#ダークエルフ王国見聞録 その1

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) 付録 続きを読む
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

NHK『小さな旅』、本日はダークエルフ王国西の森にある森ダークエルフの里を訪ねます(BGM「光と風の四季」)

2016-08-31 01:09:58
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「旦那ぁ、お待ちかねの客人ですぜ」 すっかり見飽きた顔の宿屋兼酒場の主人が、“言った通りだろう”と言いたげな顔で晩酌中の私に呼びかけ、酒場の入り口の方を指差した。 その指の先には二人の少年。彼らの肌は艶かかな褐色であり、その耳は長く尖っていた。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:03:40
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「国境近くの宿場に彼らが商売に度々訪れるそうだ」 目的地への案内人や安全な旅道が存在しないことを知り、途方に暮れていた私は、行商人から聞いた不確かな情報に頼るしか道はなかった。 その道は文化人類学未踏の地、“ダークエルフ王国”を目指すものである #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:04:35
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ダークエルフ王国へつながる唯一の狭い平野部は、目下隣国との国境紛争により一般人は立ち入ることはできず、王国を囲むように存在する深い森と高い山々は人間の立ち入りを拒むものであった。 もはや彼ら自身に案内人になって貰うしか、入国の術が無かったのである。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:09:19
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

場当たり的な決断ではあるものの、“黒き森の縁に寝る長蛇”街道にある国境の宿場町に到着し、旅籠に入った私は宿の主人に「ダークエルフが商いに来る店はありますか?」と尋ねた。 「はぁ、見たことはありますが、旦那は一体なんでそんなことをお聞きになるんで?」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:11:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

徴税請負人や異端審問官と勘違いされ、警戒されては私も困る。斯様な理由でダークエルフと接点を作りたいのだと説明すると、学術的な観点はともかく害意はないことを主人は理解してくれたらしい。 「それなら、うちの店に来まさぁ、旦那。ちょうどそろそろ来る時期ですよ」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:16:41
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

そのやりとりから10日程が過ぎ、主人の提供する夕飯のレパートリーが一回りしたあたりから、長期宿泊の金蔓にするために騙されたのでは?とも勘ぐっていたが、宿の主人は第一印象の通りに正直な人であったらしい。 二人のダークエルフの少年が私の目前に現れたのである。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:18:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

商う品を入れてあろう荷物を背負った二人のダークエルフは、片方は長い銀髪を後ろでまとめ涼やかな瞳をしており、片方は肩までの紫髪で快活そうな表情をした美少年であった。 「ワタシノ コトバ ワカリマスカ?」 緊張しつつ、標準エルフ語で私は彼らに問いかけた。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:22:07
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ははは、そんな片言で“分かりますか?”とか言われてもねぇ!」 「・・・兄さん、失礼ですよ」 紫髪の少年を銀髪の少年がたしなめている。どうやら、紫髪の方が年長であるようだ。エルフ系の年齢は外見から識別しにくい。おそらく彼らの方が私よりも年上なのであろう #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:27:41
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

二人は幼い少年の様に見え、実際無邪気さを感じさせる雰囲気をまとっているが、わざわざ人間の土地まで訪れ商売をするだけあって、人語は流暢であり、また他人を鑑定する目端の利く利発さを感じさせた。 ただの学士である私に彼らを説得することは出来るのであろうか? #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 21:28:51
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

交渉はともかく商いの後で、ということになり、ダークエルフの少年二人は背負っていた荷を解き、宿屋の主人に鱒の燻製や蜂蜜に付けた胡桃などの食品を示して値段交渉をしていた。宿屋の主人も応対に手慣れたものであり、その様子は国境越えの商いの常態化を物語っていた。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 22:31:02
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

一通り商いを終えたダークエルフの少年達は私の方を振り返る。 「つまり、学者の旦那は僕たちの国に入りたいのかい?物好きだねェ」 「・・・兄さん、他に回るところもあるし、そろそろお暇しようよ」 「まぁ、いいじゃんか、こんなこと数十年ぶりだぜ?」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 22:32:11
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

