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フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
洞穴には全くそぐわぬ幻聴が、騎士の意識を奈落より惨状へと引き戻した。鎧に包まれた四肢に感覚はない。ひしゃげ歪んだ兜の隙間から、ホブゴブリンの足が見える。目を閉じてもいないのに、左半分の視界がない。頭ごとやられたな、と残った赤黒い視界の中悟った。 １３１ #GBSLSaga
2018-11-11 00:06:28
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
骰子が振られる。潰れた瞳に幻覚が映る。机を囲む人々。骰子の目。悲鳴とともに机に突っ伏す誰か。酷く遠く、和やかな灯りの中で、顔も知らぬ誰かが顔を見合せて唸り声を上げていた。骰子が振られる。意識が戻る。最早動かぬ体を、小鬼が２、３度と打ち据えるのを感じた。 １３２ #GBSLSaga
2018-11-11 00:10:28
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
ホブが一歩を踏み出すのが見える。小鬼が体の上から離れるのを感じる。「…あ」彼の仲間の幽かな声が耳に届いた。赤黒く脈打つ頭が、次に起こる事実を脳裏に映し出す。今の彼女に、ゴブリン二匹とホブを捌く力はないだろう。その向かう先は、死だ。―彼と同じく。 １３３ #GBSLSaga
2018-11-11 00:14:07
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
改めて己の運命に目を向けた彼の意識が、真なる闇へと沈んでいく。昏い赤に汚れた脳裏に、彼の歩みが過ぎっては消えた。一体どこで間違えたのか。郷里の風景が過ぎる。故郷を出たことか。父の姿が過ぎる。彼に憧れたことか。ギルドの受付が過ぎる。冒険者になったことか。 １３４ #GBSLSaga
2018-11-11 00:19:39
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
森と洞穴が過ぎる。小鬼のトーテムが過ぎる。この冒険に挑んだことが間違いだったのか？戦士が、神官が、術士が、狩人が過ぎる。彼らと組んだことが間違いだったのか？そして、弾ける弓弦。 １３５ #GBSLSaga
2018-11-11 00:23:57
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
彼の意識は、確信とともに浮上した。―そうだ、俺は死ぬ。次に意識を失えば、二度と目覚めることは無いだろう。薬では治るまい。術も間に合わない。俺は死ぬ。どうしようもなく、死ぬ。はじめての冒険で斃れるという運命を、少年騎士は決意を持って受け止めた。 １３８ #GBSLSaga
2018-11-11 00:37:06
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
彼は祈った。己の運命を覆すためでなく、ただこの一時で何かを為すために祈った。なぜ、を考えて死ぬのは、嫌だ。何かのために死にたい。同じ冒険に挑んだ仲間が生きている。せめて、彼らのために、もう一度、何か。彼は祈り、目を瞑り、そして、見た。 １３９ #GBSLSaga
2018-11-11 00:41:05
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
遊技盤を取り巻き、駒を並べ、顔を合わせて悩んでいた見も知らぬ人々。それが、骰子を手にして、皆一様に祈っている。潰れた彼の目の中に見えた幻覚は、ある種滑稽にも映った。祈ったところで、骰子の目は変わりはしないのに。 １４１ #GBSLSaga
2018-11-11 00:49:07
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
それでも、彼らは祈っていた。ああ、と騎士の顔が笑みに崩れる。彼らもまた、俺のために祈っているのだ。死を目前にして得たその天啓は、なぜだか涙が出るほどに温かく彼の身体に染みた。俺達のために祈っている者が、いるのだ！ １４２ #GBSLSaga
2018-11-11 00:51:58
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
彼は目を見開いた。骰子が振られる。棒切れとしか思えぬ四肢を張って立ち上がる。骰子が振られる。震える手が予備の短剣を抜き放つ。骰子が振られる。どこを動かしているのかも定かでない足でホブゴブリンの背ににじり寄る。骰子が振られる。まだ奴には気づかれていない―― １４４ #GBSLSaga
2018-11-11 00:58:02
フルバーニアン木馬
@fbwbxksb4awhxu
「お、い」声を出すと、喉の奥で血がごぼりと音を立てた。短剣を握る手を振り上げる。骰子が振られる。ホブゴブリンは振り返り、驚愕に目を見開いた。骰子が振られる。銀光が目に吸い込まれ、ホブが絶叫を上げる。騎士は最後に、告げるべき言葉を探した。 １４５ #GBSLSaga
2018-11-11 01:00:06