フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ ＃３

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤモト・コキ＝サン、そこをどくがいい」エヴァポレイターはニンジャサインを結び直し、威圧的に地上を指差した。そして「私はまず、その後ろの脱走女子高生を焼き滅ぼす」と言った。「やらせはしない」とヤモトは返した。……２人のニンジャは睨み合い、瞬時に、アトモスフィアが張り詰めた。　22

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このニンジャが危険なレーザー光線を放つことを、ヤモトは既に情報として得ていた。テマリはその恐ろしい光景をサイバネアイに録画していたため、ヤモトに仔細を伝えることができたのだ。故に、ヤモトは剣を交える前から、敵の最大の武器を知っている。そして、それが余りに危険な武器であることも。23

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レーザー光線。其れ即ち光速である。銃弾と違い、発射を見てから反応していては、たとえニンジャ反射神経とて回避すること能わず。ならばこの窮地を脱する方法は、ただひとつ。……タイノサキ。すなわち敵の攻撃の気配を読み、一瞬先に動いてそのカウンターを取るという、イアイドーの極意しかない。24

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勝負は一瞬で決するだろう。理論上は、やれるはずだ。だが全てはイアイ次第だ。イアイのタイミングを見誤れば、原子分解するのは己の側だ。……ヤモトは手に汗握り、右手をカタナの柄に添えた。そしてニンジャ視力を研ぎ澄まし、エヴァポレイターの一挙手一投足に注意を払った。　25

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ヤモトは深く息を吸い、ゆっくりと吐く。世界を流れる風、香り、鼓動、言葉、熱、全て、すなわち、大気に満ちるエテルの流れにニンジャ知覚力を集中させるために。その境地へと精神統一を図る。カラテが練り上げられてゆく。　26

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エヴァポレイターも、腹はおよそ同じであった。体の前で複雑な印を結びながら、ジツを放つべき瞬間を探る。……ヤモト・コキと名乗るこのニンジャは只者ではない。次のレーザーを外すことがあれば、たちまち距離を詰められ、斬りつけられる。連続発射は不可能だ。この一発で勝負をつけねばならぬ。　27

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……実力伯仲したニンジャのイクサは一瞬で決する。機先を制した側がイクサを制する。その一瞬の前に、極めて高度な読み合いが繰り広げられるのだ。　28

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周囲の女子高生たちは皆、固唾を飲んでそれを見守った。天頂から照りつける狂った太陽と、ニンジャの睨み合いがもたらすカラテ激突が、周囲の大気を蜃気楼めいて歪ませる。凄まじい熱が二人のニンジャの周囲に放散される。いまやヤモトの足元には、滴った汗が影のように円形に広がっていた。　29

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その睨み合いは、開始から３分近くにも達そうとしていた。採石場の女子高生十数名が、著しい精神的疲労により、わけも分からぬまま、熱射病めいてその場に倒れた。まるでショーギ名人戦だ。ニンジャ同士の息も詰まるような読み合いを前に、女子高生たちは精神的緊張の限界を迎え始めていたのだ。　30

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「アイエエエ……」テマリもついに眩暈を覚え始めた。ヤモトは本当に勝てるのだろうか。ニンジャの放つレーザー光線はヤモトを貫き、自分にも命中するかもしれない。……すると、恐怖が、突然鎌首をもたげた。ニューロンの奥で、あの金髪女子高生が原子分解した時の光景がソーマト・リコールした。　31

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「動かないで、アタイを信じて」ヤモトが背を向けたまま、テマリに小さく告げた。「アタイは君を信じる。そして絶対にみんなを助け出す。アタイは、ニンジャだから」「……ハイ」テマリは意を決した。座ったまま両手を組んで目を閉じ、ブッダに祈った。　32

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少しでも動けば、ニンジャは自分を狙ってレーザーを放つかもしれない。そうなれば、ヤモトのカラテを乱してしまう。こんな所まできてヤモトの足を引っ張りたくはない。……テマリはヤモトの勝利を信じた。それがいま自分にできる最大限の抵抗であると。　33

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荒野に、乾いた風が吹く。　34

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直後。ヤモトとテマリを一直線に貫く無慈悲なる軌跡で、エヴァポレイターの目から眩いレーザー光線が発射された。周囲の大気を焼き焦がし、歪めながら。レーザーは光の速度でヤモトに迫った。だが一瞬早く、ヤモトは鞘を握る左手親指で鍔を強く押すように弾き、同時に、鞘を左手で後方に引いていた。35

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それは右手の抜刀に４倍のカラテとなって伝わった。……タイノサキ。それは相手の動きを読むことだ。機先を制することだ。峻厳なる桜色の光とともに、爆発的にカタナが抜き放たれる……！そのほんの一瞬……イアイが最も高まりを見せる瞬間！「イヤーッ！」その刀身はレーザー光線をも弾き返す！！　36

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「グワーッ！？」ジュン！弾き返されたレーザー光線はエヴァポレイターを直撃！その頭部を一瞬にして原子分解せしめた！……頭を失ったニンジャはしばらく見張り塔の上に立ったまま、風に吹かれる案山子めいてグラグラと揺れた。「サヨ……ナラ……！」断末魔の悲鳴が遅れてエコーした。　37

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首無しニンジャは見張り塔から真っ逆さまに落下し、空中で木っ端微塵に爆発四散した。「ア……アア……」テマリは目を見開き、ガクガクと身震いしながら、ニンジャが爆発四散するのを、サイバネアイの奥底に焼き付けていた。　38

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「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……」ヤモトは極度の精神集中から解放され、その場で片膝をついた。採石場の女子高生たちは呆気にとられていた。荒野を再び、サツバツたる風が吹き抜けた。　39

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「やった……今度こそ……」テマリは、己の足元に刻みつけられたXの印を見つめた。それは昨日ヤモトが刻んだ目印に他ならなかった。そう、この勝利は、無謀と蛮勇と偶然がもたらしたものではない。三角関数である。テマリの脳裏には、４日目の夜に行われたヤモトとの作戦会議が去来し始めた……。　40

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…（でももし、オリガミ・ミサイルが破られたら？）（二段構えで行こう。最後の手段は、レーザーを弾き返すこと。でも物凄く危険だ。敵は必ず見張り塔からレーザーを発射する。そしてアタイの抜刀のベストな角度は決まっている。そのための最適な立ち位置に、相手の視線を誘導さえできれば……）…　42

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…（待って、計算できるかも）（距離を……計算で？）（そう、三角関数だよ……！ニンジャのいる見張り塔の頂点と基点、そしてヤモト＝サンが立つ迎撃地点を直角三角形ABCとみなせば……！最適な抜刀角度 θをもとに、基点から迎撃地点までの距離すなわちadjacentをきっと割り出せるよ……！）…　43

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…テマリは高校でセンタ試験のために習った数学公式を思い出し、計算を行った。凡そ日常生活においてなんの役にも立たないと思っていた三角関数が、見張り塔のニンジャが放つレーザーに対する最適な抜刀位置を割り出すために用いられようとは。…　44

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…そして６日目の日中。屋外労働時間中にテマリのサイバネアイから密かに発せられた狙撃用赤外線ターゲッターが三角関数に必要な全ての測量を終え、その計算を信じたヤモトが、この地点の岩にＸ印を刻んでいたのだ。この二段構えの作戦が功を奏し、いま、ヤモトはニンジャを倒したのである。…　45

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