そうして少女は戦場へ行った

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

合衆国を始めとした欧州諸国が深海棲艦に叩きのめされ、制海権を喪失し連絡線を絶たれる段になってようやく、帝国は自らの経済が窮地に立たされていることに気が付いた。 海外にあったあらゆる資産はもはや手の届かない場所にあり、輸出入を回復するには恐るべき対価を支払わねば成しえなかった。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

特に主要輸出産業だった農業の打撃はひどかった。米と絹の買い手は永遠に現れないように思われ、その価格は大底をついた。首都より離れた北辺では家族全員が路頭に迷った。彼らはぼろをまとった生霊で、飢餓の瀬戸際に追いやられ、あてどもなく彷徨い、途中の村々では人々に避けられ、虐待された。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

目を背けたくなる光景だったが、海軍の担当官はそうは思わなかったようだ。彼らは”福祉事業”をほのめかし、”補助金”の存在をちらつかせた。 「海軍の新兵器のための兵員を探している」「協力するなら補助金を」「採用されれば給金も出る」

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

それは事実上の海軍主導の人買いだったが、成果を喧伝される新兵器の存在によって全ては正当化された。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

子供たちを食べさせることを諦めた親たちは、喜んで海軍に娘を売り渡した。それは人身売買ではなく、お国の為、世界平和の為の崇高な行為だった。海軍さんなら大丈夫だろうと言う根拠のない信頼も、彼らの良心を納得させるのに大きな役割を果たした。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

帝国政府が採った統計によれば、北方のいち地方からだけでも二年間で6万人近い娘が売り渡されたという。彼女たちの中でもごくごく一部の選ばれた者たちは艦娘となり、選ばれずとも見込みのあるものは海軍軍人となった。しかし残る殆どは海軍に残ることは出来ず、”再就職先”を斡旋された。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

これら一連の人身売買には予算には調達費や開発費があてられたが、軍艦一隻より遥かに安い投資と将校からは一般に賞賛された。海軍の慈悲ある施策は国民からも賞賛され、深海戦争中期の艦娘増産期にあっては優れた先見の明と絶賛された。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

政府の焼石に水めいた作物の買い取りは、ほとんど評価されることはなかった。しかし皮肉にもこの時に激増した備蓄が、この後に訪れるもっとも苦しい時期を乗り越える切り札となった。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

このような経緯から、帝国海軍の殆どの艦娘は、人買いに買われた娘だった。兵学校を卒業した由緒正しい軍人はごくごく少数で、将校はほんの一握りしか存在しなかった。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

それは帝国海軍においてごく少数の限られたエリートを意味しなかった。女性を採用していたことから当時としては進歩的と評価される帝国海軍においても、女性の活躍とは男を立てることにあると言う考えは男女問わず根強かった。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

優れた男の指揮官の副官であることが彼女たちのステータスであり、もっとも華やかな出世街道であった。そんな中で指揮官の元を離れ、いち兵器の操作員になると言うことは左遷を意味した。それは考え得るもっとも屈辱的な人事であり、そこへ行くのはよほどの物好きか、無能だと考えられた。

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

モチベーションに満ち、数の大半を占めていたのは買われてきた少女達だった。とある海軍将校が述べているように「もっとも多く海に出て、もっとも多く敵と戦い、最も多く戦死したのは彼女達だった」