#ダークエルフ王国見聞録　その４ ～ゴブリン退治～

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ある日、族長に急報がもたらされた。東の里にて、夜警をしていた恐狼が朝に頭骨をかみ砕かれたゴブリンの死体を引きずりながらその里の獣使いに持ってきた。最近では里の近くでゴブリンの群れを見たという話はなかったが、何処かから流れてきた群れがあったのであろうか。 #ダークエルフ王国見聞録

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流れ者らしきゴブリンが現れたとの報告を受け、族長は東の里に小鬼の居場所を突き止めるように下知すると共に、氏族の各里に警戒するように伝える。個々の戦闘能力でダークエルフに劣るとはいえ、狡猾で好戦的なゴブリンは決して軽視できる脅威ではないのである。 #ダークエルフ王国見聞録

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ゴブリン達が小さな集団である場合には発見した個別の里で、大きな集団である場合には複数の里から兵が集められ、討伐隊が編成される。各氏族の領内での軍事・警察権は族長が有しており、王都に報告を上げ承諾を受けつつも、領内でのゴブリンの討伐は族長の管理下で行われる #ダークエルフ王国見聞録

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ここでゴブリン達について述べておこう。時折、人間やエルフ、そしてダークエルフの国に出現するゴブリン達は、はるか北西の瘴気に覆われた山岳地帯にあるといわれるゴブリンの王が治める地下王国から流れてきた個体群であることが多い。 #ダークエルフ王国見聞録

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かの地ではゴブリン王のもと、少数の女性個体と大多数の男性個体のゴブリン達が国家を形成しているが、繁殖力の強さの反面、生産性の低い土地故に多数の男性ゴブリンは余剰人口として国から追われることになる。そういった者たちが集団を形成し、他の種族の国に流れ着く #ダークエルフ王国見聞録

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ゴブリンの王国では、鍛冶や工芸など、他種族からすれば幾分原始的なレベルではあっても、様々な生産活動にも従事するし、種族内での繁殖を営む一方、他の種族の国においては、彼らはもっぱら農作物や財貨の収奪に勤しみ、他種族の女性を捕えて苗床として繁殖する #ダークエルフ王国見聞録

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「目前に果実があるのであればそれを喰らい、わざわざ種から果樹を育てることをしない」といのが、流れ者集団となったゴブリン達を語るに相応しい表現であろう。もちろん、彼らが流れ着いた先の土地にとっては迷惑この上ない習性である #ダークエルフ王国見聞録

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とはいえ、人間の子供程度の大きさしかない彼らは、戦闘能力がそれ程高いわけではなく、内戦下にある国家などではその混乱に乗じて勢力を好き放題に拡大させる一方、ダークエルフ王国のように強大な軍事力と安定した社会体制を有する国家では安定した勢力を築くことはない #ダークエルフ王国見聞録

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今回の東の里におけるゴブリン発見の件も、稀にある注意すべき、しかして注意して対応すれば大事とはならない災害として処理される筈ではあったのだが、問題は恐狼が引きずってきたゴブリンの亡骸が持っていたボロボロの剣であった。 #ダークエルフ王国見聞録

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ゴブリンの無骨な手に似合わぬその剣は、いくらか壊れかけつつあるとはいえ、丁寧な装飾が施されたものであり、明らかに人間の国の正規兵、それも騎士階級にあるような者が持つような代物であった。目下、王国が休戦中の西方の諸侯国家のものである可能性が高い #ダークエルフ王国見聞録

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人間の正規軍が編成した討伐隊がゴブリン相手に負けるということは考えられないが、そもそも傭兵や冒険者を用いての討伐隊ではなく正規兵が出張らなければならないほどの規模の集団、しかも討伐達に一定の損害を与えて逃げおおせた集団が流れ着いたということになる #ダークエルフ王国見聞録

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また、この集団を下手に処理すると、捕えられた人間が存在し、かつ討伐の巻き添えになって死んだ場合、諸侯国家の正規兵の所有物をダークエルフ側が接収したり処分したりした場合、ただでさえきな臭い諸侯国家との西方の戦線で一気に戦火が再燃する可能性が考えられた #ダークエルフ王国見聞録

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族長はこの懸念について王都からの指示を仰ぎつつ、被害が出る前の討伐を決断し、各里から兵を動員し、旗下の将を名代として派遣することとした。そして、先日の納税の集まりの際に西の里から来た人間、つまり私を思い出し、ゴブリン達の装備等を検分させることを思い付いた #ダークエルフ王国見聞録

