松倉くん

yui @kn_km_ym

月一の買い物でふと見たピンヒール。反射したショーウィンドウで目が合う。咄嗟に逸らしてしまったの、ダメだったかな。何でもなかったかのように振る舞うけど、松倉くんはわたしの足元を見つめて気まづそう。全然、気にしなくていいのに。そう言えば初めて会った時以来、ヒールを履いていない。

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「系統が変わったの」と、カジュアルな服装にスニーカーが最近の定番。意識的に彼の身長を抜かさないようにしている。松倉くんは気にしいだから、なかなか言えずにいるけれど、バレてるのなんとなくわかってる。「ごめんね、スニーカーばかり履かせて」困り顔でこちらをを見つめてくる。

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「あのね、宇宙規模で考えれば同じなの、わたしたちみんな」突然始まった訳のわからない話に混乱する顔。気にせずに続ける。「空からの距離とか、そういうので考えれば大きいも小さいも関係なくって。それにわたしは、背が高くても低くても、松倉くんのこと大好きだからね？」男らしいところ、気遣いが

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できるところ。好きなところを挙げればキリがない。同じ目線で隣を歩けることも、キスする時にかがんだり背伸びをしなくていいことも、全部心地良い。わたしの言いたいことがなくとなく分かったのか、ふっと照れたように笑う。「そういうとこ、助かる。ありがとう、」と呟く。気にしたって松倉くんの

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背が伸びるわけでも、わたしの背が縮むわけでもない。あれ、横顔が照れている。かわいいなあ、もう。「なあに、そんなじろじろ見て」「ううん、なんでもないよ」身長差がなくたって、一緒にいられるだけで十分なんだ。「例えばね、突然呼ばれて舞踏会に行くとしても、」

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また始まったみたいな顔をする。「わたしはヒール履かないよ、ぺったんこの靴で行く。それに踊る時に転んじゃうかもしれないし」「つまりそれって、俺と行く前提？」うん、そうだよ当たり前じゃん。真顔でそう言えば、吹き出して笑い出す。こっちは至って真面目なのに。踊りの練習しなきゃだね、と

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まだ面白いのか笑いながら言う。こんな風にいつもそばにいてほしいなあ。大きな身体じゃなくたって、広げた腕に抱きしめられる心地良さを知っている。きっと今夜は二人して、ワルツを踊る夢でも見るのかもしれない。#トラジャで妄想

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ハタチ、と聞いた時、当時の自分と重ねてしまって、こんなにしっかりしていたかな？と感心してしまった。そのくらい、松倉くんとは年の差を感じないでいる。「どうした？」とコーヒーを飲みながら聞かれる。「おかわり入れてくるね」ソファから立ち上がると俺がやるよ、とマグを取られる。こだわりが

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あるみたいで、今まで飲んでいたのは何だったんだと思うくらいに美味しいコーヒーを入れてくれる。「海斗くんのが一番美味しいよ」と前に本気で言ったのに、照れるからやめて、と言われてしまった。待っている間に次選んでおいて、と言われたのでDVDの棚を眺める。どれも面白そうだから、うーんと

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悩んでしまう。「これとかどう？」戻って来た海斗くんが長い指でタイトルを指す。「観たことあるかも、、」と必死で記憶を辿ると、そう言えば元彼と映画館に観に行ったものだと気がつく。ハッとして気まずそうな顔をすると、怒らないから言いなさいと言われる。正直に話すと笑われる。「俺はそんなの

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気にしないけど？」と軽く言われるから驚く。全くもう、適わないや。精神年齢、絶対わたしより高い。「記憶の上書きする？」とふざけるから慌ててその手を止める。こんなにたくさんある中でわざわざ選ばなくても。「観たことないのがいいの！」とふてくされると、ごめんごめんと違うものをピックアップ

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してくれる。先に座っててと言われるから、入れてくれたコーヒーを飲む。やっぱり美味しい。満足そうな顔をしていたのか「入れ甲斐があるわ」と頼もしい表情。はやくー！とソファの隣を叩く。はいはい、と笑いながら座る。腕を絡ませると、何の匂い？と手の香りを嗅がれ、「ハンドクリームかな？」と

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言えば大人の女の人の匂いがする、と。サラッと前髪が手に当たる。「ドキッとした？」と聞けば、ちょっとね、と小声。かわいいなあ。嬉しくて抱きつくと、わ！ちょ、危ない！と怒られる。コーヒー持ってること忘れてた。それでも目尻は下がっている、くしゃりと後ろ髪を軽く握られながらキスをされる。

