カーテン・フォールズ・オン・ア・ナイト・テイル #4

フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

～鬼卍殺～

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少年騎士と女狩人が弓に矢をつがえ、腰を浮かせた。皮兜の据わりと盾の握りを確かめた斧戦士が頷く。やや青ざめた顔で何事か口中で呟く赤毛術士に、槌の柄に刻まれた聖印を改めていた禿頭神官が笑いかけた。 １０３　#GBSLSaga

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状況は確認した。策も練った。天運を祈りもした。全て上手く行けばよし、最初に術を仕損じれば通路まで交代する。武運つたなく前衛が二人とも斃れたならば、神官を殿に撤退しギルドに後詰めを頼む。それが最悪の場合の取り決めであった。後は挑むだけだ。　１０４　#GBSLSaga

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騎士が頷き、赤毛術士が手にした松明を放った。転がる灯明のその逆側に、盾を構え身を屈めた神官が飛び込む。松明に、ついで自らに注がれる視線（巨体が２つ、巫占が１つ！）にうへえ、と頬を引き攣らせながら、禿頭神官は己の奉ずる武神への嘆願を行った。　１０５　#GBSLSaga

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『北方におわす厳しき四天の王よ！我等に光明を授け給え！』降魔調伏の名も高き武神への嘆願は過たず功を奏し、太陽かと見紛う閃光が洞穴に満ちた。目を覆う小鬼の数はおよそ２０。開けた吹き溜まりの中ほどに、陵辱の痕も痛々しい娘が倒れていた。　１０６　#GBSLSaga

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「おおォっ！！！」斧戦士が突撃する。常人より二回り程も大きな巨躯の全力疾走は、暴走する野牛めいて剣呑であった。身を竦ませた小鬼が一匹、邪魔とばかりに盾で横殴りに薙ぎ払われる。岩壁に叩きつけられ絶命する小鬼をよそに、二秒もせずに斧戦士は娘の下に辿り着いた。　１０７　#GBSLSaga

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小鬼の巫占と用心棒が、一拍遅れて乱入者に向き直った。女を庇うように動きを止めた人間は、彼らにとって無視し難い脅威であると同時に、孤立した狙いやすい獲物でもある。用心棒が舌なめずりをしながら歩を進め、シャーマンの手に握られた樫の枝に、魔術の光が灯った。　１０８　#GBSLSaga

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そして杖を掲げた小鬼を、二本の矢が貫いた。一本は胸に、一本は喉に。戦士の突進に合わせて入り口に滑り込んでいた、少年騎士と女狩人の仕業である。続いて剣を抜き放ち、騎士がホブゴブリンの一体に向かう。敵は見上げる程に大きかったが、その足取りに震えは無かった。　１０９　#GBSLSaga

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身の程知らずを嘲り、耳障りな声を上げる用心棒の一匹に、赤毛術士がその指を差し向ける。『戦具を鎧いし猛き雄牛の、その口より出ずる嘶きを聞け！』かつて巨人が闊歩した野蛮な大地に伝わる、太古のまじないの一つが解き放たれる。『《死の雷音》（ザップ）！！！』　１１０　#GBSLSaga

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妖術の效果は覿面に現れた。女術士の小さな手の先に眩い稲光が生まれ、巨躯の鬼に向かって殺到する。神秘の雷は術士の二倍はあろうかというホブゴブリンを吹き飛ばし、小鬼の数体を巻き込んで岩壁に叩きつけた。犠牲者は黒々と身を焦がし、生身の焼ける異臭を残して息絶える。　１１１　#GBSLSaga

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「…すっげェな！」術士の前で小鬼を遮っていた禿頭神官が快哉を叫んだ。攫われた女性の前に立つ斧戦士にはまだ余裕があり、女狩人は薄明りの中、慌てて弓を手にした小鬼を見逃さず射抜いている。騎士は巨躯の用心棒と刃を合わせ、押されながらも一撃をその盾で凌いでいた。　１１２　#GBSLSaga