どうやら紫髪の少年の方は強い好奇心があるようだ。フィールドワークでは、ともかく会話を成立できる相手から橋頭堡を築いていくことが必要である。私は彼に対し、是非ともダークエルフ王国に入りたいこと、敵意は無く純粋に様々なことを見聞したいのだと訴えた #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 22:37:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

快活な会話ぶりを示している兄である紫髪の少年であるが、その目はこちらを見定める冷徹さを湛えていた。無理もない。近年取締により減少したとはいえ、横行するダークエルフ奴隷狩りや紛争中である隣国の間諜の危険性を考慮しているのであろう。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 22:38:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ははは、いいんじゃないか、村に招待しても。この物好きの旦那に間諜をする程の肝があるとは思えないよ」 カラカラと笑う紫髪の兄に対し、長い銀髪の弟は苦い顔をする。 「・・・僕らが決めていいことじゃないよ、兄さん。村長達に聞いてみないと」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 22:39:24
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らと早急に交渉を進めても集落で追い返されては意味がない。私は学術的な目的で村落を訪問したいことをしたためた文と好意の証しである進物の葡萄酒を二人の少年に預け、村長達の返事を待つこととした。 またしばらく宿屋の主人の夕飯を食べることになりそうである。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 22:40:23
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

さて、ダークエルフの里からの返答は意外に早くやってきた。既に主人の限りあるレパートリー2周目に入った宿屋の夕飯を食べていた私の前に、先日会った二人のダークエルフの少年が現れたのである。 「どうやら大真面目に里へ来たいようだね、ニンゲンの旦那!」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 23:38:56
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「村長達は旦那の訪問を受け入れるそうだよ。細かいことは大人達に聞いて欲しいな。おっと、僕がちゃんと口添えしたことを忘れないでね!」 「・・・兄さん、そんな明け透けに」 弟の方は警戒する様な表情でこちらを見やるが、ともあれ彼と交渉したことは正解であった。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 23:39:43
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ダークエルフ達が人間の文化人類学に興味があるとは思えないし、進物に心が揺らぐ程単純な者達であるとも考え難い。彼らが私の受け入れを決めた理由はまだ理解できないが、ともかく、彼らが案内人となって深い森の先にある彼らの集落へと向かうことが出来るのである。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 23:41:01
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

既に夜半であったが、ダークエルフの少年達はこの宿場には泊まらないと言う。やはり人間を警戒しているのであろうか。彼らとは明朝に宿場町のはずれにある古い祠で合流することとなった。それなりに長い旅程となるであろう。私は旅支度を改めて整え、床に入った。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-02 23:41:56
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

翌朝、旅支度を終えた私を宿の主人が見送りに来る。 「旦那ぁ、あのダークエルフの兄弟は良いヤツらですが、連中の土地に行くなんて、どうなることか。あっしは心配ですぜ…」 彼の豪快な風貌に見合わぬ優しさに感謝し、再びこの宿に来る旨を伝え、町はずれへと向かった #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-04 00:21:16
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

宿場町のはずれ、街道から少し離れた山腹にある古い祠は、苔むした石が並び、周囲は森で囲まれていた。近くを流れるであろう沢からは水音とミソサザイの健気な鳴き声が響いてくる。 「おっ、ようやくご到着かい」 紫髪の少年の声が祠に付いたばかりの私を上から出迎える #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-04 00:26:27
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

声の方向を仰ぎ見ようとすると、目前にダークエルフの兄弟がネコ科の動物のようにしなやかな動きで着地し、私は驚かされた。 どうやら彼らは木の上で寝ていたのであろう、身を隠すために緑の濃淡を複雑に編み込んだ天蚕糸の大きな布を頭からすっぽりと被っていた #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-04 00:30:37
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「へへっ、驚いたかい、ニンゲンのおじさん?」 「・・・おはようございます」 観れば彼らも脚絆と手甲を付け、護身用であろう短弓と短刀を携え、すっかり旅支度を整えている。彼らは夜の眷属という印象があったため、早朝から活動しているのは私にとって意外であった。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-09-04 00:45:54

引用
ファンタジー城郭研究 「ダークエルフの城」