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足先がちょん、と触れる。もう1回、とねだると薄ら笑いながらしてくれる。こんなにも肩の力を抜いて隣にいられること、幸せだと感じる。曖昧な言葉で傷つきたくないし傷つけたくもない。まっすぐにありのままでいようと思う。それは海斗くんがとても穏やかでいてくれるから。ずっととめどなく溢れる

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想いが変わらずにあればいいと思う。こんなふうに触れられる距離で、いつまでも甘えていたいなあ。コーヒーの香りを吸い込む。心が落ち着く。映画が終わったら、もう一度キスをねだってみようと考える。繋がれた手が再度握られるから、海斗くんも同じ気持ちなのかもしれない。#トラジャで妄想

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天気が良いのに、室内にいるなんてちょっと贅沢だね。と言えば「〇〇ちゃんがお家デートしたいって言ったんでしょ？」と笑われる。わたしが雨女なのか、外で会うと降られる確率が高い。相合傘できるから、それはそれでいいけれど。「こんなに晴れるなら前回のデートと交換してほしいなあ」と言えば、

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何？俺の部屋行くのやめておく？と意地悪を言われる。「、、行くもん」と言えば満足そうな顔。松倉と書かれた表札。どうぞ、と部屋に通される。綺麗にしてる、と呟けば「そりゃ掃除するよ」と。座ってて、と言われても何かしないと、と海斗くんの周りをうろつく。「んー、じゃあコップ出してくれる？」

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綺麗に整頓された食器棚。「物が少ないね」一人暮らしなんて、こんなもんでしょ。ふーん、そっか。「コーヒー、紅茶、後はジュースならオレンジがあるけど」手土産に持ってきたケーキに合わせて紅茶にする。「ケーキ持ってくるなんて女子だね」女子ですけど？と首を傾げる。「あ、いやそうじゃなくて。

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俺的にはこういうの新鮮だから」と照れる。年上なのに、こういう可愛いところがあるから困る。初めてお邪魔するからちょっと奮発して、高いものを買ってきて良かった。「髪巻いたの？」と毛先を触られる。いつもはストレートだけど、気分を変えてみた。どう？と上目遣いなんかしてみると「似合ってる」

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と、髪に顔を埋められる。いい匂いもする、と至近距離で聞こえるから心臓が速くなる。なんでもないように「冷めちゃうね、ケーキも食べよっか」とキッチンから離れるけど、ドキドキさせた責任を取ってほしい。食べ終えたら反撃開始の午後4時。#トラジャで妄想

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「え？バカなの？」呆れ顔で言う松倉くん。どうせバカです･･･と机に伏せる。彼女のいる先輩に、酔った勢いで告白してしまった。結果はもちろん撃沈。しかも丁寧に「ごめん、嬉しいけど、、」と傷つけないように断られたから痛い。「だから、言ったじゃん。やめとけって」そんなこと言われても遅い。

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「もういい！しばらく恋はしない！」失恋と二日酔いで気持ちが悪い。先生遅いなあ、今日休講じゃないよね？ノートでも取り出すか、とカバンをガサゴソと触る。「ってかさ、サークルどうすんの？気まずいじゃん、どう考えたって」そうだ、すっかり忘れていた。フラれたことなんて、絶対に広まっている。

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「泣きたくなってきた、、」辞めようかなあ、サークル。教室にいる人たちが席を立ち出した。え、嘘。休講じゃん。暇になってしまった。「、、俺んとこ来る？」へ？と言えば、サークル辞めるなら来る？と聞かれる。「待って、松倉くんって」「演劇部」無理無理無理！「わたし演技なんて、小学校の学芸会

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以来やってないからね？」大丈夫だって、演技以外にも裏方の仕事とあるから。となぜかノリノリな松倉くん。「ねえ、もしかして人手が足りなくて誘ってるとか？」「まあ、それもある」よし、休講になったし、部室行こ。と手を引かれる。「え、ちょっと待って！」慌ててカバンを持って教室を出る。確かに

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時間はあるけど、そんないきなり「まあまあ、見学だけだから。そんな怖がんなって」演劇部なことは知っていたけど、実際に舞台に立つ姿を見たことはない。ちょっと見てみたいかも、、この後入部させられ、松倉くんの恋人役をすることになるなんて、この時はまだ知らない女の子でした。#トラジャで妄想