カーテン・フォールズ・オン・ア・ナイト・テイル #3

1
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

女狩人が手早く火を起こし、斧戦士が見張りに立った。赤毛術士はがっくりと肩を落として火の側でうずくまり、禿頭神官はその脇で何事か励ましている。小鬼の洞穴に満ちた、淀んだ空気を舐める焚火の炎を頼りに、 女狩人は弓弦の張りを確かめていた 62 #GBSLSaga

2018-10-20 00:58:52
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

ため息が漏れる。小鬼に突き刺さった矢は全て、中程から折れて使い物にならなくなっていた。弓持ちの小鬼の矢筒を改めても、中途半端に短い出来損ないばかりでものの役に立たない。運の悪さに加えて、小鬼の生死を確かめずに矢を拾いに行った先程の失態。 63 #GBSLSaga

2018-10-20 01:00:58
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「……最悪だわ」ひとりごちて弓弦を緩める。入り口で一回、洞穴で三回。合計四度しか引かれていない弓だが、今日に限って張りが甘い気がする。緩めて、張り直す。どうも気に食わない。もう一度、と思って、あまり弄るのは弦に悪いと遅れて思い至る。 64 #GBSLSaga

2018-10-20 01:03:47
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「…ああ、くそ」鬱屈が悪態となって口を突いて出た時、図ったように女狩人の脇に座る影があった。「大丈夫かい?」板金鎧に身を包んだ少年騎士である。後方の警戒を禿頭神官と交代した彼の顔には、相も変わらずの屈託のない笑みがある。 65 #GBSLSaga

2018-10-20 01:07:11
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「…別に、大したコトじゃ」「いや、そういう訳にはいかないだろう」顔を背ける女狩人に対して、少年騎士はあくまで真摯だった。「慣れない怪物のテリトリーで一党の先導をして貰っているんだ。僕らの中で一番負担が大きいのは、君だよ」 66 #GBSLSaga

2018-10-20 01:10:19
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「じゃあどうするってのよ。代わりにアンタが斥候やってくれるってワケ?」「そう出来たらいいんだけどね。目も耳も君の方が良いし、僕では鎧と兜が邪魔になる」眉根を立てた女狩人から視線を外すと、騎士は雑嚢から皮の小袋を取り出した。「代わりに、これを」 67 #GBSLSaga

2018-10-20 01:15:13
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「…何よ、これ」女狩人は袋の中身をしげしげと眺めた。小さな貝殻ほどの大きさの白い粒である。少年騎士が口に入れるよう身振りで示す。疑わしげな目でそれに従った女狩人の舌に、行水の後に受ける涼風めいた爽快な味わいが広がった。 68 #GBSLSaga

2018-10-20 01:19:05
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「なによこれ」女狩人が目を丸くする。「父の領地の名産でね。天草を煮出した汁と薬草を合わせたものだ。餞別に一袋貰ってきた」人好きのする笑みを浮かべて騎士が言う。「ギルドの強壮薬や、噂に聞くエルフの水薬ほどじゃないけどね。いくらか気分は変わるだろう? 69 #GBSLSaga

2018-10-20 01:23:17
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

ころころと薬草飴を口中に転がしながら、女狩人は問うた。「…アンタさ。何だって冒険者なんてやってるのよ。色々とソツも無いし、地元で十分暮らしていけるんじゃないの?」口に上る言葉の意味こそ棘があるものの、声の調子は気まずげに和らいでいる。70 #GBSLSaga

2018-10-20 01:29:48
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「…兄と姉が優秀でね。特に兄には、今まで何をやっても、およそ勝てると思えたためしがなかった」おおよそは穏やかな騎士の顔が、珍しく困ったように歪んだ。「武者修行だよ。明日がどうなるにせよ、何か成し遂げた自信を得てから故郷に帰りたい」71 #GBSLSaga

2018-10-20 01:33:26
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「剣は使える、弓は射てる、文字も読めるし口も達者」狩人は目を細めて指を折った。「十分な気がするけど」「どれもそこそこに過ぎないよ。小粒だ」少年騎士がかぶりをふる。「器用と言うには、何もかも今ひとつ足りていない」 72 #GBSLSaga

2018-10-20 01:41:37
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「例えば彼は、僕の軽く二倍ぐらいは力持ちだ」騎士は見張りを務める巨漢の戦士を振り仰いだ。「そして、君ほど狙い通りに矢を飛ばす事はできないし、森を静かに歩くことも出来ないだろう」正面から賞賛された狩人は、居心地悪げに目を泳がせた。 73 #GBSLSaga

2018-10-20 01:47:28
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「そしてもちろん、僕は魔法を使えないし、魔物の知識もそう多くはない…」「その分ですと自分はどうですかね?」後方の警戒をしている禿頭神官がからりと笑いながら声を掛けた。「うーん、見た目が明るい?」「こりゃ剃っているだけですよ!!!」 74 #GBSLSaga

2018-10-20 01:54:13
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「冗談だよ。…うん、奇跡を使えるのは君だけだし、こうやって話を緩ませるのも中々真似できないね」少年騎士は掛け値なしに破顔した。「うん、僕の良い所も見つけたぞ。仲間運だ!なにせ皆、僕より凄い奴ばかりだからね!」 75 #GBSLSaga

2018-10-20 01:58:34
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「…よくそんなに人を臆面もなく褒められるもんだわ」ほんの少しだけ、顔を赤らめて女狩人は腰を上げた。「…そろそろ行きましょ。あんまり緩んで奇襲食らうのも馬鹿らしいし」 76 #GBSLSaga

2018-10-20 02:03:38
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

焚火は消され、冒険者達は即席の野営を引き払った。赤毛術士が頭を掻きながらまた松明に火を灯し、背に声を掛けられた斧戦士は仲間たちを振り返って無言で頷く。 77 #GBSLSaga

2018-10-20 02:08:24
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

小鬼たちの影はなかった。入り口で見つけた大きな足跡の主も、今の所見当たらない。それはつまり、危険の多くは、洞穴の奥で彼らを待ち構えている、ということであった。 78 #GBSLSaga

2018-10-20 02:11:53
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

まだ見えぬ不吉の気配に寒気を感じながら、女狩人は再び先頭に立ち、洞穴の闇に目を凝らした。 79 #GBSLSaga

2018-10-20 02:15:11
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

卍 カーテン・フォールズ・オン・ア・ナイト・テイル#2 中断 卍 #GBSLSaga

2018-10-20 02:19:02
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

卍 カーテン・フォールズ・オン・ア・ナイト・テイル#3 中断 卍 #GBSLSaga

2018-10-20 02:19:35
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

卍 ナンバー打ち間違いはケジメ案件な すまない ほんとうにすまない 卍

2018-10-20 02:20:11
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

狭路を行くことしばらく、冒険者たちは小鬼たちの根城と思しき広場、その手前まで辿り着いていた。曲がり角の向こうから、耳障りな小鬼たちの狂騒が響いている。 80 #GBSLSaga

2018-10-21 19:19:42
フルバーニアン木馬 @fbwbxksb4awhxu

「……最悪だ」地に耳を付けて足音を探っていた狩人が、顔を青ざめさせて身を起こした。どうした、と脇に立つ斧戦士が声を掛ける。狩人は手を振り、二人は数歩下がって一党の元に戻る。 81 #GBSLSaga

2018-10-21 19:20:55