうひとつは、カオスとかrogue waveというような、ガウス分布的な統計から外れた異常現象が発生する可能性。僕はあまり好きな言葉ではないが、「ブラックスワン」的な事象が起こる問題。

2011-04-12 23:38:50
@tenkyoin_

ガウス分布じゃないならなんなのかということで、べき分布か何かで近似されたりもする。べき分布が恐ろしいのは、その関数の値自体は収束するのに、積分が収束しないということが起こり得るということだ。

2011-04-12 23:41:39
@tenkyoin_

1+1/2+1/3+1/4+1/5+……と無限に足して行ったらいくつに収束するか、答えは無限大である。調和級数は発散する、というよく知られた話だ。

2011-04-12 23:43:15
@tenkyoin_

ところが、1+1/4+1/9+1/16+……と、1/(n*n) を順に足して行ったものは収束する。答えはπ^2/6である。

2011-04-12 23:46:00
@tenkyoin_

その一方で、1+1/√2+1/√3+1/2+……と、1/√nを順に足して行ったものは発散する。値自体が収束するかどうかは、総和が収束するかどうかの必要条件であるが、十分条件ではないのだ。

2011-04-12 23:48:02
@tenkyoin_

というところで、これらの数学の話が何に関係するのかというと、「リスクの総和を計算する」ということの、計算可能性についてである。リスクを計算するということは、「高い確率で起こるが被害は少ない」リスクから、「確率は低いが被害は大きい」リスクまでを総じて足し合わせることだ。

2011-04-12 23:49:40
@tenkyoin_

確率の低いリスクは「確率が低すぎる」が故にないものとして切り捨てられることもあり得るのだけれど、それを全部足しあわせたらどうなるんだ、というのがさっきの「総和が収束するかどうか」という話。

2011-04-12 23:51:23
@tenkyoin_

「積分をどこまでで打ち切ればよいのか」「打ち切っても計算の誤差には関係がないのか」という問題である。信頼性とかリスク計算とかについて議論するときには、この「収束判定」の微妙なところに、大きな問題がかかってくる。

2011-04-12 23:54:14
@tenkyoin_

リスクの分布がべき関数だったとして、その係数が-1.01なのか、-0.99なのかが、リスクの総和についての判断の重大な分かれ道になるということなのだ。こういう微妙さがあるので、リスクの計算というのは実は結構難しかったりするのだと思う。

2011-04-12 23:56:56
@tenkyoin_

とまあ、今日書いたことは殆どの人についてチンプンカンプンだと思うのだけれど、とりあえずのメモとして。

2011-04-12 23:58:24
@tenkyoin_

テレビに出てる科学者が「放射線の量は減って行っているから大丈夫です」と言っているのを聞いて、(A)「専門家の言っていることなんて信用ならない」というのは学問を馬鹿にしすぎている、

2011-04-13 00:16:50
@tenkyoin_

(B)「科学者の先生が言っているなら正しいでしょう。それに放射線の量は減って行ってるんだから最後はゼロになるだろう。最後に0になるなら、総和を取っても大したことにはならないでしょう。常識的に考えて」というのは専門家を盲信しすぎて、科学的な態度ではないと思う。

2011-04-13 00:18:09
@tenkyoin_

正しい科学的態度は(C)「放射線量の減り方のグラフが確かに指数減衰(あるいは何らかの関数)で近似されることを確かめて、総被曝線量を積分で計算して確かめる」だと思う。だけどその計算を個々人にやれ、個々人が自衛しろ、というのはちょっと酷すぎるとも思う。

2011-04-13 00:19:13
@tenkyoin_

というところに、リスク計算を「自分でやれ」という、ある種の上座部的な思想の限界があるんだろうな、と思ったりもする。

2011-04-13 00:20:30