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後衛に立つ術士には、残ったホブゴブリンの陰から小鬼が三体攻め寄せようとしているのが見えていた。《死の雷音》では遮られる可能性がある。まとめて吹き飛ばせる術が望ましい。脳裏に浮かぶ真言から、適した術を必死に手繰りよせる。今掴むべきは、火球の呪言だ。　１１３　#GBSLSaga

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赤毛術士は大きく両手を差し上げ、まじないのために意識を集中した。『地獄の柵にて見つめる眼（まなこ）、そは罪人を灼く焔の印！』空を舐めるように火の舌が姿を表す。小さな火種が岩ほどにも育ったその時、女術士の視界に見えてはいけない姿が映った。　１１４　#GBSLSaga

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ゴブリンシャーマンが、杖を掲げている。矢の刺さっていた首元に、得体のしれぬ銀盤の鈍い輝きが見えた。呪物（チャーム）と思しきそれが、偶然刺さる矢が致命傷に至るのを阻止していたのだろう。魔術の剣呑な輝きが、捻じくれた樫の枝の先端に灯りつつあった。　１１５　#GBSLSaga

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狩人に視線を走らせる。彼女は先程小鬼の弓手に矢を放ったばかりで、ニの矢の準備はまだだ。騎士も戦士も神官も、眼の前の敵から注意を反らす余裕はない。詠唱を止めて警告すれば、この魔術は霧散する。赤毛術士は決断した。『《煉獄の火球》（ホット）！！！』　１１６　#GBSLSaga

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悲鳴の様な叫びとともに放たれた業火の礫は、狙い過たず小鬼の呪術師を飲み込み、その矮躯を炭と焼いた。シャーマンの紡いだ雷の呪いが、不満を漏らすようにバチバチと唸って宙に解ける。熱風が洞穴の広間を撫ぜた。　１１７　#GBSLSaga

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「ごめん…！もう使えない…！」殆ど泣き声の様な叫びを赤毛術士が上げる。敵の呪術師は倒れたが、未だ一体のホブゴブリンは健在のまま。「いや、仕方ない！一旦立て直してなんとか…！」用心棒の斧を凌ぐ騎士の側背に、小鬼が二匹、忍び寄る。　　１１８　#GBSLSaga

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「おま、えっ……！」女狩人が矢をつがえた。視界の隅では、三体の小鬼を相手に斧戦士が圧倒している。術こそ切れたが、暫く騎士が保てば大物を彼と挟撃出来る。故に、騎士の背を襲う小鬼に狙いをつけ、弓弦を引き絞り――　１１９　#GBSLSaga

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ぶつん、と。破滅をもたらす音が聞こえた。　１２０　#GBSLSaga

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卍　カーテン・フォールズ・オン・ア・ナイト・テイル＃４　中断　卍　#GBSLSaga

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～鬼卍殺～

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女狩人は、信じられないものを見る目で千切れた弓弦を見つめていた。なぜ、よりによって、今、ここで。視線を前に投じれば、彼女が討ち果たす筈であった小鬼が、少年騎士の背に飛びつくのが見える。世界が、悪い夢のようにゆっくりと流れるのを感じた。　１２１　#GBSLSaga

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小鬼に飛びかかられた少年騎士が、続けてホブゴブリンの一撃を受ける。盾と斧が真っ向からぶつかる鈍い音が響いた。打たれた騎士がたたらを踏み、盾を持つ手が下がる。左右にはもう一匹ずつ、別の小鬼が迫っている。死神の嗤う声が聞こえた。　１２２　#GBSLSaga

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「逃げて！」悲痛な叫びとともに、女狩人は袖口より掬いだした短刀を抜き打ちに放った。投じられた刃は騎士の背に張り付いたゴブリンの喉を貫き、だがそこまでだった。五体無事な二匹が騎士の足にそれぞれ取り付き、死地へと彼を縛り付ける。　１２３　#GBSLSaga

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奥では戦士が三匹の小鬼にまとわり付かれている。赤毛術士と禿頭神官が走り出すが、遠い。ホブゴブリンが致命の斧を振りかぶる。誰かがもう一度、逃げろ、と叫び声を上げた。騎士は身じろぎして、果たせず。最後に彼は、誰にも聞こえぬ声で何かに詫びた。　１２４　#GBSLSaga