#ダークエルフ王国見聞録　その１１

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

衛兵に案内されて再びしばらく城内を移動すると、両脇に斧槍を構えた近衛の兵が控える大きな扉の前へと至った。薄い紫の入った赤褐色の紫檀が美しい光沢を出す重厚な扉は、その杢目を活かした様々な文様が描かれていた。重厚な音を奏でながら、兵によって扉が開けられる #ダークエルフ王国見聞録

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部屋へ入るように促され、セラと共に扉から入ると、そこは一際天井が高く、また一際密に魔術の灯火が照らし出す空間であり、床には錦糸の縁取りが為された緋色の毛氈が敷かれ、天井からは鷲獅子の紋章が織り込まれた紫色の懸垂幕が何枚も下りている。ここが謁見の間であった #ダークエルフ王国見聞録

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緋色の毛氈が伸びる先には、二段ばかり高い位置に玉座と思しき椅子があり、その手前、一団高い中段には、先程分かれたばかりの近衛騎士団の副長・フェルレーオが立っていた。彼女は装飾の施された鞘に収まった大剣の先を床に着け、その柄頭に両手を置いて勇ましく構えている #ダークエルフ王国見聞録

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両脇を見やれば、貴族の延臣達であろうか、これまで見てきた役人や将官たちよりも立派な身なりをしたダークエルフの男女が並んでいる。珍しいと思われる人間の客人を見ようと、女官や魔道兵、近衛の騎士なども集まったらしく、廷臣達の後方に様々な服装の者が位置している #ダークエルフ王国見聞録

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玉座は、一見すると背凭れと肘掛のある質素な籐椅子のようにも見えるが、鈍く金色の輝きを放っている。後に聞くところによれば、それは太古の植物の化石に魔力の地脈が当り、金や銀といった貴金属が沈着したものを組み上げ、古竜の皮を貼ったこの世に二つとない椅子である #ダークエルフ王国見聞録

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或いは好奇の、或いは幾許かの敵意を含んだ多数の視線の中、玉座を前にして佇んでいると、ここまで付いてきてくれた近衛の兵士がそろそろ女王がいらっしゃるので首を垂れ、跪く様に伝えてくる。セラと共にその言に従い、近くなった床の緋色の毛氈から隣のセラへと視線を移す #ダークエルフ王国見聞録

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セラもこちらの方を向いており、元・近衛ということもあって私よりも馴れているが国主による謁見ということもあって緊張の面持ちである。視線が合うと、大丈夫だという風に優しい笑みを浮かべてくれた。おかげで私の緊張もいささか治まったようである #ダークエルフ王国見聞録

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女王の入室を告げる近衛兵の先触れの声が広間に響くと、横に並んでいる廷臣達は威儀を正し、壇上の玉座に向かって首を垂れる。下を向く私の耳には、仰々しい楽器の音などは聞こえず、涼やかな鈴が振り鳴らされる音とカツカツという数人分の靴音が次第に近づくのが聞こえた #ダークエルフ王国見聞録

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靴音が止み、一瞬の静寂を迎えた部屋に、少女の様に瑞々しく透明でありながら、娼婦の様な艶を帯び、老女の様な落ち着きを備えた声が穏やかかつはっきりと響く。 「遠路はるばるご苦労。“山を覆う翼の熊鷹”の剣士パーンセラ、そして人間の学士よ。頭を上げるがよい」 #ダークエルフ王国見聞録

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声の方を見やると、侍従を控えさせて玉座に一人のダークエルフの女性が座っている。腰まではあろう長い黒髪と切れ長の目に輝く金色の瞳を持つ彼女は、一種の威厳を備えた美しさを誇っており、美男美女の多いダークエルフの中でも一際の美貌の持ち主と言えた。 #ダークエルフ王国見聞録

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スリットの深く入った長いスカートや絹の黒手袋が除くゆったりとした袖は鮮やかな紫色で、豊かな胸やくびれた腰の輪郭をうかがわせる薄布の着物は、襟を秋沙のビロードのような羽で飾り、袖よりも濃く黒に近い紫色であった。額には冠の赤色の宝玉が燃えるように輝いている #ダークエルフ王国見聞録

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紫の衣服には随所に王家の紋章やそれを支えるようなに配置された草木の文様が錦糸で縫いこまれているが、よく見てみれば、それらはダークエルフ王国に住まう全ての氏族の紋章を複雑に組み合わせたものであり、細やかで緻密に計算された意匠であった。 #ダークエルフ王国見聞録