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学士として生きてきた私は剣を振るったこともなければ、呪術も使えないが、とにかく人間であればゴブリン達の持っている装備から何処から流れてきたかの推測に役立つであろうし、捕えられた人間が居た場合に対応させることも可能だろうと氏族の首脳部は考えたようである。 #ダークエルフ王国見聞録

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そのような訳で、愛用の長剣を背負い馬に乗った女戦士や恐狼を引き連れた女獣使い、何やら沢山の薬瓶を詰め込んだ背嚢を背負った小柄な女薬師、荷物運びの馬達を任された兄弟の少年など10名ほどの里の一向と共に、私は東の里へと向かうことになったのである #ダークエルフ王国見聞録

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我々の里の一行が東の里がある山裾に着くことには既に日も落ちていた。近隣にある同じ氏族の里５つ程からそれぞれ１０名程度の兵が集まり、史族長の旗下からは今回の討伐隊の長を務める将と精鋭の兵が１０名ほど、当事者である東の里は３０名ほどの兵を出すそうである #ダークエルフ王国見聞録

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討伐隊の出発は明日朝に氏族長の町からの一行と合流してからということになり、東の里の各戸が他の里から来た者のために寝床を用意してくれていたので私と女戦士、女薬師は同じ民家に宿泊することになった。 「あら、ニンゲンのセンセイとやらですわ、おひさしぶりです」 #ダークエルフ王国見聞録

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そう話しかけてきたのは、税を納めに行った際族長の館で開かれた酒宴に同席していた女剣士であった。長い黒髪を頭の左右で結び、半月刀と呼ばれる細身の曲刀を二振り越しに下げていた。 「センセイはゴブリンにもお詳しいのですか？お仕事熱心でいらっしゃる」 #ダークエルフ王国見聞録

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けらけらと悪戯っぽく笑う女剣士 「狭いところですが、皆様どうぞごゆるりと。センセイはこちらで学問のお話などして下さるかしら。私、王都の大学で学問を修めたこともあるのですよ」 勝ち気な表情に更に自信を増しながら女剣士は囲炉裏の傍に誘う #ダークエルフ王国見聞録

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「学問自慢は結構だが、戦場でそれがどの程度役に立つものか、見ものであるな」 「まぁ、このセンセイはその知識で族長様から召喚されたのでしょう？やはり学問は役に立つのですわ」 銀髪の女戦士と黒髪の女剣士が鋭い目で睨み合う。 #ダークエルフ王国見聞録

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羽毛の布団と毛皮に包まりながら板敷の間で夜を明かした我々は、翌朝に里の広間に集まる。それぞれに装備を携えた兵達と、年少者を中心とした小荷駄の集まり、そして氏族の軍旗を掲げた騎兵の一団が広間に見える。昨晩遅くにでも氏族長旗下の部隊は里に着いていたようである #ダークエルフ王国見聞録

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細やかな刺繍と貴金属の装飾が施された白いビキニアーマーを着用し、臼井紫の髪を三つ編みにして団子にまとめた女ダークエルフが集まった者達に声をかける 「こたびは各里よりのご参集ありがたい。今回のゴブリン討伐の指揮は族長様に代わり私が勤める。よろしく頼むぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

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ゴブリン達の住みついた洞窟は既に東の里の獣使いによって特定されているらしく、簡単な軍議が代表者たちで行われた後、一行は南にある山岳へと出発する。森の中や山岳におけるダークエルフ達の行軍速度は速く、人間の私は付いていくのが精いっぱいといったところだ。 #ダークエルフ王国見聞録

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最近ようやく懐いてくれた若い雄の恐狼に今回も先導されながら歩く私を、荷駄を引く紫髪の少年がからかい、弟の長い銀髪の少年がいさめる 「相変わらず歩くのが遅いな、旦那は」 「・・・やめなよ、兄さん、可哀そうだし」 そんな中、将の女ダークエルフが近づいてくる #ダークエルフ王国見聞録

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「族長様の命である故同行させているが、人間風情がダークエルフの戦列に加わること、もったいなく思えよ、学士殿」 馬上から刺すような瞳でこちらを睨みつけるダークエルフの女将軍。 後方では兄弟の少年が「やれやれ、また始まった」といった表情をしている #ダークエルフ王国見聞録