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「余が黒の女神の血族にして、この国の国主、デネブリス8世である。短命者よ、先ずは名乗るがよい」 穏やかな表情でありながら何処か相手を視線で刺すような鋭い眼光を浴びせ、語りかけてくる。これがダークエルフ王国の女王との出会いであった #ダークエルフ王国見聞録

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セラによる氏族や里、家系に関する情報を連ねた若干長い名乗りを終え、私も出身国と学士としての身分を説明すると女王は兵部の長に、我々を召喚することに至った理由を説明するように指示する。左側の廷臣達の列から壮年のダークエルフ男性が神の束を携え歩み出てくる #ダークエルフ王国見聞録

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文官らしいゆったりとした所作と穏やかな声で語られた事情は、出立の前に里長や氏族長から聞かされた内容とほぼ同一であった。すなわち、“山を覆う翼の熊鷹”氏族領におけるゴブリン討伐の軍功二等は、氏族軍の将であるシェルローキなのかそれとも私であるかという点である #ダークエルフ王国見聞録

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「氏族領内での軍功については、本来我々王都から口を出す問題ではありません。“山を覆う翼の熊鷹”の氏族長殿の裁定は尊重致しますが、我々兵部としては、シェルローキ殿の評価について詳細を知りたいと思い、訴えに二等として推挙された貴殿の意見を知りたいのです」 #ダークエルフ王国見聞録

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そのように説明する兵部の長も、女王もシェルローキの王国軍への引き抜き問題には触れなかったが、氏族軍の魔導兵長であるザラムドラが里長に唆され、匿名でシェルローキの軍功について異論を挟んだ訴状を考慮にいれていたのは間違いないであろう。 #ダークエルフ王国見聞録

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これまで里長および氏族長の了解において氏族領内では活動が許されていた身であるが、彼らにとって基本的には敵対種族である私はこの王国において異物である。自身の保身を考えた場合、今回の私の功績を認めさせたい里長やそれを利用したい魔導兵長の意図は汲むべきであろう #ダークエルフ王国見聞録

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「このような事情であるが、ゴブリンどもの討伐に加わって活躍したそなたの目に、かの将を如何に映った？詳らかに述べるがよい」 女王から返答を促されながら、私は王都までの旅路で出会った女伍長や城代の副長の言葉を思い出していた #ダークエルフ王国見聞録

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先ず、私はダークエルフの軍勢が弓兵や魔導兵、薬師や竜騎士、そしてセラのような戦士という様々な兵科のものが連携して敵と戦う戦術に感嘆したことを説明した。これは私の素直な感想でもある。 「ふむ、余計な世辞などは要らぬが、続けよ」 #ダークエルフ王国見聞録

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それら様々な兵科の働きも素晴らしいが、それらを扇の要として指揮する将官が非常に重要であることを痛感したこと、シェルローキは氏族軍の将として十分な働きをしたこと、そして彼女は様々な兵科の諸兵によく慕われている優秀な将であると女王に申し述べた。 #ダークエルフ王国見聞録

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あの人間嫌いの将を何故擁護するのか？といった怪訝な表情で私を見る横のセラであるが、これは私なりの謀であった。 「ふむ、そうであったか。よくよく得心がいったぞ、人間の学士よ。シェルローキは此度の軍功に相応しい優秀な将であるのだな」 #ダークエルフ王国見聞録

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「いや、しかし、惜しい。そのように諸兵から慕われる優秀な将を王都で引き抜いては、熊鷹の氏族長に申し訳が立たぬ。なにぶん、国境もきな臭い昨今、南の国境を抑える熊鷹の氏族軍にはこれまで通りに精強であって欲しいからな。実に惜しい」 #ダークエルフ王国見聞録

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「なに、実はシェルローキを国軍に将として迎える話もあったのであるが、そなたの意見は実に参考になった。彼女には、氏族軍で、これまで通りによく軍務に励むよう奨励申し付けるのがよろしかろう。そのように差配するがよい、兵部の長よ」 #ダークエルフ王国見聞録

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女王の浮かべる意味ありげな笑みと、些かの異論も出さず“既に決まっていたこと”の様にシェルローキの褒賞について言上する兵部の長を見るに、やはり明確な異論が氏族内から訴状として出たことで、彼女の昇進については既に見送りの方針が暗に定まっていたのであろう #ダークエルフ王国見聞録